ナツ×ミユキ×トオル
空港内にある喫茶店でトオルの向かい側にナツ、そしてその隣にナツの父親という並びで座る。
店員が注文したコーヒーを持って、テーブルに置き「ごゆっくりどうぞ」と言って去っていくとナツの父親がまず口を開く。
「今回はナツ自身が帰国を望んでいる。だから、前みたいに頭を下げられる筋合いはなく、また頭を下げても意味がないとだけ言っておく」と言うと背広の胸ポケットから一枚の名刺を取り出してトオルに渡す。
トオルがその名刺に目をやると思わず「あっ」と言葉にしてしまった。
それはトオルがよく知っている会社名と人の名と電話番号が書かれている。
「あの・・・これは?」
「君が作品を応募した企業だよ」
それはまさしく何度も受け、何度も涙を流したあのクリエイター募集をしていた開発企業の名刺だった。
まだ何が何だか分からないトオルにナツの父親は説明する。
「私はそこの社長とは昔からの親友でね。君が応募した作品を見させてもらったよ」
「え?本当ですか?」
「あぁ、ただ君のは経験不足というのは仕方ないが、人生の経験もなさ過ぎて採用にはできなかったらしい」
「人生の経験ですか?」
まさか突然、今更ながら自分の欠点を教えられるのは胸が苦しくなるが、トオルにとってはありがたいことでついつい前かがみになってしまうほどである。
「今のクリエイターはゲームやアニメを見てばかりの引きこもりが簡単になれるような職業ではないんだ。いくらゲームを語れても、みんなに受け入れられるゲームが作れなければただの一客だ。」
「つまり僕には才能がないということですか?」
「私が決める事ではなく、この会社のトップが言ってることを改めて気付いて欲しい」
トオルとナツの父親が喋っている間、ナツは目の前に置かれたコーヒーをじっと見つめている。
「まぁ、こんな悪い事を言うつもりはないんだ・・・あとは、本人から聞いてくれたまえ」と言いその場で立ち上がり、ナツの肩にぽんっと手をそえて去って行った。
2人きりになり、トオルはため息を吐きながら背もたれに深く腰掛ける。
ようやくナツはトオルの顔を見て「父が言ったこと分かった?」とトオルに問う。
トオルは少しナツに強い口調で「才能がないことか?」と言う。
ナツは首を大きく振りトオルの言葉を否定した。
「才能がないなんて一言も言ってないわ。」
「でも、さっき採用できないって・・・」
「それは、パソコンで見つけた広告から募集して一人に選ばれる場合よ」
トオルは自分が思っていたことと違う状況になり、また前かがみになりナツの話を聞いた。
「雑用からでいいなら、あなたは採用されるってことだわ」
「サラッと人の人生を貶すこと言うな~」とトオルは笑って、天井を見る。
そして、右手を上に向けて「まぁ、本当に下の下から初めてみてもいいかもな」と言った。
そんなトオルの姿を見てナツは微笑み、言いたくなさそうにある話題を出した。
「トオルはあのミユキが好き?」
トオルは右手を挙げたままナツの方を見て、顔が赤くなる。
「い、いやもう飽きたよ・・・」と照れながら言う。
「だいたいなんでそんなこと聞くんだよ?」
ナツはさっきまで微笑んでいた顔とは真逆でいつもの表情に戻って、トオルに最後の告白をする。
「あのミユキは私よ」
その言葉にトオルは聞き直す。
「あのミユキは私よ」とロボットのように同じ台詞を二度繰り返す。
「嘘だろ?」
「嘘じゃないわ。初めて会ったとき私とあれを照らし合わせたでしょ?」
ナツの言葉は確かに合っているが、それを信じてしまうとまた頭が混乱してしまいそうになるので、そう思わないようにした。
「あれは私をモデルに創り上げられたキャラクターよ。私がたまにトオルの事を好きだけど嫌いと言ったの覚えてる?」
「うん。覚えてる」
「あの時、トオルは私をミユキとして見るような目をしていたから」
「なら、僕の部屋に来た時に言ってくれたのは?」
「それは本当だった。だから、私はリンに相談して、あなたのあのミユキ達を捨ててもらったの」
やはり真実を避けることはできず、混乱はしないものの何故か恐怖と不安感が込み上げてくる。
そして、ナツのこの言葉で完全に今、自分が追いつめられている状況だということに気付く。
「私とミユキ・・・どっちが好きなの?」
答えはもちろんナツなのだが、ナツと答えてもミユキになってしまう。
ミユキはあくまでも仮想人物で、愛情なんてはなからなかったはず。
でも、今改めてこの質問を受けるとどちらも答えることができない。
黙っているトオルを安心させるかのようにナツは「私は魔女でないから安心して」と笑わせようとしている様に言う。
「結局、帰国とどういう繋がりがあるんだ?」
「この日本に私が2人も居ては駄目なの。きっとトオルの人生に支障をきたすから。それに私皆を見ていてやりたいことができたの」
「やりたいことって?」
「それはまだ言葉にはできないほど曖昧だけど、みずき荘の皆みたいに生きてみたいの」
「結構、大変だぞ?」
「大丈夫よ、トオルがそれを耐えられているんだから」
「はは、そうだな」
星野ナツはやっぱり出会った時との印象通り不思議で少し奇妙な女性だ。
結局、帰国の意味もハッキリしてなくて、いつも答えのない答えをしてくる。
でも、そんなナツが嫌いになれない。
皆が知っている何でも自分で解決して、武器も多彩に使えて、世界を救っているミユキとは正反対で現実のミユキつまりナツは自分では何もできなくて、無知で、感情も人並みに少なくて、でもそんなナツが愛おしくて、いつも何をしているのか心配になって、ついつい違う意味で目が離せない存在で、でも僕らが知っているナツは自分で初めて帰国という選択をした。
これが答えなんじゃないかな?
これが好きってことじゃないかな?
これがみんなの言う「愛」じゃないのかな?
トオルはナツを連れて父親の所まで向かう。
ナツはトオルに絶対に再会する約束をした。
トオルはナツの約束を指きりで交わした。
そしてトオルはナツの父親に頭を下げてお礼を言った。
そのトオルの姿を見て「その礼儀は好きだ」とだけ言いトオルの元から離れて行った。




