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エルヴィラさんに氣を送るが……暗闇に……。

「さて、やるか!!」


僕は気合一つ入れて寝ているエルヴィラさんの頭の傍に座る。下腹の丹田に意識を集中、文息と呼ばれる呼吸法を用いて丹田に氣を発生させる。発生させた氣を体の後面と前面に循環させる行、小周天を行う。氣を一周させ丹田に戻してからもう一作業行う。僕は一周して強化した氣を丹田から下半身、背中に持っていく。背中の氣を二つに分け両腕、両手に持っていく。すると両手に強力な圧力感が生じる。この圧力感を維持しながらそっと目を開く。集中が弱まっても両手から氣は消えていない。


僕は両手をエルヴィラさんの頭上に持っていく。頭上には泥丸と呼ばれる氣の出入り口となるツボがある。そこから強化した氣を送り、氣を操作して循環させる。他人の体に自分の氣を通して操り強制的に小周天を行うのが僕の目的だった。


氣というのは肉体、精神状態と密接な関係がある。肉体の損傷、喜怒哀楽などの激しい精神状態によって氣の状態は激しく変化する。氣は流体の様に循環しており、その流れが滞ったりすれば病気になったり、精神に影響が出たりする。普通なら自然と治るものだがエルヴィラさんは相当ひどい目にあったのか治る事はなく、生きた人形の様な状態になっている。コブリンに何かされそうになった時、僕を拒絶した時に微かな反応を示したのならまだ治る見込みはあるのだろうが……。


僕が小周天を行い氣の通り道を強化する事で体を頑強にする事が出来たのだが精神の方も強化出来るのではないだろうか。僕はそうなる事を願って氣をエルヴィラさんの頭上から胸、そして下腹の丹田に氣を持っていく。他人の体に氣を通し操るというのは自分の体で行う小周天よりはるかに難易度が高く、丹田に持っていくまでに何度も氣が消えかける。その度に意識の集中と呼吸法で気を強めてまた移動させるという事を何度も繰り返していた。丹田に持っていくだけで僕の体全身からは玉のような汗が流れ出ていた。


(ようやくスタートラインか……)


僕は、頭上からエルヴィラさんの丹田に氣を送り強化する。氣が通り道を通って循環するのを確認する。ここからさらに丹田の気を下半身に持っていくのだがそこでエルヴィラさんに変化が起こった。悲鳴を上げたのだ。


「キャアアアアアッ!!」


エルヴィラさんの体が大きくのけ反る。それに驚いた僕の集中は解けてしまい、氣も消えてしまった。


「しまった!!」


僕が送った氣がエルヴィラさんの体から凄い勢いで吹き出しているのが見えた。キラキラと光が噴き出しているようで奇麗なのだがただ事じゃなかった。


「カイル君、大丈夫!?」


「カイル、何事じゃ!?」


フィーナ姉とアルジュナさんが僕の元に駆け寄りギョッとした顔をしていた。僕も驚いていた。エルヴィラさんが何の前触れもなく起き上がっていたのだ。成功したのかと思ったのだがそうは思えなかった。エルヴィラさんの瞳はコブリンの洞窟の中で見たみたいに作り物めいていて生きているような感じがしなかった。


「カイル君、成功したの?」


僕は頷く事が出来なかった。エルヴィラさんが怖かったからだ。僕の目にはエルヴィラさんがどす黒い靄の様なものに覆われて姿が全く見えていなかったのだから。


「カイル、逃げろ!!」


アルジュナさんの声と同時に僕の口は何かに塞がれた。


「ア~ッ!! カイル君の唇を奪ったあ!!」


フィーナ姉の悲鳴で今、僕が何をされているのか分かった。落ち着いている状態なら唇と唇をくっつける事にどんな意味があるのだろうかと考えられるのだが今はそれどころではなかった。エルヴィラさんの唇を通して僕の体にどす黒い靄が流し込まれた。僕の体からは熱が奪われていき、体が氷になったかのような錯覚に襲われる。目の前が暗くなり、意識を保つ事が出来ず僕は気を失った。


「カイル君!?」


「カイル、しっかりせんか!?」


二人の声が聞こえたのを最後に僕は暗黒に呑み込まれた。



僕はどこともしれない暗闇の中にいた。その暗闇は昏く冷たく、僕をゆっくりと犯していく。僕の穴という穴から侵入して苦しめる。入ってきた暗闇は僕にある光景を見せる。


コブリンに連れ去られ、その日に犯され、何度も体液を流し込まれる―――


数日でコブリンの子を宿し数日で出産し、また体液を流し込まれる―――


コブリンの子供を生み出す為の道具にされ、それが出来なくなったと分かるとごみを捨てるように殺される―――


人の尊厳を踏みにじられ、生き道具として扱われる日々―――


(私たちは死んだのにあの子だけ助かるだなんて……そんなの許されない。許してはならない。アナタもそう思うでしょう?)


僕の中に入ってきた暗闇は僕にそう問いかけてきた。僕の中に入ってきた暗闇に僕は同調していた。僕の中にこんな激しい感情があるのかと驚くぐらい僕は怒りに支配されていた。だから僕はこう答えた。


(ダメダ、ソンナノユルサレナイ!!)


(なら殺しましょう。私たちは助からなかったのに、あの子だけ生きてるなんて許さない!!)


(ソウダ…コロソウ…コロシテシマオウ)


僕は暗闇と一体化した。



僕は目を開いた。心配げに僕を見るフィーナ姉とアルジュナさんの顔があった。


「よかったあ、カイル君目を覚まして……」


フィーナ姉の大粒の涙が僕の頬を濡らす。アルジュナさんが僕の頭に手刀を食らわす。


「無茶をすればこういう事になる。出来んと思ったらそこで止めとくんじゃ。止めた所で誰も責めんのじゃから」


「そうですね……すみません。ところで彼女は?」


「エルヴィラは隣りにおるぞ」


僕は首を動かして右隣りを見る。そこにはあの女がいた。苦しんだ感じのない呑気な寝顔に激しい憤りを覚える。だが、その憤りを表に出さないよう注意して尋ねる。


「彼女はどうですか?」


「調べてみた限りでは異常はない見られん。明日には目を覚ますかもしれんぞ」


「……そうですか……それは……良かった……」


僕は口の端を吊り上げてニィッと笑う。


「カイル君……?」


僕の笑い方がいつもと違う事を不審に思ったフィーナ姉が僕を見る。


「……どうしたの? フィーナ姉……」


「カイル君こそどうしたの? いつものカイル君じゃないみたい……」


「そんな事ないよ……僕はいつものカイルだよ……」


僕は不審に思われない様心掛けながら笑顔を見せるがうまくいかなかったようだ。フィーナ姉もアルジュナさんも表情を曇らせていた。








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