弾けるサイダーの泡たち
姉はゆっくりとトオルのもとへ近寄り先程までナツが座っていたブランコに腰掛ける。
トオルもまた先程の位置に戻り、ため息を吐きながら座る。
姉はポケットから屋台で買ったであろうサイダー飲料をそっと何も言わずにトオルに渡した。
トオルも何も言わずにそれを受け取った。
サイダーはすでに夏の気温で温くなっていた。
それでもトオルは喉の潤いを取り戻したいため、プシュッと缶を開けて3分の2ほど飲み込んだ。
この時、温い炭酸飲料も悪くは無いと発見する。
もう一口飲もうとした時、姉がやっと喋った。
「貴様は女心を分かってないな・・・」
その言葉の意味をトオルはすでに理解していた。
一人寂しく帰るナツの腕くらい掴んで止めるといった恋愛ストーリーのあるあるをしなかったのだから。
しかし、今のトオルはリンに反論できるほど感情が高ぶっていた。
「姉さん・・・姉様だって結婚しないじゃないか!」
「わたしを幸せにできる雄などこの世に存在せんわ。それに今は親孝行のために仕事が優先だ」
こんな事を言う姉が、まさか10年も経たないうちに会社の後輩と結婚することになるとは、この時トオルだけでなく両親も想像がつかなかった。
「そういえば将来の事などもう決めたのか?」
リンは話に飽きたかの様に急に話題を変えた。
トオルは視線を地面に向け、黙り込んだ。
「決まっているんだな?言ってみろ?」
リンはトオルの気持ちなど知らずに問い続けた。
それでもトオルは口にすることはなかった。
くだらない羞恥心と本当に自分がやりたい事なのか分からないためリンには伝えれなかった。
「ふんっ友には告げれて、身内には言えんのか」
この言葉にはおそらくリンはすでに知っていることを意味している。
「やりたいことが何なのか告げれないのなら、それはただの趣味と思え」
趣味から始めた事が仕事に繋がればと安易な考えを持っていたのは、確かだ。
逆にそれに対し周りの友達は応援してくれていた。
しかし、社会で生きる姉の言葉で自分が崩壊しそうになる。
言葉で伝えてしまえば、気が楽になるかもしれない。
でも、心の片隅で笑われるのを恐れていたのかもしれない。
「貴様は恋愛も夢も悲観的だな」
トオルの怒りや悲しみなどが混ざり合った感情はついに爆発し、その場で立ち上がりリンに言った。
「姉さんは何しに来たんだよ!」
「前にも言っただろ、貴様の監視役だと」
聞きたかったのはそういう意味ではない。
でも、それを弁解する気持ちはない。
中身が少し残っているサイダーの缶を地面に投げつけ、涙を浮かべた目でリンを見た。
リンにはトオルの言いたいことが分かっていた。
リンは転がる缶を拾い、公園にある錆びたゴミ箱の中に入れた。
トオルはそんな姉を見続けた。
「私は嬉しいぞ」
リンは無表情のままトオルに言った。
「幼いころから人と接することが苦手でこの私さえにも本音で語り合ったことのないお前が、今は感情を剥き出しにして私に立ち向かい、周りの人間からは頼りにされることもあれば、こうして好きな女の子もできて私は嬉しい」
トオルの高ぶる感情は徐々に治まり、いつしか体の力が一気に抜け、またもやブランコに座り俯く。
リンは一歩一歩トオルの傍へと近づく。
そしてトオルの視界にリンの靴が見えた時、ボソボソっと小声で言った。
それは今までのことやこれからの不安、自分が生きる意味など誰もがそれを聞いてネガティブ思考だなと思うような発言をする。
初めは大人しく聞いていたリンだったが、次第に弟のマイナスな発言に耐えられなくなり「言うな!」とリンは強い口調で言った。
トオルの耳にその言葉は届いてなく、脳にさえも伝達されていない。
「言うな!言うな!」
まだ喋るトオルにリンは更に強気で言った。
脳には伝達されていないが、耳元には届いてトオルは我に返り顔を上げてリンを見た。
トオルがやっと口を閉じた時、リンは優しく最後に言った。
「もう言わなくてもいいぞ・・・・トオル」
リンの表情は今まで一度も見た事のない悲しい顔をしていた。
まるで我が弟を守ってあげたい兄または姉のような表情だった。




