始めての狩り、僕とアルジュナさんとの雑談、六本足の熊との遭遇
実家から資金援助が打ち切られてから三ヵ月。僕たちの生活スタイルは大きく変わった。狩猟、狩った獲物をさばき保存食の作成、果実や穀物の採取などが主となる。といってもそういう作業はフィーナ姉とアルジュナさんの仕事で僕は留守番。アルジュナさん曰く「今のお主では役に立たん」との事だ。体が出来ていない状態で狩猟に付き合わす事は出来ないというのだ。僕は悔しくて体を鍛えた。小周天や武息、文息の呼吸法、それから形意拳の修行も始めた。と言っても馬式という足腰を鍛える立ち方と、形意拳の基本五行拳のみを行ったのだけど。久坂さんの記憶でも初期の頃にはこれを徹底的にやって体を作っていた。僕も久坂さんに倣い徹底的にこれを行った。成果がでたのか体の芯に力が通ったような不思議な感じがするようになった。その感じが出てから体が軽くなった。自由に動けるのが気持ちよかった。僕の体の感じから何かを感じ取ったのかその日の夜アルジュナさんがこう言った。
「明日一緒に狩りに行くぞ」
僕たちが住む離れから一時間程離れた所にある森に僕とフィーナ姉、アルジュナさんは来ていた。獣や果実、薬草など物が豊富だが、こういった森には自然の魔力が滞る場所、通称魔力だまりと呼ばれる場所があり、その場所で獣が魔力を得て変質した存在、魔獣などもおり、数人でパーティーを組んで入らなければ危険とされている。フィーナ姉は獣人で前回のフリスピーでは凄まじい身体能力を見せているし、アルジュナさんに至っては神様で身体能力は凄まじいし魔法も使える、死角というものがない。二人がいれば何が起こっても何とかなりそうだがそれに頼ってはいけない。アルジュナさんに認められたのだしフィーナ姉にもいい所を見せたい、頑張らなければ……。
森の中を先導するフィーナ姉は鼻歌交じりで歩いている。足取りが軽く、尻尾が凄い勢いで振られている。
「フィーナよ。真面目にやらんか。そんな浮ついた態度では獲物など見つけられんぞ」
僕の頭の上に座っているアルジュナさんがフィーナ姉を注意する。
「そうは言っても……」
フィーナ姉が僕をチラリと見るとクフフと笑ってまた先を歩く。フィーナ姉の不可解な態度に僕は首を傾げる。アルジュナさんが落ちそうになって僕の髪にしがみつく。
「コラ、カイル! 急に首を傾げるな、落ちるじゃろうが!」
髪を引っ張られた痛みに顔をしかめる僕。
「あ、ゴメンナサイ、アルジュナさん……しかしどうしたんですかね、フィーナ姉。妙に浮かれて?」
「……お主本気で言うとるか?」
「アルジュナさんは分かるんですか?」
アルジュナさんは呆れたというように溜め息をついた。
「お主と出かけられるのが嬉しいから浮かれとるんだろうが」
「僕と? そんな訳ないでしょう?」
僕の答えにアルジュナさんが少し驚いた顔をする。
「……ちょっと待て!? お主、フィーナの事どう思っておる?」
「フィーナ姉の事をどうって? どういう事ですか?」
「異性として見ておるかという事じゃ」
「フィーナ姉は異性ですよ」
アルジュナさんが訳が分からないという顔をした。僕もアルジュナさんが何を言っているのかよく分からなかった。
「イヤイヤ、カイルよ。お主、フィーナに色々されて……そのこうムラムラしたじゃろう?」
僕はフィーナ姉に抱き着かれたり、顔を舐められたり、変なところをを弄られたりして変な気分になる事を思い出して顔が赤くなる。
「あれってそういう事なんですか? 僕、よく分からなくって……」
「……これは一体どういう事じゃ。男女の営みについての知識が全くないではないか? ……あ、もしかしたら……カイル、お主フィーナ以外に異性と会った事があるか?」
「フィーナ姉以外には……いませんね。僕、幼い頃にあの離れに住まわされてたし、あそこって誰も来ないから。体が弱くて外に出れるようになったのも最近だし……」
アルジュナさんは理解したというように頷く。
(幼い頃に離れに閉じ込められ、フィーナ以外の異性と話す機会もなかった。男女の事について学ぶ機会が全くなかったのじゃな。フィーナの事も女性ではなく、家族としか思っとらん。色々されて恥ずかしがってもそれ以上の感情を持っとらん。マズイぞ、フィーナ。カイルがこのまま外の世界に出たらお主以外の誰かと結ばれてしまうかもしれぬぞ……結ばれるならフィーナでなければワシも困る。フィーナにも知ってもらった上で作戦会議を開かねば!!)
アルジュナさんが熟考、僕が不思議そうな顔をしているとフィーナ姉が僕たちにやや小声で声をかける。
「カイル君、アルジュナ様……」
フィーナ姉は草むらから向こう側を覗いている。僕はフィーナ姉の隣に座りその光景を見る。草むらの向こうは足が着くくらいの深度の小川となっていた。、その小川に前足を突っ込み魚を弾き飛ばす巨体な黒い毛玉がいた。それは全長は三メート(メートル)程で前足が四本、後ろ足二本、計六本の足を持つ巨大なクマだった。
「六本足の熊、あれって……」
「あれが本来の生態系にはない、この森のどこかで発生する魔力溜まりの影響で変質した存在、魔獣だよ……」
僕はゴクリと唾を飲んだ。僕がどう逆立ちしても勝てない存在。絶対近づくべきではないと本能が警鐘を鳴らす。向こうはこちらに気付いていない、早く逃げるべきだ。僕はフィーナ姉のメイド服の裾を引っ張り逃げるよう即すがフィーナ姉とアルジュナさんは僕とは違う反応をしていた。
「うまそうだね……」
「そうじゃな」
「フィーナ姉もアルジュナさんも何言ってるの……?」
「何じゃ、お主、知らぬのか。魔獣化した熊は肉が少し硬くなるが臭みがなくジューシーでウマいんじゃぞ」
「ウマいって……二人でもあれは無理でしょ。気付かれる前に逃げよう、フィーナ姉!?」
僕の言葉が二人の雰囲気が変わった。
「お姉ちゃんたちを甘く見過ぎだよ、カイル君」
「そうじゃの、ワシたちの実力を示さなければならんな。フィーナ、先行せよ、ワシは援護に回る」
「了解です。カイル君、今日はご馳走だから楽しみにしててね」
フィーナ姉がニコリと笑うと、草むらを飛び出し、六本足の熊に向かって疾走した。
「フィーナ姉!!」
僕は二人を止める暇がなかった。




