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服従魔法は解けるかも、仙道教授、僕はどんな顔をしているのだろう

部屋を綺麗にする事にかけてはフィーナ姉は求道者というべきか、とことんこだわる所がある。ここは私の戦場だとでも言うように離れの扉をパタリと閉められる。そうすると僕たちは手持ちぶさになってしまう。


「えっと……私たちどうしましょう……」


エルヴィラさんが遠慮がちに言う。


「ウーム……」


アルジュナさんが腕を組んで考える。エルヴィラさんはともかくアルジュナさんは暇なとき何をしているんだろう? 神様が余暇をどう過ごすか興味をそそられる。


「何もすることがないのう……寝てるか?」


何もないんですかと突っ込みたくなる。


「……だったらエルヴィラさん、少し暇つぶしに付き合ってくれませんか?」


「私が…ですか?」


僕は頷く。それにアルジュナさんが食いついてきた。


「カイル! お主、エルヴィラと二人でナニをするつもりじゃ!」


「何をするって?」


「そう言えば昨日はナニをやっとったのか結局聞いとらんかったの……二人で大人の階段のぼったのか!? 朝のコーヒーは二人で飲んだのか!? そうなったのは嬉しいがアチコチに手を出すのはどうかと思うぞ。こっちの国での結婚制度はどうなっているかは知らんが嫁は一人にしておけ!! 一夫多妻など体がもたんぞ!!」


アルジュナさんに早口でまくし立てられていると離れの扉が荒々しく開かれ、鬼の形相のフィーナ姉がアルジュナさんに向かって割れた皿の破片を投げつけてきた。それに気付いたアルジュナさんは咄嗟に魔力で防御壁を造り破片を防いだ。フィーナ姉が投げた破片はかなりの速度が出ており、防御壁に当たるたびにビリビリと震えていた。


「何をするんじゃ! フィーナ、危ないじゃろうが!!」


「カイル君に変な事吹き込まないで下さい!!」


「奉るべき神にその言い方はないじゃろうが!!」


「だったらもっと神さまらしくして下さい!!」


フィーナ姉はそう言うと扉を荒々しく閉めた。


「おのれ、フィーナ!! 後でみっちり説教じゃ!! 所でカイル……お主らもしかして何もなかったのか? こうピンク色の雰囲気になるようなことは?」


ピンク色……どういう事だろうと僕は考えながらアルジュナさんに答える。


「アルジュナさんが何を言いたいのかよく分からないけどピンク色というよりは……もっと荒々しい赤色と表現できる事はあったかもしれませんね」


「よく分からん、どういう事じゃ。詳しく話せ」


「ええとですね―――」


冒険者ギルドで絡んできた冒険者と戦闘になり、乗合馬車に乗れなかった事、その冒険者がフィーネ姉に服従の魔法を使ってきてフィーネ姉を戦闘不可能にしてきた為、一人で戦った事等を話した。


「フーム……なるほどのう。色事ではなく荒事があったという訳か……説教は勘弁してやろうかのう」


「お願いします。フィーナ姉も色々あって疲れてますから」


「フィーナに限らず獣人の体力は底なしじゃからそこは心配ない。それよりフィーナを縛る精霊の名前が分かったのは朗報じゃ。服従の魔法はこれで解く事が出来るぞ」


「本当ですか!?」


アルジュナさんが頷く。

魔法にもいろいろ種類があるがその中には精霊を使役する魔法がある。精霊を使役するにはその精霊が持つ真の名前を知る必要がある。真の名前を用いる事で精霊を縛る事が出来る。服従の魔法を使用した冒険者が唱えた『エス・クラボ』、これが精霊の真の名前である。アルジュナさんはこの名前を用いて精霊を呼び出し、自分の格の差を見せつける事で精霊自ら退かせるつもりなのだという。


「そんな力技で大丈夫なんですか?」


無理矢理引き剥がすような力技ではフィーナ姉にどんな影響が出るか分からなくて不安になる。


「まあ、大丈夫じゃろう。ワシに限らず精霊というのは力社会でな圧倒的に上の存在には逆らえんのじゃ。任せておけ!」


自信ありげに言うアルジュナさんをとりあえず信用しておこう。


「よろしくお願いします」


僕は頭を下げる。これで僕がこれから行う事の懸念材料の一つが消えてくれた。もう一つは……。


「エルヴィラさん」


「え、私ですか?」


僕とアルジュナさんの話についていけなかったエルヴィラさんは空に浮いている雲をボンヤリと見ていたので、突然名前を呼ばれて驚いている。


「さっきも言ったんですが暇つぶしに付き合ってくれませんか?」


「暇つぶしですか? いいですよ。それで何をするんですか?」


「そうじゃ、そうじゃ、エルヴィラと何をするつもりじゃ。ワシの目の黒いうちは変な事はやらせんぞ!」


そういえば僕がエルヴィラさんに変な事をするというアルジュナさんの誤解はまだ解けていなかった。


「ヘンな事って何ですか? 別に秘密にする事でも無し見ていても構いませんよ、アルジュナさん」


「ヌ……そうなのか? じゃったら見学させてもらおうかの」


アルジュナさんは興味をそそられたようだ。


「私、一体何をさせられるんでしょう……」


逆にアルジュナさんは不安げだ。


「大丈夫、簡単な事ですから……まずはこう手を合わせて少し熱くなるまでこすりつけて下さい」


エルヴィラさんは眼をパチクリさせながらも僕の言う通り手をこすりつける。


「そして両手を離して両手の間にどういう感覚があるか教えて下さい」


こすりつけた手を離して感覚を探るとエルヴィラさんが不思議そうな顔をした。


「何ですかこれ!? 変な、両手の間にフンワリした感覚がある!?」


「その感覚が分かる様なら次は―――」


僕は周りの石や木にもこういう感覚があるか探る様エルヴィラさんに指示する。エルヴィラさんは面白いと思ったようで積極的に氣を探っていく。


「カイルよ、お主……」


「分かりましたか。僕はエルヴィラさんに仙道の基礎を教えようと思っています」


「急にどうして教える気になったんじゃ?」


「エルヴィラさんには最低限、自分の事は自分で守ってもらえるようになってもらいたいからです」


小周天の行を行い特殊な精神状態になった時、僕はエルヴィラさんの友人だという妖精のリリオの存在を知り話をする事が出来た。エルフなどの精霊使いは僕とは違い容易にこの状態になる事が出来るんではないかと思う。この精神状態に常になる事が出来れば精霊使いとしての能力を取り戻す事が出来ると考えたのである。精霊使いとしての能力を取り戻せれば僕がこれから行う事の懸念材料がもう一つ減る。


(そうなれば僕はアイツを……)


「カイル!!」


いきなりアルジュナさんイ怒鳴られ僕は驚く。


「お主今どういう顔をしとるか分かっておるか?」


「どんな顔って……」


アルジュナさんが何を言っているのか分からず右手で顔を触る。


「わかっとらんのか? 危ういのう……カイル、お主が何をやろうとしとるのかは分からんがお主はもう一人ではない。誰かを悲しませるような事はしてくれるな。フィーナもエルヴィラもワシも悲しむでな」


僕が内面を見透かされて様でドキリとする。


「大丈夫です。フィーナ姉を悲しませるような事は絶対にしませんから」


僕は勤めて明るく言うがアルジュナさんは怪訝そうに見るばかりで僕の言う事を信用していないみたいだった。これからの行動には注意しようと思う。





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