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三週目ノ九



*金曜日




「は?何、この状況………。」



「喋るな!私語は認めて無いぞ!」



「手を一ミリでも動かしたら敵対したと見なすからな!」



 そう言って、二人の男が俺を抑えつける。


 両手に花無らぬ、両手に警官。しかもかなりゴツい奴ら。


 片方の警官が、俺の両手を拘束する。拘束に使用されたのは普通の手錠では無く、体内から魔力を放出することを防ぐことのできる特注素材仕様の手錠。要するに、魔法を使えなくする手錠だ。


 但し、この手錠ぐらいだと俺の魔力を抑え込むことは難しい。少し多めの魔力を込めれば魔法を使うことができる。だからといって、警察の方々に抵抗する気は無いが………。


 現在の場所は家の玄関から直ぐの場所。徒歩三歩のところである。



 俺は朝、気分転換に散歩に出掛けようとしたら、数十人に囲まれた。服装からして、警察官。それも、テロ対策などのための装備をガチガチに整えている。あまり詳しくないから定かでは無いが、機動隊と呼ばれる人達だ。


 警察官、それも数十人。只事では無いと思い、大人しく指示に従っているが………。


 周りには複数の車両。パトカーだけかと思った。が、違った。パトカー達の後方には何故か戦車もある。よく見れば警察官に紛れて軍人さんもいる。誰と戦争する気なのだろうか。俺、なのか?


 マジで意味が分からない。呆れて空を見上げると、今度は絶句。


 なんと空には、回転翼で飛ぶ航空機があった。しかも、音がしないことから消音魔法を常時使用している。あれってたしか、魔王対策として開発されたやつじゃ………。


 何?


 俺いつから魔王になったの?


 ていうか、絶対何か誤解されているよね!?


 だって俺何も悪いことしてないもん。たぶん………たしか………してない!………よね!?


 よし。まずは誤解を解こう。そう思って右隣にいるゴツい警察官に目を向けたのだが………


カチャ………


 銃口は頭。装填されしは恐らく実弾。特に身構えられたりはされ無かったが、その目には明らかに殺気が籠もっていた。目を向けただけなのに……。


 俺は慌てて目線を逸らす。すると、右隣にいる警察官は銃を下ろした。


 空を飛ぶ魔王対策の航空機。通常の事件では出動しないであろう人員とパトカーと戦車の数。心当たりは無いのに何故か警戒されている僕チン。


 朝っぱらからこんな状況に陥れば、誰もが思うだろう。例えそれが【世界最強】だとしても……。



「は?何、この状況………。」



「喋るな!私語は認めて無いぞ!」



「本部から処分許可は下りている。次は無いと思え!」



 この日の朝、到底一人の犯罪人を運んでいるとは思えない程の厳重な警備の元、囚人護送車が王都の大通りを通ったとか、通らなかったとか………。




☆☆☆☆☆





 囚人護送車に乗せられて揺らされること三時間。時速がかなり出ているためか、魔法によってスピードを速くしているためか、乗り心地は頗る悪い。俺は拘束されているし、監視されているからあまり身動きが取れない。


 そのためか、お尻が既に限界を突破していた。最早、お尻の感覚が無い。俺が風魔法で飛べばお尻が負傷することもないし、四分で着くものを……。


 そうして辿り着いた場所はまさかのマカール王国軍事省総本部。収容所や首切り場で無いことに安堵する。


 俺はまだ死にたくない。だから、生きるためなら多少の犠牲は目を瞑る。でも、同じ種族、しかも自国の人間を手に掛けるのは流石に躊躇する。だから、拘束されている身とはいえ、命の危険性が無い間は反抗しない。俺は偉いのだ!



 相も変わらず、両隣を警察官に挟まれて俺は軍総本部の中に入る。勿論、両隣だけでなく、前後左右、四方八方に人がいる。全員、焼き殺さんとばかりに俺に熱い視線を向けちゃって。モテる男は辛いぜ!


 …………本当に辛い。精神衛生上とても良くない。常に殺気の籠もった目で監視されているのだ。嫌でも緊張するし、微小だが恐怖も抱く。



「何事なんですか?」


「なんでも、かなりの大物を確保したらしいですよ。」


「おいおい、機動隊の中には聖騎士も混ざっているじゃないか!」


「キャッ。奴と目があった!」


「気をつけた方が良いわよ。機動隊がこんな人数で護送するなんて、魔王幹部並みよ。」


「マカール王国最高峰の兵士、聖騎士まで駆り出される程なんて…………。」



 軍総本部に入った瞬間にこの始末。囁き声は途切れることを知らないのか、次から次へと紡がれていく。



 軍総本部は十階建ての大きな建物だ。そのため、当然のように自動昇降機がある。俺はそれに乗せられて、最上階である十階で下ろされた。


 そうして、暫く歩かされて着いた場所は取り調べ室。広くもなく、狭くもなく。そこは、純粋な取り調べ室だった。椅子に座らせられると、俺を護送していた人達は去っていった。



「これはもしや、この間に逃げて良いとかそういう……」



「悪いが、そういう訳では無い。」



 護送していた人達と立ち代わりにやって来たのは、一人のお偉そうな格好のジジイ。


 だが、ジジイだからといって甘く見てはいけない。警察官がよく着ているスーツにはシミひとつ無いのに年季が入っている。その服の下にはどれほどの時間が経とうとも衰えることの無い肉体が。


 更に、白髪が混じり始めている黒髭には威厳が感じられた。その髭も短く切り揃えられている。


 そして何よりその胸元に飾られているものは……



「英雄証………」



 俺が素直に驚くほどの物がでてきた。


 それは、それほどの価値があるものだ。



「ほう、英雄証を知っているのか。今回の犯罪者はたいしたもんだ。」



 !?


 しまった!失言だった。そもそも、英雄証は国家機密どころの話では無い代物だ。恐らくこの国でも知っている人は十人もいない。


 当然のように、荘厳な雰囲気を漂わせるジジイは部屋の扉を閉め、俺と対面の位置にある椅子に座る。


 丁度、俺とジジイが向かい合っている状態だ。このことから導き出せるシナリオは……


 今、考えられる限り最悪だ。


 俺は分かっていながらも僅かな希望を胸に、問う。



「ということはもしや………。」



「そうだ。私がお前の取調官だ。」



 ぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!!!


 ヤバいヤバいヤバい。これはヤブァい。


 本格的にヤバい。俺がいくら世界最強とはいえ、この状況はヤバい。今すぐここから逃げたい。


 とはいえ、俺は逃げ出すことはできないだろう。俺が魔法を使うために手錠を壊そうとした瞬間に、恐らく目の前の御老人は俺を殺そうとする。


 普通の人だと俺の返り討ちにあうだろうが……この英雄証を身につける男は俺が魔法を使う前に俺を殺す。


 そのぐらいの技量を持っている。英雄証とはそういうものなのだ。


 俺がジジイの様子を注意深く観察していると………。



「さて、それではまず………。」



チリンチリン


 丸太のように頑丈な腕で呼び鈴を鳴らした。ん?呼び鈴?


 何故に…………?



 その答えは、一分経つことなく分かった。もちろん、その一分が経過する間は両者とも終始無言である。


 ジジイと狭い部屋で黙りこけている。


 気不味さはマックスである。


 そんな悪臭漂いそうな雰囲気をブチ壊してやろうと血気盛んにやってきた救世主は…………


 先程俺を護送してくれた人……護送しやがった奴だ。取調室の堅牢な扉を開けてやってきたそいつの手には………



「カツ丼!!!」



 定番といえば定番の食材がそこにあった。何故か取り調べ室で見るカツ丼は輝いて見える。朝御飯を食べていなかったというのもあるのだろうか。


 あ、でも……



「あの、すいません。このままではカツ丼を食べれません。暴れないし魔法も使わないので手錠を取って貰っても良いですか?」



「ん?青年よ。何か勘違いしていないかい?これを食べるのは私だ。」



「な、なんと!」



 目の前のジジイは言うのだ。これは俺の分では無いと……。俺は美味しそうに食べているのを見ることしかできないと………。


 地獄の窯が煮えたぎるように食欲と物欲とカツ丼欲が湧き上がってくる。


 相手が英雄証を持っていなければ俺は人を殺めてでもカツ丼を手に入れていたところだ。だが、目の前にいるのは英雄証持ちのジジイ。喧嘩を売るのはチョイとまずい。


 だから、俺は辛うじて暴れてカツ丼を奪うのを我慢した。滅茶苦茶、我慢した。それはもう、天界より高く、海底よりも深い怒りを抑えつけて………。



「うん。美味だな!」



 く、くぅう!が、我慢だ!理性で抑えつけるだ、俺!


 ほ、ほら。端の机で書類を広げている、カツ丼を持って来やがった野郎でも見るんだ。意識を逸らすんだ。


 こうして俺は目の前のジジイ……いや、クソジジイがカツ丼を食べ終わるのを待った。このクソジジイ、わざとなのかゆっくりと魅せつけるように食べやがって……。


 手錠が取れたら絶対にイタズラしてやる。私室の机の中に虫をたくさん入れてあげるんだからな!!!


 クソジジイはカツ丼を食べ終わると、傍に備え付けてある緑茶を飲む。



「ふー。さて、それでは取り調べを行うとしよう。」



 クソジジイがそういうと、カツ丼を持って来やがった野郎が取調室の部屋の隅の方にある机に座る。書記係というやつだろう。



「えー、それではまず、あなたの罪状を述べます。」



「!!それ、速く教えて下さい!」



 俺はまだ肝心なことを知らなかった。一体どんな理由で連行されたのだろうか。悪い事はしてないし、法律も遵守してますし。



「あなたには超危険物作成、損傷罪、テロ疑惑などなど、いろいろ罪状が出ています。」



「そ、そんなに!」



 全く心当たりが無い。初回演習の後、ゴーレムは全て壊しましたし、極大魔法を使うときも人がいないことを良く確認したので損傷を与えることもないでしょうし……。テロなんてやろうと思ったこと一度もない。


………はずだ。


 俺は何もやっていない。ということは……冤罪!!!



「あの、俺に見に覚えが無いことばかりなのでもしかしなくても人違いではないですか………?」



 クソジジイは少し考える素振りを見せ、部屋の端にいるカツ丼を持って来やがった野郎に目配せをした。すると、カツ丼野郎が紙束をクソジジイに渡す。この事件についての資料だろう。クソジジイはそれを見せて、爺が孫に自慢話をするように言う。



「これを見ても、心当たりが無いと言えるのかい?」



「そ、それは!」



 紙束の一枚目に貼り付けられていたのは一枚の写真。その写真には、悲惨な状況が写し出されていた。


 幾つもある破壊痕。多くの傷ついた人々。治療に勤しむ緊急救命医の方々。


 そして、何よりも俺の目を引いたのはゴーレムだった。あれは、明らかに俺が作った奴だ。


 初回演習のときのゴーレムは全て極大魔法で塵一つ残すことなく消滅させている。では、写真に写っているゴーレムは何なのか……。


 俺は『初回演習』のときのゴーレムは片付けた。だが、写真に写りしは俺が作ったゴーレム。


 そう、写真に写っているゴーレムは、『初回演習』の後に俺が作ったゴーレムだ。


 つまり、初回演習の翌日、演習用に作った俺の指示で動く超高性能ゴーレム……それが写真に写っているものだ。


 となると、かなり不味い。俺はあの日、あのゴーレムを破壊し忘れていた。それが暴走して多くの人を傷付けたとなると……罪を償わなければならない。



「ふむ。やはり、何か知っているようだな。」



「む、むむ……………。」



 俺がゴーレムを作ったことを確信しているのか、クソジジイは遠回しに告白させようとしてくる。もし、俺が罪を認め無かったとしても、恐らく証拠があるだろうから俺は牢屋行きになるだろう。



「さあ、速く吐いた方が楽になるぞ。」




 え?でもまてよ。


 あれはただのゴーレムではない。俺が丹精込めて作ったものだ。ホムンクルスと言っても過言ではない程のできなのだ。


 当たり前だが、いくら生徒の訓練用に作っているとはいえ、無差別に攻撃して被害を出すようにはプログラムしていなかったはず………。むしろ、怪我をしている人がいれば治癒魔法で癒やすようにしていたはずだ。


 そんなゴーレムが暴れる?そんな訳ない。


 何かがおかしい。


 そう、何かが………。


 なんだろう………



「さあ、速く吐いた方が楽になるぞ。」



 クソジジイがペラペラと紙束を見せびらかす。どうやらお眠の時間らしい。欠伸をしてやがる。


 ここで憎まれ口の一つや二つ、叩きたいとこだが………


 これ以上、現状を悪くするのは得策ではない。



「その資料、見せて貰っても?」



「いいぞぉう」



 クソジジイは適当に紙束を放り投げる。俺はそれを受け取り、そこに書かれている文字や証拠写真を見た。何か手掛かりがありそうな気がしたのだ。



 一時間ほど経った頃、遂に俺は見つけた。


 どうやら、俺の直感は正しかったようだ。それは紙束を良く見ていなければ分からないような場所にしっかりと書かれていた。


 まるで、巧妙に隠されていたように、誰かを試すように。


 クソジジイと目が合う。クソジジイは鍛え抜かれた剛筋には似合わない、無邪気な目で、笑った。



全教科赤点回避記念

ということでいつもより長いです。

あ、これ前書きに書いた方が良かったかな……

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