ツナグ・ツナガル・ツナガッテ
トオルは過去にナツと共に窓から家を出て、街に飛び出したことを思い出し慌てて窓の方へ駆け寄った。
しかし、窓にはしっかりと鍵がかかっており、ここから外へ出た形跡はない。
またトオルは、東京の景色とこのみずき荘が見える2人で行った場所へ期待はしてなかったが急いで向かったが、案の定そこにも居なかった。
みずき荘に戻った時には、たくさんの電灯がすでに点いており、まだ5時だと言うのに太陽は沈み、辺りは暗闇に変わっていた。
トオルがみずき荘の階段を上る音を聞き、鈴本さんの部屋から2人が飛び出してきた。
「いたかい?」
トオルは左右に大きく首を振った。
「どこに行ったんだろう?」
その場で3人でナツの行方を考えているとナツと鈴本の部屋の間にある姉の部屋がゆっくりと開く。
そこからは、姉のリンが出てきて「気になるか?」と意味深な言葉を3人に向けた。
そして、一枚の封筒をトオルの足元に投げた。
「それは、あの子が私に渡したものだ」
トオルは階段の隙間から落ちそうな一枚の封筒を慌てて拾った。
「どうして僕に?」
「知らん、あの子は直接渡すのは恥ずかしいからと言って私に渡して、ここから去って行ったぞ」
トオルはその封筒の中に入っている一枚の紙を取り出し、それに書かれている文を見て唖然とする。
「どうするんだ?追いかけないのか?」とリンは上から階段に佇むトオルに問う。
「今更、僕に何ができるんですか?」
「あの子は空港だ。何故急にここから出ていくのか知らんが、あの子にとっては急な出来事ではないのかもしれないな」
「前々から考えていたってことですか?」
「それを調べに行くのが貴様の役目ではないのか?」
相変わらずの口調でリンはトオルに自分の感情をぶつける。
それに対しトオルは更にどうすればいいのか分からずに「でも・・・」と何か理由を探すようになっていた。
その時、鈴本はトオルの胸倉を掴んで大声でトオルに怒鳴る。
「いつまで今の自分で押し通すつもりだ!?ナツちゃんは、お前を待ってるんだよ!!」
トオルは鈴本の手を振り払うかのように腕を振り、その腕が鈴本の眼鏡に当たり、その眼鏡は地面に落ちていった。
「だから、なんで・・・なんで僕なんだよ?」
その問いかけにリンは「好きだからだ。バカ者」と言い、トオルが握りしめている紙を見た。
「貴様でなければいけないのは、その紙に書かれているあの子の気持ちが証明しているだろう」
リンが言い終わった後、鈴本がまた大声でトオルに言う。
「早くいけぇぇ!!」
その言葉でトオルはようやく階段から慌てて下り、とにかくタクシーが捕まる場所までひたすら走った。
みずき荘に残った3人は、トオルの姿が見えなくなったのを確認すると各々肩の力を抜いた。
鈴本は一階のアスファルトに落ちた眼鏡を拾いあげ、レンズにひびが入っているのを確認した。
リンは上から「弟がすまないことをしたな」と言い、眼鏡を弁償すると鈴本に言ったが、鈴本は首を左右に振り「大丈夫ですよ」と微笑んだ。
サルはリンに「あの中身を見たんすか?」と訊ねるとリンは笑いながら「私が他人の物を確認しないように見えるか?」と言った。
「何て書いてたんすか?」とまたもやサルからの質問にただ笑うだけ笑い両手を上に挙げながら背筋を伸ばした。
そしてその質問には答えずに「私は二日酔いでもう一眠りしたい。でも、せっかくのクリスマスに何も情事がないのは、つまらん。私が奢ってやるから2時間後、起こしに来い」と言ってドアノブに手を伸ばす。
部屋に入るかと思いきやリンは鈴本に「あのバカに色々と言ってくれてありがとうなっ」と言った。
鈴本は階段をのぼりながら「少し言いすぎましたかね」と指で眼鏡をゆらゆらさせながら言うとリンは「どうせ私も言おうと思っていた。気にするな」とだけ言い部屋に戻った。
タクシーに乗り込んだトオルは、運転手に行先を告げて、座席に背中をあずけて車内から外の景色を眺めていた。
しばらくするとタクシーは高速道路に入り、先程よりもスピードは加速する。
車内でトオルは、頭の中でみずき荘の皆をある分析していた。
仮にみずき荘がトオル自身の心ならば、その空っぽな心に多くの感情が染み込んできたのだろう。
例えばサルは漢字一文字で表すならば「笑」つまりいつも人を笑わせてくれる明るく優しい存在。
鈴本とは知識と怒りだろうか。嫌な事も喧嘩することもあった。でも、それを解消してくれるのが自分の経験で、鈴本と出会ったからこそトオルは成長できたようにも思える。
リンからは家族の愛を改めて感じさせられる。
そして、ナツは「愛」。管理人の2人はトオルの将来を表している。
いつまでも仲良く、恋人と一緒に幸せに暮らせたらいいなと思わせる。
トオルは改めてあのみずき荘に住んで良かったとしみじみ思う。
運転手がどこで停車させるかとトオルに訊ねた時、トオルは我に返る。
とりあえず国際ターミナルの出入り口付近を示した時、現在財布を所持しているかという不安にかられる。
ジーパンのお尻らへんのポケットが少し膨らんでいるのを確認すると少し安心して、また身体を背もたれにあずける。
空港が近づいてあと2分くらいで到着するであろうという時に、今度は所持金について焦るようになる。
すぐに後ろポケットから財布を取り出し、中身を確認する。
「な、なんだ入ってるじゃんか・・・」
足りることで、トオルの緊張は一旦ほどける。
到着し料金を払いタクシーを降りると目の前には、大きな空港がそびえたっている。
今のトオルは勇者の剣もなければ最強の盾も持たない兵士で、レベルの低い状態から最後のボスが待つ城に来たような感じがする。もちろん回復アイテムは所持しておらず、ここで深い傷を受ける訳にはいかない。
ガラスの自動ドアがトオルを誘う。
二つの扉を潜るとそこにはたくさんの人で溢れかえっていた。
中には外国から訪れてきた人もいて、日本語以外にも英語や韓国語など様々な言語が飛び交っている。
ましてやアナウンスもなので、トオルにとっては未知の世界であった。
まるで敵の陣に武器も持たず忍び込んだような感覚になる。
とりあえず建物内を走り回りナツを探した。
ナツの背中姿を意識して見た事がないので、たまに外国の金髪の女性と見間違える時がある。
あいにくナツの電話番号を知らないのが難点だ。
ひたすら探しているとどこかで見た男が立っている。
その男はみずき荘に来たナツのお父さんのボディーガードだった。
その男を見ながら方向を変えて進んでいると、そのがたいのいい背中で隠れていて見えなかったナツの姿があった。
トオルは急いで駆け寄り、ナツの名前を大声で叫んだ。
ナツはその声を待っていたかのようにすぐさま声のする方を向いた。
トオルがナツの傍に近づくとそのボディーガードの男はナツの前に出て、向かってくるトオルを防ごうとする。しかし、ナツが「大丈夫」とだけ言うとその男はトオルを睨みつけながらも後ろに一歩下がる。
トオルはナツに近寄るや否やすぐさま握りしめていた手紙を突きつける。
「なんだよ、これ?」とトオルは息をきらせながら言う。
「そう書いたら来てくれるでしょ?」とナツは相変わらずの無表情で言う。
「来てやったんだから、少しは喜べよ」
「喜んでるわ」
「どこがだよ」
トオルはその手紙を小さく折りたたみポケットにしまう。
「来るに決まってるだろ!『会いに来て』だけ書いてたら!」
2人で話しているとナツの視線がトオルの後ろに向く。
トオルは振り向き確認すると、数人の男がこちらに向かってくる。
「ナツのお父さん・・・」
トオルはあっという間にそのラスボスとやらに囲まれる。
そしてその魔人のようなお腹の出たラスボスはトオルに言った。
「わたしとナツ、そして君との3人で話したかったんだ」
トオルがナツの顔を見るとナツの表情は無表情ながらもどこか悲しい顔をしているように見える。




