愛の戦士
町内会の祭りといっても、そりゃ周辺に住んでいる人たちが一角に集まるのだから一瞬でもよそ見をするとはぐれてしまうのは間違いない。
案の定、リンゴ飴に興味をそそいでいたナツの後ろで買いたいのか買いたくないのかを尋ねていたトオル達はリン達とはぐれてしまった。
とりあえず2人は、人混みから逃れるために近くにある人気のない公園へ向かった。
「どうせあっちはあっちで楽しんでるだろうし、ここで時間潰したら帰ろうか」
ナツは少し溶けたリンゴ飴をかじりながら頭を縦に振った。
周りには誰もいない。
自然と出来た2人だけの空間にトオルの心は緊張で蝕まれていく。
季節のせいでもあり、トオルの汗は止まらない。
ナツはそっと静かにブランコに座った。
トオルもナツにつられ、隣にあるブランコに座る。
トオルの横にはあと2つ空いているブランコがある。
少し離れた所で太鼓の音や人々の話し声、笑い声等が微かに響いて聞こえる。
今、トオルの心の中では激しい葛藤が起きていた。
それはこの状況が告白するのに正しいのか正しくないのかということだった。
架空の人物以外に恋したのは、幼稚園以来だろう。
いや、中高も女子に一目惚れしたが自分が相手にされてないと思うと気持ちが一気に冷めていた。
こういうシュミレーションは、ゲームや漫画で知識が豊富なはず・・・しかし、いざ現実で巻き起こるとなると頭の中は真っ白になり、日本人なのに日本語を思い出せないくらいだった。
なんだったら片言の英語で告白してしまえば、気が楽になるようにも感じる。
とにかく短い文でも口にして言うのが、こんなにも勇気がいるのを改めて身に感じる。
キーコー、キーコ―とリズムよくナツが揺らすブランコの音が、トオルの思考をさらに混乱させる。
トオルはとりあえずその音を止めるために立ち上がり、ナツの目の前に行き、片手で座る板を吊るしている鎖を握った。
突然の行動にナツはトオルの目を見つめる。
とりかえしのつかないトオルの行動は、自分で自分を追いつめていた。
渇いた喉を潤すために、逆に喉がカラカラになるほど何度も唾を飲み込んだ。
そして、口元の筋肉だけを使う感じで言った。
「好き・・・です」
その言葉を聞いても、ナツの表情はピクリとも変わらない。
「ナツ?」トオルは渇いた声で言った。
古いテレビが起動するようにナツもしばらくしてトオルの言葉に返事する。
「わたしも・・・好きよ」
トオルは思わず、聞き返す。
ナツは素直にもう一度同じ言葉を発する。
トオルが二度目で笑みを浮かべようとした時、ナツはまた口を開く。
「でも、今のトオルは嫌い」
トオルはまたもや聞き返した。
「今のトオルは嫌い・・・トオルが好きなのは私だけじゃないから」
そう言うとナツも立ち上がり、一人でスタスタとどこかへ行ってしまった。
何が何だか分からないトオルは、ナツの小さな華奢な背中を見つめるしかできなかった。
ふとっ左側の公園の端を見ると、そこには腕を組んで睨んでくる桜井リンがいた。
初めは人混みの中で離れ離れになったことに対して怒りを表しているのだ思っていたが、それは大いに違っていることをこの後叩きつけられる。




