冬の朝
カーテンの隙間から部屋の中を照らしてくれる冬の早朝に天に上がる太陽の光で目が覚める。
空気の乾燥のせいか、少しむず痒い首元を掻きむしりながらベッドを下り、両手でカーテンを掴み思いっ切り開けた。
部屋中を舞い上がるホコリが太陽の光でよく見える。
窓を少しだけ開けると外の冷たい風がぶわっとトオルの顔を包み込む。
寒いのは嫌いだが、早朝のひんやりとした冷たい空気は嫌いになれない。
外では新聞配達のバイトが運転するバイク音や郵便配達員が荷物を届けるために玄関まで小走りする音、ランニングをしているリズミカルな靴の音などが寝起きのトオルの耳に響いて聞こえる。
トオルはしばらく窓から景色を見ながら、眠気を完全に消して、ここに来るまでにつまずくものがなく、部屋の中にナツの姿がないことに気が付いた。
「自分の部屋にでも帰ったのか・・・」
と勝手に決めつけ、トオルはやかんに水道水を入れてお湯を沸かす。
コップの上にはコーヒーのパックが挟まれており、すでにコーヒーのほろ苦くいい香りがトオルの鼻の周りで踊る。
コーヒーも飲み終わり、年末前の再放送だらけの番組をチェックし、特に見たいものが無かったので、とりあえずお笑い番組にチャンネルを合わせて、トオルは部屋の中を掃除することにした。
大きなゴミ袋を用意し、まずは床に落ちているゴミと言えるのか分からない物を片づける。
意外に自分の身の回りの物が片付くと大掃除した気分になった。
元々部屋の中はトオルが好きだったアニメ「ときめき絶対無敵少女隊」のグッツで埋め尽くされていたので、姉が捨てて以来トオルの部屋は殺風景になった。
別に断捨離にハマっているわけではないが、本棚にあるもう読まないであろう本や必要のない雑貨をゴミ袋に入れて行った。
テレビの画面から先程まで映っていたお笑い芸人の方々が居なくなり、短時間の通販番組が始まったところで手を休めて、ゴミ袋の上の方を結んだ。
「まぁ、こんなもんか・・・」
その後、久しぶりに押し入れの中から掃除機を取り出し床に落ちている髪の毛やお菓子の食べかすなどを綺麗に吸い取った。
掃除機の電源を切った時にまだ朝の7時くらいであることに気付き、ナツやその他の皆に迷惑だったのかと思った。
このことは後で聞いてみればいいことだと考えるのを止めて、少しモコモコしている上着を着て、部屋を出て郵便物を取りに下に降りた。
郵便受けの前に立つとこの中に届くのはいつも不合格の通知ばかりだったことを思い出し、またわざわざ降りたのに中に何も入ってないのを確認すると改めて少し苛立ち郵便受けを軽く叩いた。
外に出たついでにトオルは近くにあるコンビニに向かった。
コンビニ前にはトラックや普通自動車などが数台止まっており、店内にはこれから仕事場に向かうんだろう建築関係の仕事をしている人達でいっぱいだった。
この時間帯に訪れたのは初めてで、またこの時期でもまだ仕事があるのかと自分が大学生で何故か怠けている自分が見れた。
店内に置かれている雑誌を数冊立ち読みして、それからトイレを借りてこのまま帰るのもバイトに失礼だと思い、飲み物と小腹が空いたのでおにぎり3個とレジにある肉まんやおでんをいくつか買った。
もちろん一人で食べるつもりはなく、部屋に戻っても退屈なのでサルの部屋で一緒に食べるつもりだ。
時間はあっという間に9時前になっており、この時間帯なら訪問しても早くないだろうと思い、みずき荘の前まで到着した時にサルの前に一度ナツの部屋を訪れてみようと突然思い階段を上がり、ナツの部屋のインターホンを押した。
2、3度押した後にナツではなく、隣の部屋から姉のリンが嫌な顔をしながら出てきた。
「うるさいんだよ!!」
リンの口からはお酒の臭いがする。
トオルは渋々階段を下り、サルの部屋のインターホンを押した。
しかしこれまた3度押しても返事がない。
それどころか上からリンが顔を出し、下にいるトオルに「だから、うるさいんだよ!!」とまた罵声を浴びせた。
トオルは結局、自分の部屋に戻り一人で買ったもの全部を食べた。
「みんなの朝って遅いんだな」
鈴本さんの所も訪れようと思ったが、もしまた応答がない場合、隣のリンから次は殴られるだろうと察して止めた。
それから数時間後、ようやくサルの方から何食わぬ顔で訪れて来て、トオルの部屋で相変わらず飽きないゲームを2人でやり続けた。
その最中、サルの方から昨日のトオルの事について心配そうに質問してきたが、トオルはいつもと変わらぬ表情で何もなかったことを告げた。
そんな2人の元に外にまで聞こえるゲーム音と2人の笑い声につられたのか鈴本さんがやって来た。
しかし、鈴本さんの顔に笑顔は見えない。
部屋にも上がらず、玄関から隣の部屋にナツが居ないことを聞かされる。
トオルは「寝てるんじゃないですか?」と視線をテレビ画面に向けたまま返事した。
「ここから出て行ったんだ」
鈴本の言葉でトオルはようやく後ろを振り向き鈴本の顔を見つめた。
「うそでしょ?」とトオルが疑問をぶつけると「確かめて見ろ」と鈴本は冷めた表情で答える。
トオルは握っていたコントローラーを離し、小走りで靴も履かずに隣のナツの部屋を見た。
鍵は開いており、家具もそのままである。
テレビ画面に映るトオルが使っていたキャラクターは、無残にも敵からやられっぱなしである。
変わりばえのない今日のような毎日が嫌いだった。
でも、特別な日を過ごした後のこの気持ちはさらに嫌いになった。
この部屋からでなくても、みずき荘の階段をゆっくりと上がってくる見飽きたナツの笑顔が今、この瞬間現れてくれと心の底から望んだ。
しかし、今ここにあるのは慌てている自分とただ佇む鈴本とサル、そして真っ暗なナツの部屋だけだった。




