あの娘の捜索開始、フィーナ姉妄想暴走
「カイルを救出出来たのじゃからここにはもう様はないじゃろう。行くぞ、フィーナ」
「はい、アルジュナ様」
そう言うとフィーナ姉は棒を強く抱きしめ、フィーナ姉たちが入ってきた天井の穴を見上げている。僕を抱き締めたままあそこまで跳躍できるのだろうか? 出来たとしてもこのまま外へ出る事は出来ない、する事がある。だから僕は待ったをかけた。
「ちょっと待って、二人とも」
「どうしたの、カイル君」
「うん、実は……」
僕が捕らえられていた部屋にもう一人少女がいた事、ここを出るならその少女も一緒に連れて行きたいと僕は話した。
「フーム、他にも捕らえられたものがいるというならそ奴も助けるべきか? しかしコブリンに捕らえられたという事は……カイルよ、一旦ワシらは外に出て助けを呼んできた方がいいと思うぞ」
「私もそう思う……カイル君は……止めといた方がいいと思う」
フィーナ姉はアルジュナさんに賛同した。何かに怯えているようにも見える。妙に及び腰だ。僕の我が儘である以上二人を付き合わせる訳にはいかなかった。
「だったら二人は助けを呼んできて。僕はあの娘を探してくる!」
僕は二人の答えを聞かずに駆け出した。
(あの娘は助けてと言ったのに二、三匹コブリン倒せたぐらいで調子に乗って置いてきてしまった。あの娘を連れて逃げるべきだったのに!! 絶対助けるから待ってて!!)
「ええい、待たぬか。こっちの話を聞かずに走り出しおって。このバカモンが!!」
僕に追いついたアルジュナさんは僕の頭に乗って髪の毛を数本引き抜いた。
「い、痛いよ、アルジュナさん!!」
髪の毛を引き抜かれた痛みに僕は思わず立ち止まる。
「そうだよ、カイル君」
いつの間にか僕の隣りに立っていたフィーナ姉が僕の右腕を取る。フィーナ姉は左手の人差し指、中指を立て、僕の手首付近を思いっきり叩いた。骨にまで衝撃が来る、痛みで僕は飛び上がった。
「い、痛いよ、フィーナ姉!!」
「痛くやったんだから当たり前だよ。少しは落ち着いたかな、カイル君?」
フィーナ姉はニッコリ笑っているが見た目とはは違う。これは怒っている笑みだ。
「カイル君が悲しむ事になるかもしれないから言っているんだよ。それでも行くの?」
僕が頷くのを見てアルジュナさんが溜め息をつく。
「可愛い顔して意外と頑固者なんじゃよな、カイルは。覚悟しとるなら止めるべきではないな。いざとなったらワシらでカイルをフォローするぞ」
「ありがとう」
僕は二人にお礼を言うがフィーナ姉はまだ心配顔だ。
「……もう止めないけど気を強く持ってね」
どういう意味か聞こうとしたアルジュナさんが気になる事を言っていた事に気が付く。
「僕ってか可愛い顔してるんですか?」
アルジュナさんが僕の頭から降り、正面に浮かぶとまじまじと見つめる。
「……そうじゃのう。男とも女とも取れる中性的な顔しとるし、化粧して女子の服着たら声聞くまで分からんと思うぞ。コブリンに連れ去られた理由もそこにあるじゃろうし」
「可愛かったら連れ去られるんですか? どうして?」
「まあ、女子に出来て男子に出来ない事は色々あるしな……」
「それは?」
アルジュナさんが急に押し黙る。何故か顔が赤い、体がプルプル震えているのは分かる。
「ええ加減にせんか!! 絶対わざと聞いとるじゃろう、ワシを辱めようとするとはこの無礼者!!」
アルジュナさんが突然怒鳴り散らしたかとと思ったら凄いスピードで飛び去ってしまう。
「どうしたんだろう、アルジュナさん……フィーナ姉?」
ふとフィーナ姉を見るとブツブツと何やら呟いていた。
「カイル君に女装、いいかも……カイル君の黒い髪と瞳には真っ白なドレス何て映えそう……化粧も施せばカイルちゃん爆誕だよ……あ、鼻血出そう」
「フィーナ姉!!」
「……あ、どうしたのカイル君?」
口の端から垂れるヨダレを拭きつつフィーナ姉。
「僕、女装なんて絶対しないから!!」
「分かってるよ、カイル君……」
口ではそう言ってるが何か企んでいそうだ。しばらく注意する必要があるなと考えてしまう。不意に頭がずきりと痛んだ。そしてある単語が浮かび上がった。
―――男の娘萌え……グフフ
(男の娘って何だ。グフフって笑いは何だ!?久坂さんの記憶には色々助けられた、武術や仙道の知識は本当に助かるんだけどそれ以外の知識は何なんだ!? 何か変態めいてないか!?)
困惑でくらくらする頭を振り、頬を叩いて気合を入れる。
「ほら、アルジュナさん先に行っちゃったよ。僕たちも行こう」
「ああ、待ってカイル君」
僕とフィーナ姉はアルジュナさんが消えた通路に向かって走った。
自然の洞窟を己の住処としていただけあってかなり広大で、僕が捕まっていた部屋を見つけるのに難儀していた。対象相手が分からないとアルジュナさんの魔法は使えない、フィーナ姉は嗅覚が鋭いらしいがこれも対象となる相手の匂いが分からないと駄目らしい。僕はどこをどう走ってコブリンたちが集まっていたあの場所に行けたのかさっぱり覚えていなかった。こうなると足で探すよりなかった。




