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理由、僕とフィーナ姉の覚悟

「ど、どういうことですか!? 援助を打ち切るって!? 何でそんな話になったんですか!?」


僕は勢いよく席から立ち上がり、アルフレッドさんに詰め寄る。


「落ち着いてください、カイル様……カイル様、あなたはどうしてこの離れに住まわされる事になったのかご存知ですか?」


僕は首を傾げる。そういえば父本人から聞いた事がなかった。


「……それは父さんに嫌われているから?」


「そうです。ですが理由はそれだけではありません。ジェラルド―――あなたの父親はあなたが苦しんで苦しんで苦しみぬく姿を見たくてこの離れに住まわせているのです。苦しみが続くように最低限の援助をしながら」


「そんな、髪や瞳の色が違う事でそこまで恨まれる事になる何て……」


苦しめる為に援助するなんて我が父ながら狂っている。


「あなた一人がこんな離れに放り込まれたら生活能力のないあなたはすぐに死んでしまいます。そこで私が一案を講じます。獣人の奴隷を一人買い取り、世話役としてカイル様に与える事です。ワルトハイム家で忌み嫌われているものを嫌われている者に与えるなど皮肉が聞いているとジェラルドは喜んで奴隷を買い取りましたよ」


「それがフィーナ姉……」


「結果あなたは今も苦しみながら生き残っています。ひと思いに死なせてあげた方が慈悲だったのかもしれません。カイル様とフィーナに恨まれるような事になってもしょうがありません」


僕とフィーナ姉は首を横に振る。


「そんな事ありません。僕がこれまで生きてこれたのはアルフレッドさんのお陰じゃないですか。フィーナ姉のお陰で楽しく過ごせてますし、感謝こそすれ恨む筋合いはありません」


「……ありがとうございます」


アルフレッドさんが深々と頭を下げる。頭を下げる動作一つにも迫力があり僕は息を飲む。


「ところでどうして資金援助を打ち切るという話になったんですか?」


「それは、数日前のピクニック、これがジェラルドの耳に入りまして。アナタが外を出歩けるぐらい体調を取り戻したのなら援助の必要なしと決まってしまったのです」


「そうなる可能性に気付けなかった僕の不手際かあ……」


僕は両手で頭を掻きむしる。


「資金援助を打ち切るという事ですが、この離れからも出て行く事になるんですか?」


「そういう話もありましたがそれは私が止めました。ここに住む事は出来ますが、それ以外の援助は打ち切るという事です。つまりはこれから先、資金の援助は一切ありません」


「そうですか……」


僕は席に座り右手で目を覆い天を仰ぐ。


(十五になったら家を出て独立する事を考えていたし、実現させる為にお金も溜めていた。だけど援助停止はもう少し待ってほしかった。自給自足の生活になると僕は間違いなく役立たずだ。フィーナ姉に迷惑かけてしまう。それだけはしたくない、どうしよう……)


「アルフレッドさん、いいですか?」


フィーナ姉がアルフレッドさんに問いかける。僕は目を覆ていた手を降ろし上を向いた状態でフィーナ姉を見る。今までにない真剣な表情と声色に驚きを隠せない。


「カイル君の援助を打ち切るという事ですが私もカイル君付きのメイドではいられなくなるという事ですか?」


僕の頭は鈍器で殴られたような衝撃を受ける。フィーナ姉はワルトハイム家の使用人、いわばワルトハイム家の資産という事になるのではないか? 援助を停止するという事はフィーナ姉を返すという事になるのかも知れない。


「もし、そうだと言われたらどうしますか、カイル様?」


「……その時は今すぐこの家を出ます。フィーナ姉を連れて」


「それは本気ですか? 少し体がよくなったとはいえ人一人養うというのは容易ではありません。働く伝手のない、伝手があったとしても何も出来ない役立たずのあなたが家を出て生きていけると思っているのですか?」


アルフレッドさんの正論に僕は口ごもる。口ごもる僕の体を柔らかい物が包み込む。フィーナ姉だった。フィーナ姉が僕を守る様に慰めるように強く抱きしめ、頭を撫でてくれた。

フィーナ姉は強い意志をこもった目でアルフレッドさんを見る。


「どうしてカイル君一人に働かせると思っているのですか。その時は私も働きます!!」


「本気ですか? 今の世界は人以外の種族、亜人種には風当たりが強い。そう簡単に雇ってはもらえませんよ。それでもやるというのですか?」


「はい、カイル君は私が生涯をかけてお仕えすると誓ったご主人様……いいえ、旦那様ですから、どんな事があろうと絶対に守ります!!」


「フィーナ姉……」


僕の目から自然と涙が零れる。どんな事になろうとも味方になってくれる人が一人いる、それがこんなに嬉しい事だとは思わなかった。

僕の涙をフィーナ姉は舐めとった。


「しょっぱいね、カイル君の涙」


「当たり前だよ、フィーナ姉。そこは涙をぬぐう所であって舐める所じゃないよ」


僕とフィーナ姉は見つめ合い、同時に笑う。これから先、不安はあるがともに乗り超えようという決意は固まった。僕は無言のアルフレッドさんに向き直り決意を口にする。


「僕はこれからもフィーナ姉と生きていきます。それを邪魔するというのなら……ワルトハイム家からフィーナ姉を強奪します」


「人を盗むと? そんな大罪を犯す覚悟があるというのですか。それが本気だとすれば私と戦う事になりますがそれでもいいのですか?」


「はい!」


僕は力強く頷く、もう迷いはなかった。しばらく睨み合い、不意にアルフレッドさんが笑った。邪気のない朗らかな笑いだった。


「あなたは本当に成長した。だが、それでは全然足りない。覚悟一つで困難を突破するなんて槍一本で城壁を壊そうとしている様なものだ。そんな事は普通は出来ない、不可能を可能に出来るよう強くなりなさい」


「つまり……フィーナ姉とは別れずに済むんですか?」


「さっきも言った通り亜人種は風当たりが強い。ワルトハイムでは特にその傾向が強い。フィーナを屋敷に戻したとしても居場所はないでしょう。だから、カイル様付きのメイドは続投です」


僕はほっとしたが腹も立った。


「何で最初に言わないんですか!?」


「あなたの覚悟の程を聞きたくて少し試させてもらいました」


「ムゥ……アルフレッドさん、何笑ってるんですか。アナタみたいな人が笑っても怖いだけですよ」


「いけませんな、八つ当たりは」


ホッホッと笑うアルフレッドさんにフィーナ姉がポツリと言った。


「アルフレッドさんって冗談が言えたんですね」


「フィーナ、あなた何気に失礼ですよ!」


「カイル君をいじめたんでお返しです」


アルフレッドさんに舌をぺろりと出す。やり込めたフィーナ姉凄い。アルフレッドさんがまた笑いだした。


「私は二人を応援します。これからも頑張りなさい」


「ハイッ!」


僕とフィーナ姉は力強く頷く。


「……それからフィーナの肩の辺りにおられる方、精霊か……神霊の類かとお見受けします。よければ二人を守っていただけますようお願いします」


僕とフィーナ姉は心底驚く。アルフレッドさんにはアルジュナさんが見えている。アルジュナさんは魔法を解き姿を現した。アルジュナさんも驚きを隠せない様だった。


「驚いた。お主、ワシの事を感知したのか?」


「ええ、この離れには神殿に入ったかのような浄化された空気で満たされています。浄化の魔法などフィーナはもちろんカイル様も使う事が出来ません。何故そんな事が出来たのかとここに来た時から原因を探っていました。かなりの時間と労力、魔力を消費しましたよ」


「カイルを試す云々言うとったが本当の目的はそれか」


「ええ……もし二人に害をなすような存在だったらその時は……」


「その時は……」


アルフレッドさんとアルジュナさんの視線がぶつかり火花を散らす。危険な空気を感じ僕は間に入る。


「ともかくアルジュナさんは僕たちを守ってくれる存在で害をなす存在ではありません。いや、でも神様なのに食事を普通にとるし無駄飯食らいという意味では害をなしてるかも」


「お主、人の事言えんじゃろ!!」


僕はまた口ごもる。そんな僕を見たアルフレッドさんが溜め息を付き肩を叩く。


「……まあ、頑張りなさい」


「……ファイ」


僕の語気には力がなかった。


「では、私はもう行きます。フィーナお茶ご馳走様でした。アルジュナ様、二人をよろしくお願いします」


「ウム、任せよ。ワシが全力で二人を守るぞ」


「カイル様は二人の負担にならないよう努力してください」


僕の胸にアルフレッド案の言葉が突き刺さる。


「……頑張ります」


それが精一杯だった


「では」


アルフレッドさんは離れの扉を開く。豪風と横殴りの雨で大変な事になっていた。その中をアルフレッドさんが歩く。ある種の魔法を使っているようでアルフレッドさんの周りの空間が水滴を弾いていた。


「だから、傘を持っていなかったのか」


「簡単な魔法でもそれを持続させるとなると恐ろしい集中力を必要とするぞ。それをはああも簡単に行うとは……あれが敵にあるとしたら一筋縄ではいかんぞ。用心しておけ」


「不吉な事言わないでよ、アルジュナさん」


不意に僕の脳裏にフラグという言葉が浮かび上がった。久坂さんの知識なのだろうがどういう意味かと検索すると後の展開を予想させる出来事や登場人物の出現、伏線という意味らしい。


(……やめてよ、アルフレッドさんと戦う事になるの?)



和やかに話が終わったように見えるが資金援助が停止し自給自足生活が始まりより苦しむ事が確定した。それでもフィーナ姉とついでにアルジュナさんと頑張っていこうと思う。












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