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夏休みの終わりに生まれる蝉

トオルは帰宅後、リンの「生身の人間に恋したかったら、部屋にある物とけじめをつけろ」という捨て台詞を思い出し、部屋中にある物を眺める。

しかし、泣きつかれたトオルはそのままベッドの上に横たわり目を瞑りこの日を終えた。

翌朝、トオルが目を覚ますとリンが顔を覗き込んでいた。

うわっと驚きベッドから飛び起きた。

「な、なに?」

「あんた決めたの?」

その返事にトオルは頷いた。

「どっち?」とリンは短い言葉で返す。

トオルは照れながら、リンに分かるだろうといった感じの目線で合図を送る。

「どうするんだ?」とリンは微笑み、後ろのポスターを指差して言った。

トオルは昨夜、頭を洗わなかったせいかベタついた髪の毛を触りながら立ち上がり目線を逸らして言う。

「じ、自分じゃ・・・できないから・・・」

リンはため息を吐きながら、パソコンの傍に置いてあるフィギュアを手に取り段ボールに入れようとした。

「わたしがやってもいいんだな?」

トオルの同意を得ると次から次へとトオルが愛したアニメのグッヅを段ボールへと投げ入れた。

ポスターに関しては真ん中の上側を掴み、下へと思いっ切り破り裂いた。

トオルはその光景を見て、名残惜しい気持ちとは逆に清々しい気持ちになった。

すべてを片づけると部屋の壁は真っ白なんだと改めて気づかされる。


リンは重くなった段ボールを抱えるとこれらを売りに行こうと言い出す。

トオルが何故と訊ねるとリンは靴を履きながら「私が帰る費用にするためだ」と言った。

そこは納得のいかないトオルだったが、朝から文句を言うのがバカらしく思えて笑った。

すべて親の金を使い定価で買ったこれらも売ってしまえば半分以下にしかならなかった。

中には買い取りできない物もあった。

さらに言ってしまえば、処分費までも取られるさまになった。

みずき荘に戻る道中、リンは買い取りの店員の愚痴しか言ってなかった。


それから2日後、リンは新幹線の切符を買って帰る仕度を終えた。

昼に駅までいつもの4組でリンを送り出す。

リンは大きなリュックを肩に背負い、両手には東京バナナなど誰かにあげる物や自分のまだタグが付いたままの洋服が入った紙袋でいっぱいだった。

「いろいろ世話になったな」

「もう来ないでください」

「何を言っている?私はあそこに住むつもりだぞ」

それを聞いてトオルの顔は一瞬にして青ざめる。

「みずき荘に住むって冗談ですよね?」

恐怖のあまり敬語で尋ねると真顔で答える。

「冗談じゃないぞ、ちゃんと下に居る管理人とは話してあるし鍵ももう預かってるぞ」とポケットから鍵をちらつかせた。

「で、でもなんで?」

「実は来週から東京に転勤になってな・・・ちょうど部屋を探していたんだ」

「マジですか?」

「安心しろっ。私は仕事で忙しいから貴様らの相手をする時間などおそらく無いからな」

話していると新幹線の発車を知らせるアナウンスが流れる。

トオルたちは白線から少し下がり、リンは乗り込み口で振り返りトオルに言った。


「私から母には連絡してあるから、不器用なら不器用らしくすべてを話せ」

「話すって何をですか?」

その時、新幹線の扉がゆっくりと閉まりリンの声は閉鎖音で聞こえなかった。

しかし、トオルはリンの口の動きを読み取った。

そしてみずき荘に帰るとすぐさま応募していた作品の合否の結果が届いてないか郵便物の中を確認した。

すると何通かの封筒が入っていた。

トオルは突然の緊張で胸が苦しくなっていた。

その時、マナーモードにしていた携帯が小刻みに動き出す。

母からだった。


トオルが通話ボタンを押すと母親は明るい声でトオルの名前を呼んだ。

そしてすぐにリンから聞かされた話題をトオルに振った。

トオルは母にはトオルちゃんと呼ばれ、父親からはトオルと呼び捨てで呼ばれている。

「トオルちゃんは、どうしたいの?」

かなり話しを凝縮している事に対して、今後姉には隠し事が出来ないなと悟った。

「どうしたいって好きな事をしたい」

「それは本当にやりたいことなの?」

トオルは言葉に詰まった。

そして、トオルは先程確認した封筒を探った。

その中には、応募したアニメクリエイターの合否の結果が届いていた。

もちろんまだ中身は確認していない。

それでも何故か結果が分かっているような口ぶりで親に言った。


「うん、これは出来るところまでやってみたい。これしか考えられないんだ」

そういうと母親は電話越しで喜んでいるのが分かるように「そっか」と一言で終わらした。

最後にトオルは今までの仕送りを半分に減らしてくれと頼んだ。

実際、半分以上はグッヅに使っていたのだから、当然のことである。

電話を切るとトオルはすぐに封筒を開封した。

結果は合格で、一週間後とある建物でプレゼンテーションの発表をすることになった。

トオルは内定をもらったかのように両手を大きく上げて喜んだ。

今でもナツを見るとミユキを思い出す。

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