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気功治療、無茶をしてよかった……。

夜の帳が下りると、何の光源もない路地はまさに闇に包まれる。闇という奴は原初的な恐怖を引き出してくれる。ブルッと身震いするが僕はその場から動く事が出来なかった。僕は壁を背に座っていて、その隣にはフィーナ姉が座っている。フィーナ姉は僕の肩に頭を預け眠っていた。


冒険者がフィーナ姉に行った魔法による苦痛が余程のものだったらしく、体力が回復していない。僕と少し話をした後、壁に寄りかかり立ち上がろうとしたがそのままずり落ち眠ってしまったのだ。僕じゃフィーナ姉を背負って移動する事が出来ない。誰かを呼びにいくにしてもフィーナ姉一人置いていくのも不安でこういう状況になっている。


いい加減にフィーナ姉を起こそうと肩を揺さぶるが反応がない。少しおかしいと思った僕はフィーナ姉の額を触ると驚くほど冷たい。耳を顔に近づけると呼吸が浅い。暗いせいで顔色を見る事は出来ないが多分顔色も悪いと思う。僕は考えたくない事態を想像してしまう。


「フィーナ姉、しっかりして!!」


僕はフィーナ姉の肩を揺さぶるがやはり反応がない。まずい状況かもしれない。


(今からでも誰かを呼びに行くか? しかし一度離れたらここにまた戻ってこれるかな。多分戻ってこれない……どうしよう?)


僕は考えに考え一つの方法を試してみる事にした。僕はフィーナ姉の正面に回り胡坐をかく。そしていつも通り小周天の行を行う。氣というのは自身の生命力の強化、攻撃や防御に応用が出来るが治癒的な事も出来るらしい。久坂さんは氣を使った治療というのはあまり得意ではなかったみたいだ。一応知識はあったみたいだけどほとんどやった事がないらしい。それでもその知識に縋り、僕は気功治療を行う事にした。


下腹部―――ヘソから三セーチ(センチ)ほど下にあるツボ、丹田に意識を集中、呼吸法で氣を発生させる。発生させた氣を意識で動かし、呼吸法で強化しながら体内で周回させる。そうする事で感覚が鋭敏になる。目を閉じているがフィーナ姉の氣の状態が脳裏に浮かび上がる。それを見て僕は思う。


(これはヒドイ……)


人に限らずあらゆる物には氣は流れている。この氣が多すぎても少なすぎても体には悪影響となる。フィーナ姉の場合は後者だった。氣が恐ろしく減少していて生きているのが不思議なくらいだった。目で見た限りでは傷一つない為油断していた。冒険者二人を倒し、フィーネ姉を救ったと誇っていた自分をぶん殴りたい気分だったけどそれは後にして僕はフィーナ姉の治療に入る。


強化した氣を両手に移動させフィーナ姉の丹田に両手を当てる。意識のない人の体を、それも女性の下腹部を触るのな何かいけない事をしているような気がするが治療行為なので許してほしい。人の場合だったら頭上―――泥丸と呼ばれるツボ―――に手を置くのだがフィーナ姉のそこには可愛い犬耳がある。人と同じ所に同じツボがあるのか分からず、そこから氣を送る事ははばかれた。


それはさておきフィーナ姉の丹田から氣を流すと凄い勢いで気が吸収された。僕が強化した氣の量では全く足りない様だ。今のフィーナ姉が乾いた砂地とするなら僕の氣は水なのだろう。フィーナ姉を潤すにはどれだけの水を流さなければならないのか予想がつかない。それでもやるしかない、僕は覚悟を決め再び小周天を行う。


それから十数分―――

僕は体が疲れているのに体の芯は恐ろしく冷え切っているという不思議な感覚に襲われていた。今、この路地が明るかったとしたら僕の吐く息は真っ白になっているのが見て取れるだろう。それくらい体が冷えていた。だが、その甲斐あってフィーネ姉の穏やかな寝息が聞こえた。フィーナ姉の額を触ってみると暖かかった。


「……よかった。生きてるよ」


フィーナ姉の額を触っていると呑気に欠伸を一つし、大きく背伸びをした。フィーナ姉は何度か瞬きして僕をじっと見る。


「カイル君……オハヨウ……」


起きがけでボーッとしているようだ。


「オハヨウ、フィーナ姉」


「……お姉ちゃん寝過ごしちゃった?」


フィーナ姉は状況を理解してないようで間が抜けた事を言う。


「寝過ごしてない、ない。それより体は大丈夫? どこか痛くない?」


「痛くないって……」


しばらく無言だったかと思ったらフィーナ姉が凄い勢いで立ち上がった。


「カイル君、アイツらは!?」


「二人は倒した、一人は逃げた」


「倒したって……カイル君が? ってそれよりカイル君こそ大丈夫なの? 顔色が悪いよ!!」


フィーナ姉が僕の両肩をガシッと掴む。


「フィーナ姉僕の顔が見えてるの? こんな真っ暗なのに?」


「獣人は総じて夜目が効くんだよ。それより今はカイル君だよ!! 何、無茶してるの!!」


何でこんなに顔色を悪くしているのか言いたかったけど言うとフィーナ姉はきっと気にする。


「……ゴメン」


僕は素直に謝った。


「今後は気を付ける。無茶はしない」


「それならヨシ。もし、また無茶するんなら……カイル君のご飯は嫌いなモノフルコースにするからね」


「フゲッ!?」


僕はよく分からない悲鳴と共に固まった。それを見てクスクスと笑うフィーナ姉。真っ暗闇なのだがいつもの日常が戻て来たような気がする。でも……。


(フィーナ姉には悪いけど今後またこういう事になったら無茶するけど嫌いなモノフルコースは許してね)


僕は心の中で許しを請うた。





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