フィーナ姉とアルジュナさん言葉、カイルの覚悟
「な、何音もなく忍び寄ってるの!? 人が悪いよ!!」
「人が悪いじゃないよ、カイル君! 今何やってたの?」
そう言いながらフィーナ姉は僕の体をペタペタ触ってきた。ついでに顔を近づけクンクン臭いを嗅いでくる。コブリンに連れ去られ、洞窟に閉じ込められ、さらに戦闘までこなした為、正直汗臭い。それでも構わずクンクン嗅いでくる。何かウットリしてるのは気のせいだろうか。僕は気恥ずかしくなってフィーナ姉を引き剥がした。
「やめてよ、フィーナ姉! 恥ずかしいよ……何をやってたって……瞑想だよ、瞑想」
呆けた表情を引き締めたフィーナ姉が僕を問い詰める。
「本当なの!? 瞑想であんな事起こるかな、お姉ちゃん聞いた事ないよ!?」
「あんな事ってどんな事さ?」
「それはな……」
アルジュナさんが僕の頭に着地し、何かを確認するように叩いたり髪の毛を引っ張ったりする。
「痛いよ、アルジュナさん」
涙目で訴える僕を尻目にアルジュナさんが唸る。
「ちゃんといるよな……お主な、さっきワシらの目の前から消えそうに……いや、違うな、お主の姿が薄くなって見えにくくなっとったんじゃ」
「姿が見えにくくなった?」
僕は首を傾げる。
「空間に飲み込まれて消え入りそうで正直驚いたぞ」
フィーナ姉もウンウン頷いている。はて、どういう事だろうと考えているといつもの頭痛がやってきた。久坂さんの記憶が浮かび上がってくる時、いつもこうなるが何とかしてほしいと僕は本気で思う。
「カイル君……?」
フィーナ姉が心配げに僕を見ていた。
「大丈夫だよ、フィーナ姉……それより少し説明させてもらうと……僕はその場から消えたんじゃない。その場の物の気配と一体化してたんだよ」
「一体化?」
僕は説明を続ける。小周天の行を行い、周囲の氣を吸い己の体に循環させて氣を吐く。そうやって循環を続ける事で自然と一体化、気配が自然と同質のものとなり人の目には映りにくくなったのだ。
僕の説明にフィーナ姉とアルジュナさんは分かったような分からなかった様なキョトンとした顔をする。フィーナ姉もアルジュナさんも美人だからぽかんとした顔をされると可愛く感じる。
「そういう事が出来たから分かった事もあって……」
僕は小周天の行の最中にエルフの少女エルヴィラに寄り添っていた妖精リリアの存在、小周天の行で強化された僕の氣にエルヴィラは反応している事、意識的に氣を当てればエルヴィラは完全に意識を取り戻すかもしれない事、協力を要請された事を二人に伝えた。
そこまで聞いてフィーナ姉とアルジュナさんが難色を示す。
「ウーン……人助けをしたいのは分かるが、それはカイルがしなければならない事なのか?」
「そうだよ、カイル君のその……氣というのがその子、エルヴィラさんにいい影響を与えているかもしれないけど治るかどうかは別問題だし、治せなかったら、それで……死なせたりでもしたらどうするつもり」
二人に詰め寄られ僕はたじろく。
フィーナ姉はいつになく辛辣だが言う事はもっともだ。治療知識のない者が口を出してさらに悪い結果にある何てあり得る話だ。結果より悪くなれば僕が受ける精神的ダメージは推し量る事が出来ない。そうならない様、悪役を買って出てくれたのだろう。フィーナ姉は本当に優しい。だけど、僕は……。
「確かに僕がやるべきではないかもしれない。だけど……僕はこの子を、エルヴィラさんを助けたい」
「カイル君、いいの……?」
「フィーナ姉は優しいね、ありがとう。だけど僕はやる!! エルヴィラさんを助ける!!」
「どうしてカイル君がしないといけないの!? 町の冒険者ギルドに預けて専門的な治療を受けさせた方が確実じゃない!!」
「それはそうだけど……今、助けを求められたのは僕なんだ! 今も凄く心配してる妖精さんがすぐそこにいるんだ。僕はリリオの不安を取り除きたい、エルヴィラさんとリリオの笑顔を見たいんだ! だから絶対、助ける!!」
僕とフィーナ姉の間にピリピリとした緊張感が漂う。その緊張感砕いたのはアルジュナさんの溜め息だった。
「カイル、感情的に物言っとるだけではないか。それで人を助けるなど言うべきではないな」
言葉に詰まる僕にアルジュナさんは言葉を続ける。
「人を助けるという事は簡単ではない。お主がやった事で人が死ねばどんなに高尚な理由があろうともお主は罪人、人殺しじゃ。そうなった時お主は一生をかけて罪を償う覚悟があるか?」
アルジュナさんの問いに僕は下っ腹に力を籠めて力強く頷く。それを見たアルジュナさんがまた溜め息をつく。
「……覚悟が決まっとるんならワシからいう事は何もない。やるだけやってみよ」
「アルジュナ様!!」
「フィーナよ、カイルの中ではもう答えが決まっておる。こうなったらてこでも動かん、もし最悪の事態になったらワシとフィーナでカイルの罪を一緒に背負うよりあるまい。それともフィーナは背負う事は出来んか?」
「そんな事はありません、私とカイル君は一心同体です」
「それを言うなら一蓮托生じゃ、バカモン!!」
アルジュナさんがフィーナ姉の頭に手刀を入れた。フィーナ姉とアルジュナさんの寸劇にプッと吹き出す。体から力が抜けたが体の芯には力が入り、精神が非常に落ち着いていた。何かをするには最高の状態だった。
「アルジュナさんは僕がエルヴィラさんに氣を当ててる間は邪魔が入らない様周囲を警戒してくれませんか? 周囲に何匹がこちらを窺っている獣か何かがいます」
「ほう、そんな事が分かるのか? 分かった、安心して治療せい」
アルジュナさんが森の方へ消えていった。
「フィーナ姉は夕飯作ってたんだよね。だったらもう一人分追加、なるべく消化のいい物で」
「エルヴィラさんの分だね。分かった、腕によりをかけて作るよ……こうなったらもう何も言わない。カイル君頑張って!!」
フィーナ姉がガッツポーズをとると、再び料理を作り始めた。
その場には僕と横たわるエルヴィラさんが取り残される。
「エルヴィラさん待ってて。アナタを必ず目覚めさせてあげるから……。リリオはそこにいるのか? 君の期待に応えられるか分からないけど精一杯やるから見ててくれ」
そう言った僕の頭の周りに何かがクルクルと回っているような気配が感じられた。




