ギルドに事の次第を報告する、人の情けが身に染みる。
路地を抜けて大通りに出た。魔法の明かりによる街頭があり道がよく見える。そして僕とフィーナ姉お互いの姿もよく見えた。僕はあちこち薄汚れてヒドイ恰好だがフィーナ姉は僕の比ではなかった。フィーナ姉は所々血に染まって真っ赤になっていたのだ。特に拳や膝がひどく血みどろだ。
「フィーナ姉!! 全然大丈夫じゃないでしょう。怪我だらけじゃないか!?」
「大丈夫ですよ。これはあの冒険者の返り血だもの」
(そこはニッコリして言う所じゃないよ、フィーナ姉……)
フィーナ姉の顔を見て気が付いた事がある。
「フィーナ姉、鼻から血が出てる」
「ブッ!? これは……」
フィーナ姉は慌てて鼻を手で隠す。血を隠さず鼻を隠す……何故に? 僕が怪訝な顔をしていると悲鳴が聞こえた。聞こえた方向を見ると女性がへたり込んでいる。顔色を変えフィーナ姉を怯えた表情で見ている。その悲鳴に人が集まってきていた。
「……フィーナ姉、ヤバいねこれ……」
「そうだね、カイル君……」
僕とフィーナ姉は顔を見合わせる。
「逃げよう!!」
フィーナ姉が頷くと僕をまたお姫様抱っこする。僕一人を抱えて屋根にまで一息で跳躍する。獣人の身体能力は人を大きく凌駕していると本当に思う。体力面で獣人に追いつこうとするなら魔法は絶対不可欠だ。こんな力を持っているとすると……。
屋根から屋根に移動するフィーナ姉に僕は恐る恐る尋ねる。
「あの冒険者、殺してないよね……?」
「私が攻撃に入る前に強化の魔法を自分にかけてたから大丈夫だよ……多分?」
「疑問形なの!?」
僕はとてつもなく不安になった。
「それより……これからどうしよう?」
それも考えるべき事案だ。僕たちは立ち止まり、屋根の上で考える。宿屋で一泊すればいいのだけど今のこの恰好では宿屋に入る事は出来ないだろう。それどころか衛兵を呼ばれ下手をしたら牢屋という宿屋で一日を過ごす事になるだろう。アルフィオレの城壁を飛び越えて村まで走破するとしても徘徊する獣や魔獣、モンスターなどを相手しなければならない。夜になると魔獣やモンスターは狂暴になる為、非常に危険だ。フィーナ姉一人なら大丈夫だろうけど僕という足手まといがいれば走破は無理だろう。アルフィオレの中で何とかするしかなかった。
「ウーン……そうだ! 冒険者ギルドに行こう!」
「今から、それに何で冒険者ギルドに?」
「僕たちがギルドで絡まれたのは何人も目撃している。ダンガンさんも見ているし、僕たちが襲撃されて返り討ちにしたって話は多分信じてくれると思う」
「そんなにうまくいくかな?」
「これは第一案、うまくいかなかったら牢獄という宿屋に行く覚悟しておこう」
「破れかぶれだね、でもそれしかないか……分かった、行こう!!」
「その前にいったん降ろして、背に背負ってお願いだから!」
「エーッ!? お姉ちゃんこのままがいい……」
「お願いだから!!」
フィーナ姉はしぶしぶと言った感じで僕を降ろし背中に背負いなおし再び跳躍した。
「フィーナ姉、僕、重たくない?」
「前より少しは重たくなったけど、それでもまだ軽いよ。もっと食べさせないとね。お姉ちゃん頑張って美味しい料理作るよ」
「ぶくぶく太りたくはないから程々で」
「太ったカイル君かぁ……可愛いよう」
フィーナ姉の表情は見えないが口元が大きく釣り上がているのを見ると笑っているようである。僕は突っ込みを入れたかったが、屋根伝いに移動している状態ではそれも出来ない。下手をすると落下してしまう。突っ込めない為、フィーナ姉の妄想は続く。そんな妄想をしながらも目的地である冒険者ギルドに到着した。妄想しながらも目的地に到着するとは……フィーナ姉は思考を分割できるのだろうか?
僕たちは冒険者ギルドのドアを開け、中に入った。ギルドには職員や冒険者がまだいるようだ。僕たちの、主にフィーナ姉の姿を見て周りは騒然となった。女性ギルド職員がこちらに駆け寄ってくる。それに合わせて周りの冒険者が女性ギルド職員を守る様に前に立つ。自然とそう動く所は流石といった所だ。
「アナタたち、どうしたんですか!? そんな血まみれで!?」
「その事なんですが……ダンガンさんも呼んでもらえませんか。ダンガンさんにも聞いてもらいたいんで」
「ギルドマスターですか……分かりました、しばらくお待ちください」
女性ギルド職員は受付の奥に下がりダンガンさんを呼びに行く。周りの冒険者たちは近寄りがたいようでこちらを遠巻きに見ながら何やらボソボソ呟いている。不躾な視線は気持ちがいい物ではないがこちらが不審者なのだから仕方がない。そんな視線にフィーナ姉は不快感を露わにし睨み返し、僕が宥める。そんな事をしていると女性ギルド職員がギルドマスター、ダンガンさんを連れてこちらに来てくれた。こちらを一瞥しても驚いた様子がなかった。荒事に慣れている証拠だ。これぐらいの度胸がなければギルドマスターは名乗れないだろうと僕は感心した。
「……何があった?」
「実は―――」
僕は昼間絡んできた冒険者三人組に襲撃された事、襲撃者のうち二人を倒した事、その二人はいずれも重傷でギルドで助けて欲しい事、正当防衛でありこちらに非はない事等伝えた。これを聞いたダンガンさんから不可思議な力が放出された。僕はダンガンさんの体から炎が噴き出したように見えた。ダンガンさんから発せられる力に僕は気を失いそうになるが、無意識に丹田に氣を集中し力に耐える。ダンガンさんは女性ギルド職員や冒険者がパタリパタリと倒れるのを見て慌てて怒りを収めた。
「ヌ……すまなかった。あのバカ三人組の不甲斐なさに怒りを覚えてついな……しかし、カイル君は凄いな。私の気迫に耐える事が出来るとは。一般人の君とフィーナ君は耐えているのに……玄人の冒険者がこの有様とは情けない」
ダンガンさんは周りを見てため息をつく。
「あんなのまともに食らったら誰でも倒れますよ。僕もギリギリでしたし」
と息も絶え絶えに言う。
「私もそうです。失礼ですが本当に人なんですか?」
フィーナ姉はかなり失礼な事を言うがダンガンさんは気にしてはいない様だ。
「二人とも素質がある。本当に冒険者やらないか?」
気にしないどころか勧誘してきた。
「色々問題を片づけたらなろうとは思っています。それより僕の要望は聞いてもらえますか?」
「ああ、分かった。今回はこちらのギルドに所属したものが起こした事件だ。君たちが罪に問われないよう手配する」
それを聞いて僕は胸をなでおろす。
「よかったねえ、カイル君!!」
フィーナ姉は僕に抱き着き、僕の顔を舐める。人前ではやめて欲しいのだが心底ほっとしているので今はされるがままにされた。
「ところで君たち、今夜はどうするんだ? もう乗合馬車は出てないぞ」
「そうですよね。ですからこれから宿屋を探すつもりなんですがどこか安い宿屋知りませんか?」
「いくつかはあるがそんな恰好では泊めてはくれんだろう……もしよかったらこのギルドに泊まるといい。宿代は取らないし、寝るなら仮眠室を使ってくれ」
「いいんですか? 助かります」
「冒険者に襲われたという事を口外してほしくないんだ。口止め料の意味もあるから遠慮はしないでくれ。ついでに服も貸すから着替えてくれ」
「何から何まで……」
僕とフィーナ姉は深々と頭を下げた。人の情けが身に染みるとはこの事だと思わずにはいられなかった。




