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血気の有を戒められず……フィーナ姉暴走

僕の三体式の構えを見てコブリンはゲラゲラと笑った。


(こんなナヨナヨした痩せっぽちが何をやっているのかと思っているのだろう。それが思い違いだという事を思い知らせてやる!)


僕は丹田に力を込めた。コブリンの一匹が僕に向かて跳躍した。僕との距離を縮め、こん棒を振り下ろす。それに対し僕は両手を下腹に引き寄せ、腕が抜けるようなイメージで左拳を先に、右拳を左肘に添えるように打ち上げる。丹田に力がこもった状態では腕に粘りが出て、空間に固定されたように腕が動かなくなる。振り下ろされた棍棒は左腕の外に逸れ、僕の左拳がコブリンの腹に直撃する。左拳を引き下ろすと同時に右掌をコブリンの頭部に振り下ろす。コブリンの頭部からベキリという何かが壊れる音と感触が掌に伝わった。頭が先に地面に落ち、それに遅れて体が地面に落ちた。しばらくビクビクと痙攣した後、動きを止めた。コブリンとはいえ初めて命を刈り取った感触が僕の左掌に残っていた。


形意拳の基本技である五行拳の一つ、劈拳へきけんと呼ばれる技である。五行拳の中では最初に習う技であり、これをしっかり習得すれば他の技の威力も上がる為重要な技と言える。五行というだけあって火木土金水、五行の属性があり劈拳は金である。


僕の中には恐怖なのか歓喜なのか訳の分からない衝動があり、それに逆らえなかった。この結果に呆然としているコブリンに向かって僕は動く。出遅れたコブリンは棍棒を振り下ろす。左腕を上げて棍棒を防御すると同時に右拳で突く。体ではなく体の先にある命の炎を打ち抜くイメージで右拳を繰り出した。僕の拳にコブリンの肋骨が折れ、その奥の内臓を傷つける。拳の圧力が出口を求める。目、鼻、口、耳から血を吹き出して絶命した。飛び散った血が僕に吹きかかる。その血が熱く感じてゾクリとした。


形意拳の基本技五行拳の一つ、炮拳ほうけんと呼ばれる技である。五行の属性は火である。


体が弱く、一人では何もできない役立たずが最弱とはいえ二匹のコブリンを瞬殺した、この事実に僕の体がかっと熱くなった。内から膨れ上がるものを抑えきれず僕は雄叫びを上げた。


僕の雄叫びに驚いたものがもう一つあった。それは三匹目のコブリンだった。僕が投げたガラクタの直撃を受けて気を失っていただけで死んではいなかったようだ。僕の雄叫びに飛び上がり、部屋を飛び出した。冷静さを欠いた僕は、逃げたコブリンを追いかける。曲がりくねった通路を走ると、不意に開けた場所に出る。スプーンで抉ったようなドーム状の場所に約ニ十匹ほどのコブリンが眠っていた。僕が追いかけていたコブリンが声を上げ、眠っているコブリンを起こし、何やら訴えている。そして各々が棍棒や錆びた短剣、長剣、盾を手に取り僕を見る、敵と見なしたようだ。多勢に無勢、多少強くなったとはいえ、複数の相手と戦うのは悪手だった。少しでも冷静さがあったらここは逃げるべきだと考えられたのだろうが、頭に血が上り、冷静さを欠いた僕にはその選択はなかった。


向かってくるコブリンに対し、僕は三体式の構えを取る。正面のコブリンに対し一歩踏み込み間合いを詰め右縦拳で突く。僕の右縦拳はコブリンの胸部に入る。ベキリ言う感触と共に倒れ悶え苦しむ。それを見て僕はニヤリと笑う。僕は生き物を殺すという感触に酔いしれていた。


形意拳の基本五行拳の一つ崩拳ほうけんと呼ばれる技である。五行の属性は木である。


僕はこの時初めて戦闘を行った。一対一ならともかく複数の相手に対しては全くの無知で戦術も戦略もなかった。一人の敵を倒して満足していれば当然のように他のコブリンから攻撃を受ける。背後から棍棒で叩かれ体勢を崩す。それでも囲まれない様に前方に移動、振り返り三体式の構えを取る。


「……よくもやったな!!」


僕は怒りに駆られ、強く踏み込み、コブリンの一匹に崩拳を繰り出す。だが、コブリンはボロボロに錆びた盾で僕の拳を防ぐ。そして左右、後方に回り込んだコブリンが僕に打撃を食らわす。僕に攻撃を与えては下がるという戦術を使ってきた。僕の攻撃は外れ、コブリンの攻撃は当たるという不利な状況に僕の体力は削られていく。体が疲れて動かなくなっていくにつれ、頭に登った血が下がり、体中痛くなってきた。痛みは恐怖を呼び、僕は逃げる事を考え後ろに下がる。そして僕は転倒した。足元を見るとコブリンが使っていた棍棒が転がっていた。僕はそれに足を取られて転倒したようだ。とんでもないヘマをやらかした、早く立たなければ、そう思い立ち上がろうとするが、それより早くコブリンが群がり攻撃を加えてくる。僕にこの攻撃を捌く手段はなくされるがままになる。僕の抵抗が無くなるとコブリンたちは僕から離れる。僕の顔は大きく腫れ、体中ズキズキ痛む。指一本動かせない。


抵抗がなくなったのを確認するとコブリンの一匹が僕の体の匂いを嗅ぎだす。しばらくそういう動作を繰り返すとゲヒた笑みを浮かべ僕のズボンをずり降ろした。


(!? 何をする気!?)


僕の足を持ち上げ股を開かせる。


(ナニをされるんだ、僕!?)


僕が思わず腰を引いた時、突如轟音とともに天井が崩れる。太陽の光が差し込み、そこから何かが下りてきた。ケモ耳に尻尾、メイド服で身を包んだ獣人、僕の大切な家族、フィーナ姉だった。フィーナ姉は重みを感じさせない動作でフワリと着地した。


「……フィーナ姉」


僕が掠れた声で呟く。声に気が付いたフィーナ姉が僕を見て痛ましい表情になる。そしてコブリンたちに向き直り牙を向いた。


「お前ら……カイル君に何しやがったァァァァ!!!!」


フィーナ姉の怒りの怒号は獣王もかくやだ! 数匹のコブリンは腰を抜かし、失禁する。逃げ出そうとするコブリンもいたがフィーナ姉は逃さない。フィーナ姉は目にも止まらない動きでコブリンの頭を鷲掴みし地面に叩きつける。フィーナ姉の手の中でコブリンの頭が潰れる。フィーナ姉は更に雄叫びを上げコブリンを殴りつけると物の様にポンポン吹っ飛び壁に叩きつけられ、絶命する。フィーナ姉の攻撃にコブリンが蹂躙されていた。コブリンに受けた痛みとは違う痛みが頭に走り言葉が浮かび上がった。


(初〇機、暴走……何の事? でも確かにフィーナ姉、暴走してる)


「カイル、お主無事か!?」


天井の穴からアルジュナさんが下りてきて、僕の状態を見て痛ましい顔をする。


「ちょっと待っとれ、すぐに直してやるぞ」


アルジュナさんが呪文を唱えると両手から淡い光が放たれ僕の体に当てられる。体の痛みが、顔の腫れがゆっくり腫れが引いていく。


「どうじゃ、どこか痛い所はあるか?」


「大丈夫です、ありがとうございます」


下半身が真っ裸になっているのを見てアルジュナさんがより一層痛ましい表情になる。


「ワシは体の傷は治せるが心の傷は治せん。辛かろうが頑張れ……ワシもフィーナもお主の味方じゃからな!」


アルジュナさんがフィーナ姉みたいに僕の顔を舐めた。


「? どういう事ですか? 多少痛い目にあいましたが、ガマンできるものだしそんな大げさにする事じゃ……」


「お主……その、何じゃ、コブリンどもに……色々されたんじゃないのか?」


「色々って?」


「ワシから言えるかバカモン……例えばじゃ……下半身を色々弄られたとか……」


アルジュナさん顔、真っ赤になってる。


「……ズボン脱がされましたがそれ以上はされてないですよ」


「本当か!? 嘘ではないよな!? ワシの目を見て言えるか!?」


アルジュナさんの迫力に慌てて僕は首を縦に振る。それを見てアルジュナさんは安心した顔をしてフィーナ姉に声をかける。


「フィーナ、安心せい! カイルの後ろは無事じゃ!!」


その言葉にフィーナ姉の顔から険しい表情が消え、いつもの優しいフィーナ姉に戻る。肉塊となったコブリンを投げ捨て僕の元に駆け寄る。フィーナ姉はここにいたコブリン全てを倒していた。


「カイル君、大丈夫? どこか痛い所はない? 辛かったよね……」


フィーナ姉が矢継早やに聞いてくる。


アルジュナさんの治癒の魔法がばっちり効いてる。元気になったよ、本当に大丈夫だから……ネ」


フィーナ姉が痛いぐらい力強く僕を抱き締めた。


「ヨカッた……ヨカッタよぉ!!」


フィーナ姉が僕の身も元で号泣した。僕の知っているフィーナ姉はいつも笑顔で明るい人だ。こんな風に泣いているのは初めて見た。フィーナ姉に心配させた事に胸が痛み、僕は「ゴメン……」と謝った。


「あー、イチャついとるとこ悪いんじゃが……カイル、いつまで下半身丸出しにしとるんじゃ?」


アルジュナさんに言われ僕は慌ててズボンをはく。僕の下半身を見ていたフィーナ姉が変な笑みを浮かべてこういった。


「カイル君、可愛いよ……」


何でか分からないが僕は深く傷ついた。





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