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空は帰宅した。
着替えを済ませ夕飯の支度にとりかかる。
家には空とクニツル。陸は平野たちと遊んでから帰ると連絡を入れていた。
空は食材を切っていく。
しかし、不快な音が耳に入る。その音は、なにかを小さく叩く固い音。
「クニツルうるさい」
空はクニツルがなにかをしているのだと思い注意する。
「俺様はなにもしていないぞ。……しかし、なんだこの音は?」
クニツルはゲームアプリを閉じて、テーブルの上に立ち上がる。
「お前じゃないのかよ?」
二人は音の正体を探る。
その音は掃き出し窓から聞こえていることが分かった。
レースのカーテンの向こう。窓の外。
空は目を細めた。
「猫??」
窓の外には真っ白な猫がいた。子猫である。
猫は窓ガラスをひっかくように何度も爪を立てている。
まるで中に入れてくれと言わんばかりに。
空は掃き出し窓を開けようとする。
「空坊!! 待て!!」
クニツルが慌てたように空を止める。しかし、窓はすでに開けられていた。
「え!?」
空はすかさず閉めようとしたが、猫は数センチの隙間をするりと抜けてリビングに入る。
クニツルは震えながら空の体をよじ登る。
「クニツル?? どうした??」
「あばばばばばばば」
クニツルは空の頭の上であばばば言って怯える。
猫は空の足に顔をこすりつけている。
「可愛い猫じゃないか。迷子か?」
「かかかかかかか可愛い猫ですねぇぇ! 空坊さんー! だから早く外に蹴っ飛ばしてくれぇ!!」
空はクニツルの狼狽具合に疑問を感じた。
こんなに動揺しているクニツルを見たのは初めてであった。さん付けなど普段のクニツルはしない。
「お前猫嫌いだったの??」
「ねねねねねね猫は可愛いから好きだ。でででも、そこのは嫌いだ」
「はあ??」
空は頭に乗っているクニツルを掴む。
着信時など比にならないほどにバイブレーションしているクニツル。
「本当に姉さんはボクのこと嫌いだね」
突如聞こえてきた第三者の声。子どものような幼い女の子のような声。
「誰だ!!」
空は身構える。
その声はあまりにも近い距離から聞こえた。
空は朝登校する前を思い出す。
――どこから侵入された? 自分の部屋は窓をずっと開けていない。掃き出し窓は今鍵を開けた。家を出るときは鍵をしっかりかけた。陸の部屋からか?
でも、声の感じからして子どもだ。帰ってきたときは鍵閉めたしな。
クニツルが言う。
「そそそそ空坊――下だ下。ねねねねね猫だ」
空は足元の猫を見る。
「まさかー。猫が喋ったっていうのか??」
「そそそそそそのまさかだだだ」
金色の目をした猫。
空は『にゃー』と鳴くのを期待して見つめる。
しかし、その期待は裏切られた。
猫は後ろ足で立ち上がり、お辞儀をした。
「そうそうボクです。初めまして海山空さん。いつも姉がお世話になっています」
「…………」
空は思った。
こんにゃくも喋るし猫も喋るよな。と。
「キェェェアァァァネコガシャァベッタァァァ!!」
思考と発言が一致しない空。
「すみません。驚かせちゃいましたね。ボクも姉さんと同じで、今はこの猫の体を借りています」
「ちょっと待ってくれ。落ち着きたい」
「はい。どうぞ」
空はクニツルを握ったまま自室へ走った。
「クニツル!! なんだあの猫は!? 喋ったしお前を姉と言っている!! なんだ!?」
「おおお驚いているのは俺様の方だ!!」
「説明しろ!! お前を姉って言っているってことは、あいつも悪魔だよな!? この前にサキュバスがきたばっかりだろうが!! また俺はなんかされるのか!? 勘弁してくれ!!」
「おおおおおおおおおおおおおちつつつつけぇぇぇ」
「お前が落ち着けぇ!」
「ししししんこきゅうをししししようではなななないかぁぁぁ」
「「スゥーーーはぁーーー」」
二人は冷静を取り戻す。
「で?」
「あいつは俺様の妹だ。だが悪魔ではない。でも性格は悪魔だ。きっと俺様を殺しにきたんだ」
「妹??」
「そうだ。そしてこの前に言っていた俺様が最も嫌いなやつであり、記憶の再生をできるやつだ」
「なに!? いやまて。殺しにきた?」
「おそらくな。姉妹でありながら敵どうしなのだ。理由は言いたくない」
「……どうすればいい?? お前を差し出せばいいのか??」
「俺様はまだ死にたくないのだが。というか空坊は俺様をそんな簡単に見捨てるのか??」
「ああ。金がかかるからな」
「――ぐっ」
「嘘だよ。――とりあえず消された記憶をなんとかしてもらおう。クニツルから頼めないのか?」
「殺されるぞ??」
「お前も殺すくらい強い悪魔なんだろ?」
「俺様は強いぞ」
「でもこんにゃくだ。あいつは猫。殺されるか??」
「…………」
「よし。頼みに行こう!」
空はドアノブに手をかける。
「まままままままってくれ!!」
「うるさい!」
空は暴れるクニツルを握力でねじ伏せ、リビングへと向かう。




