33
住宅街にある小さな公園。
海山家からすぐ近くのここは、小学生に人気のスポット。
今も遊具で少年少女が遊んでいる。
公園の端には囲いのついた休憩場。
囲いには蔓植物が巻きついている。中央に大きなテーブル。それ囲むように置かれた背もたれのないベンチ。
休憩所には六班メンバーとこんにゃくがいる。
「なるほどね。許せないわ」
湊は大きな胸を押さえるように腕を組み、片手を顎に当てて言った。
小清水は垂れ目がつり目になっている。
竹田はクニツルを物珍しそうに観察している。
川谷はつぶやく。
「陸ちゃん……」
「これが俺の知っている全て。陸は性格上絶対に俺たちには話してくれないと思う。あいつは変なとこで気を遣うからな」
川谷は半眼にして空を見て言う。
「さすが兄妹ね」
「――な!?」
クニツルを解放した竹田が口を開く。
「しかし、なんだか仲間外れにされてた気分ですよ。川谷さんの手料理を自分だけ食べたことがないなんて」
小清水が間髪入れずに言う。
「彼女いるのが悪い。彼女とすぐに帰るのが悪い。彼女といつも昼休みどっか行くのが悪い」
竹田以外の皆頷く。
「ぐっ――。今度教室に連れてきますね。で、皆で食べましょう」
「それはそれでうぜぇな。でだ、本題はそこじゃない。美少女をいじめたクソヤロー共をどうするかだ。海山はなんか考えとかあるのか?」
「……正直ない。それに相手がどんな奴らか分からないし。髪の色と不良ってことくらい」
竹田がテーブルに乗り出した。
そして、ブレザーの内ポケットから小さな手帳を取り出す。
「その女子グループ。桃木先輩、茶木先輩、金子先輩でしょうね。学校でも結構目立った存在ですし。
オレンジ頭の加藤先輩とも仲が良いです。恐らくですが間違いないでしょう。
話の内容から察するに。加藤先輩の告白を断り、それに腹を立てて女子三人を使って嫌がらせをしている。といったところでしょうか」
皆竹田の情報通具合に驚く。
そして川谷が言う。
「先生に言うのは?」
「それは殆ど効果がないでしょう。生徒指導室で説教程度。むしろ逆効果の可能性があります。チクったなと。そしてその矛先は……」
皆顔をしかめた。
休憩場に沈黙が訪れる。
各々いい策がないか思考している。陸に被害がなく、かつ相手を黙らせ反省させる方法を。
遊ぶ子どもたちの声。たまに通る車のエンジン音。電線にとまる小鳥の囀り。
そんな中小清水は空を見つめていた。
空は視線で気色悪さを覚える。
小清水は視線をそのままに口を開いた。
「なあ辞典君。その加藤って野郎はどんな奴だ? 性格。喧嘩っぱやいとかさ」
「自分が知っている限りでは、かなりの喧嘩上等キャラですね。性格は荒っぽいです」
「たとえばさ。こっちから喧嘩売ったら買うよな?」
「そりゃーそうでしょうね」
「海山妹に告白したんだし。もちろん女が好きだよな?」
「ええ、そりゃもう。気に入った女子はなんとしてでも自分のものにするタイプです。今学期に入ってすでに六人には手を出しているようです。
かなりの女好きらしく、つるんでいる友達は皆女性です。男子とは仲良くしないようですね」
竹田はペラペラと手帳をめくりながら言った。
皆手帳の中身が気になりのぞき込むようにする。しかし、手で遮られる。
ここで小清水は空から視線を外す。そして立ち上がる。
「俺閃いたっぽい!」
****
次の日。26日朝のホームルーム前。
空は皆にクニツルレポートを提出していた。
これは昨日の帰宅後にクニツルが陸の記憶を深く読み取った記録である。
内容は、体育の授業でのラフプレー。以前に足を引きずっていたのはこのせいだと分かる。
これは告白を断った次の日に行われていた。
そして時間は進み昼休み。
小清水の閃いた作戦を実行するには、まだ情報が足りなかった。
まず、加藤と女子三人が今回の件での共犯者かどうか。もし関係がなければ、悪いのは女子三人。
次にD組の共犯者だ。ラフプレーを行っていた人物。この人物を特定すること。
六班メンバーは三組に分かれた。
空とクニツル、川谷組。この班は加藤と女子三人が共犯者かどうかを暴く。
小清水と湊組。こちら二人は聞き込み。フレンドリーに話せるという武器を使ってD組の状況を探る。そして息のかかった者を暴く。
最後は竹田。特殊な情報網を使ったさらなる調査。物資の仕入れを行う。
空クニツル川谷組。
二人とこんにゃくは三年生の教室棟手前にきている。ここは階段の踊り場。
川谷はクニツルをブレザーの胸ポケットに忍ばせる。顔は無表情。
「川谷さん。準備はオーケー?」
「いつでもいける」
川谷は一人階段を上がっていく。空はそれを見守る。
廊下は騒がしい。
購買に向かうために走る者。あぐらをかき弁当を広げている者。立ち話しをしている者。
高校生活に慣れ頂点にいる学年独特の雰囲気。
そんな中を進む赤リボンの一年川谷。
しかし、三年は誰一人として川谷の存在に気づかない。
空は心配なのか、顔だけを覗かせ様子を覗っている。
川谷はどんどん進み、目的の人物を発見する。
オレンジ髪が目立つ加藤である。加藤は教室の中で席に着いていた。足を机に乗せ椅子を傾かせている。
教室には他にもたくさんの生徒がいる。
川谷は気にせず教室に入る。
クニツルは小さく知らせる。
「あいつで間違いない。小娘の記憶で見た」
川谷はそこでしばらく直立した。
なぜ気づかれないのか。
それは川谷の特殊能力である。ボッチ属性をコンプリートした際に得ることができる能力『インビジブル』。
これは己の存在を一切外に漏らさない。周りからは空気にしか見えない。と川谷は語る。
さらに川谷はボッチについて後にこう語っていた。
友達はいないんじゃなくて作らないだけ。教科書忘れても自分のせい、隣の人に見せてもらうなんて甘え。
二人ペアを組むときは先生と組め、こっちの方が贔屓してもらえる。と。
小清水はこれを聞いて涙を流したという。
五分が過ぎた。
川谷は直立を続けている。しかし顔が少し険しくなる。
「クニツル。まだなの?」
川谷が小声で訊くが返事はない。
クニツルは記憶を見ている際、無反応になる。川谷はこのことを聞いてはいたが、焦っていた。
いつもよりインビジブルの効果時間が短くなっているのだ。
理由は知っていた。もうボッチではないからだ。
三年生の一人と目が合ってしまう。
三年生は首をかしげる。
「ん? そこに誰かいるのか?」
三年生は立ち上がり歩みを進める。
川谷は目を瞑り覚悟した。
一歩。また一歩と近づく。
「――お嬢ちゃん。完了だ」
クニツルの声が小さく聞こえた。
川谷は特技のムーンウォークでスーっと教室から離脱し走った。
階段の踊り場には空の待つ姿。
「海山君! オッケー! 逃げよう!」
「お、おう」
二人とこんにゃくは走って一年の教室へ戻る。
クニツルはつぶやいた。
「――あいつらは黒だ」
と。




