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草原にて……十二の精霊召喚、そして

「どれだけ騒いでも文句が言われない、それでいて広い場所ないかのう?」


エルヴィラさんが精霊使いの力を取り戻した日の夜、突然アルジュナさんに聞かれた。エルヴィラさんはもちろん僕もこの辺の地理には疎いので答える事が出来なかった―――僕はつい最近まで離れから出得る事が出来なかったためだ―――だからフィーナ姉に頼る事になる。フィーナ姉はしばらく考え込み、アルジュナさんに質問する。


「それは室内でないとダメなんですか?」


「人に見られたくないんじゃが、人に見られないなら別に屋外でも構わん」


「だったらいい所がありますよ……」


そんなやり取りもあり、翌日僕たちは離れから数時間ほど歩いたとある草原に来ていた。草原以外はどこまでも広がる空しかない穏やかな場所。暑くもなく寒くもない適度な気温、風も穏やか。力を取り戻したエルヴィラさんを祝ってのピクニックなのだろうか? フィーナ姉は地面に敷物を敷き始めている、エルヴィラさんはそれを手伝っているのだが、アルジュナさんが石像(仮)から待ったをかける。ちなみに今回石像(仮)の運び役は僕になっている。


「ちょっと待て、お主ら。ここに何をしに来たと思っとるんだ?」


「何をしに来たってピクニック?」


「お祝いじゃないんですか? エルヴィラさんの?」


僕とフィーナ姉は首を傾げながら言う。


「私のお祝いなんですか? 嬉しいです……」


エルヴィラさんが照れながら微笑む。それを聞いてアルジュナさんが悩むような唸り声を上げる。


「ウウム……済まぬ、エルヴィラ。ここに来たのはお祝いではないのだ。ワシがやる事がうまくいけばそれも合わせてお祝いになるんじゃがの……」


「そう言えば聞いてなかったんですけどここで何をやるつもりなんですか?」


僕がそう問うがアルジュナさんはそれに答えてくれなかった。


「フィーナよ、ワシらから十、いや二十歩程向こうに歩いてはくれんか?」


「? 何でですか、アルジュナ様?」


「何も聞かずにワシの言う事を聞いてはくれんか?」


アルジュナさんは石像(仮)の中かからフィーナ姉に指示する。今日はアルジュナさんが全く姿を現していない。何かおかしいと思い僕はフィーネ姉を止める。


「ちょっと待って、フィーナ姉……アルジュナさん、フィーナ姉に何をするつもりなんですか?」


「……悪いようにはせん。信じてはくれんか?」


アルジュナさんの声に苦渋が含まれる。いよいよただ事ではない。はっきり聞くまで何もやらせるべきではない。


「アルジュナさん、何をやろうとしているのか教えて下さい!! そうでないと僕は賛成できません!!」


語気を荒げる僕に無言で答えるアルジュナさん。僕は石像(仮)を目の前に持っていき睨みつけるが、石像(仮)を睨みつけてもイマイチ恰好が付かない。それを見て含み笑いをするフィーナ姉。つられてエルヴィラさんも笑う。


「カイル君、落ち着こうよ……アルジュナ様、今から私に何かしようとしているようですが、それは私に不利になるような事なんですか?」


「それはない……それどころかお主を悩ませている事を解決する事が出来る。それは絶対じゃ!! 約束する!!」


「それなら私が言う事は何もありません……お姉ちゃんはいいって言ってるんだからカイル君は反対しないでね」


「でも……」


「私も大丈夫だと思います」


そう言って僕の右手を優しく握るのはエルヴィラさんだ。即座にフィーナ姉がエルヴィラさんの手を叩き、僕から引きはがす。ついでに威嚇するのでエルヴィラさんは引きつった笑みを浮かべて引き下がる。


「ええと……リリちゃんもアルジュナさんの事とても慕ってますし……優しいおばあちゃんみたいだって。リリちゃんが慕ってる人がひどい事するとは思えません」


ちなみにリリちゃんというのは妖精のリリオの事だ。


「ほう……」


石像(仮)から怒りの波動が沸き起こる。


「ワシの事をばあちゃんとな……リリには色々と言いたい事が出来たのう。リリオや、ちょっとこちらに……」


「リリちゃん、逃げて!!」


エルヴィアさんから離れる氣が感じられた。恐らくリリオなのだろう。


「アルジュナさん、落ち着いて。大人げないですよ」


「エエイ! 黙れ!! どんなに年を取ろうとワシは永遠の乙女なのじゃ! それをババアなど言われては……」


もし姿が見えていたのならヨヨヨと泣き崩れていただろう。


「アルジュナ様が乙女かお婆ちゃんかはどうかはどうでもいいですから……私はどうしたらいいんですか?」


話が進まない事に焦れたフィーナ姉が話を切り替えに来た。


「どうでもいい話ではないわい!! ……最初に言った通りニ十歩程向こうに向かって歩いてくれ」


「分かりました……」


フィーナ姉はアルジュナさんの指示に従い歩き始める。僕は不安でフィーナ姉に声を変えるとこちらを振り向き笑顔を見せる。


「大丈夫だよカイル君……何をするのか分からないけどうまくいけばお祝いできるような事なんだからそれを楽しみに頑張ってくるよ」


そう言ってフィーナ姉は僕たちから離れていく。


「十八…十九…二十…アルジュナ様、これでいいですか?」


フィーナ姉はニ十歩目の所で立ち止まりアルジュナさんに問いかける。


「ウム、それでよい……では、始めるぞ」


この時初めて、アルジュナさんは石像(仮)から出てきた。アルジュナさんの格好がいつもと違った。アルジュナさんは胸と腰の周りを白い布を巻いているだけだった。さらけ出されている素肌には何やら文字の様なものがびっしりと書き込まれていた。ただ、その文字は僕が知っているどの文字とも違い読み取る事が出来ない。アルジュナさんの真剣な表情に僕は息を飲む。それ程の迫力がアルジュナさんにはあった。


「アルジュナさん、一体何を……」


「まあ、見ておれ……我らを守護する十二の精霊よ! 汝らの欠片の縁に従い疾く現れよ!」


この呪文によりエルヴィラさんの周りに十二の動物が出現する。鼠はエルヴィラさんを助ける時に呼び出したがそれ以外の動物もいる。これがアルジュナさんが使役する精霊なのだろう。


「十二の精霊よ! 疾く駆けよ! フィーナの元へ!」


十二の精霊は光となりフィーナ姉の元に向かう。フィーナ姉を囲い光の柱となりフィーナ姉を閉じ込める。急な事に驚き、フィーナ姉は光の柱に手を伸ばすとバチンッと弾かれ倒れてしまう。それを見た僕は頭に血が上り、アルジュナさんに手を伸ばし鷲掴みする。


「アルジュナさん!! 何をするんですか!? フィーナ姉に不利な事はしないと言ったじゃないですか!!」


僕は手に力を籠める。フィーナ姉に害をなすつもりならこのまま……。


「カイルさん!!」


僕のただならぬ雰囲気にエルヴィラさんが声を上げる。このまま握り潰すように見えているのかもしれない。


「……すまぬな、カイル。でもこれが済めば本当にお主が悩んでいる事が解決するんじゃ。信じてくれぬか?」


アルジュナさんは苦しげな表情で僕に訴えてくる。僕はアルジュナさんの真意を探る様に見つめる。アルジュナさんの必死な姿に嘘はないように思えた僕は手を開いてアルジュナさんを解放する。


「信じてくれてありがとう……感謝するぞ」


「何をするか分からないですけど……フィーナ姉を苦しめない様お願いします」


「スマンが……それは無理じゃ。何故なら……」


アルジュナさんが次に口に出したのは……。


「フィーナ・レイクスを縛る者! エル・クラボよ……」


フィーナ姉にかけられた服従の魔法の根幹をなす精霊の名前だった。




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