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短冊に願いを書きました、肉食の人に狙われているとは思いもしませんでしたが  作者: サトウアラレ


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3/3

3 黒川視点

七月七日の七夕の夜。仕事帰り、信号待ちをしている間、タクシーの中から外を眺めていると最近気になっている女の子が歩いていた。


「あ、あの子」


思わず声を出すと、運転手が「え?」と声を掛けた。


「すみません、そこで停めて貰えますか?」


「ええ、いいですよ。じゃ、そこの角で停まりますね」


本来の降りる場所とは大分手前だったが、運転手はすぐに停車をした。支払いを済ませ、タクシーを出てバス停の方に急ぐと、女の子はまだいた。


──よかった。


思わずタクシーから降りてしまったが、その後の事は考えていなかった。俺、デカいしな。この顔だし。威圧的とか、強面とか言われる。急に話し掛けたら怖がられるだろうな。


学生の頃は何もしなくても女は寄ってきたし、遊ぶには苦労をした事はない。でも、もう、そういうのも飽きた。あの子には怖がられたくないし、遊びだとも思われたくない。


──こんな感情は初めてだ。どうしたらいいんだろうな。


一目惚れ?いや、一目惚れとも違う気がする。


可愛い子だなとは思った。次に見た時に笑顔がいいな、と思った。その次はいつだったか。早足で、歩いていて何か躓いてこけそうになって恥ずかしそうにしていた。


面白いな、と思ったのか。


偶にその子を見れたら今日は、見れたな、と思っていたけれど。何か、今日は思わずタクシーを降りてしまった。


少し近づいてみると、女の子は短冊の所を見て、何か考えてペンをとると、書いて、笹に結んでいた。


そして、「ふふっ」と笑うと、いつも歩いていく方向へと帰って行った。


声をやっぱり掛けれなかったが、短冊も気になる。何を書いたのか、と探すと、おそらくあの子が書いた物が分かった。


結んでいる時に見えた、薄いピンク色の短冊。あの子が結んだ辺りのピンクの短冊はコレだけだ。


そこにあるのは丁寧な字で書かれた、『素敵な人と出会えます様に』。


「……。マジで?」


出会い求めているの?なんだ…。そうか。じゃあ…俺が行ってもいいのか。怖がらせるかと思ったが、心配はないのか。


「じゃあ、声をかけてもいいわけだ」


ゆっくりと目線を向けると、丁度商店街の角を曲がる所だった。


名前も知らない。歳も。でも、出会い求めているのなら。それが俺でもいいってことだよな。


俺は彼女の短冊を取ると、ペンをポケットに入れた。



次の日。



商店街の手前でタクシーを降りて、彼女が来るのを待っていた。


何度か見かけた時は、いつも18時前に商店街にいた。だから今日は17時半に来てみた。バスが来て、そこから彼女が降りてきた。


話しかけようとしていると、彼女は食堂の前のメニューを見てから、何度か見直して「むーん」とか言っていた。


そんな仕草も可愛いけれど、考えている事が分かりやすすぎる。そんなに分かりやすいと、悪い奴にパクリと食べられてしまうぞ。


彼女が見ているメニューを見ると、タイムサービス!!ビール!!半額!!と書いてある。目線を見ると、かき氷も見ている。


ビールを飲むか、いや、かき氷を食べるか、そんな事を考えているのだろうな。


確かに今日も暑い。こうやって外にいるだけで、汗が出てくる。が、こうやって見ていてもしょうがない。声を掛けないと。


とにかく、紳士に。それを心掛けながら、彼女に声を掛けようとした瞬間、彼女が店に入ろうとして焦って肩に触れてしまった。


「!」


驚いた顔をして、ぱっと俺の方を振り向いた彼女の目はまん丸だった。


ああ、やっぱり可愛い。こんな動物いたな。


驚いたような、その中に脅えが混じっている顔。可哀そうで可愛い。え?なになに?と思っているんだろう。どうしたらいいのか分からず、固まっている。


俺は、昨日ポケットに入れっぱなしにしていたペンを思い出した。


「突然、すみません。あの、昨日、コレ、落としてませんか?」


俺がそう言うと、彼女は少し安心した顔をした後に首を傾げた。


「え?私のじゃ…あ、昨夜?昨夜ですか?」


「昨日の夜、短冊のところで落とされてましたよね?渡そうと思ったら見失ってしまって」


そう言うと、「ああ」というように彼女は頷いた。ほっとした顔をして、脅えが表情から無くなった。凄く分かりやすい子だな。


「ああ。短冊のだ。私のじゃないんです。そこの食堂の短冊の所に置いてあったペンですね。使った後に私が落としたのかも」


「そうだったんですか。すみません、突然、声をかけて」


「いいえ、食堂の人に渡しておきます。今から丁度行こうと思ったし」


「え。俺も入ろうと思ったんです」


俺がそう言うと、また目を丸くして驚いた顔をした。


「あ。そうなんですか?」


「はい。こんなに暑いし。ビール、タイムサービス中って書いてあるし」


俺がそう言うと、いたずらをした子供の用に彼女も笑った。


「私もそれにつられて。家まで待てないと思ったんです」


「ははは。待て、出来ないですよね。じゃ、良ければ一杯奢りますよ」


思わずそういうと、彼女はポカンとした顔をした。


「え?」


「いや、勘違いして声掛けちゃったし。せっかくだから。乾杯相手になって下さい」


逃げられないように、軽く促して店に入った。俺も続けて入ると、「らっしゃい、二名?」と聞かれた。「はい」と答えて「カウンターで?」と聞かれたので、「いいですか?」と彼女に聞くと、コクコクと頷いた。


カウンターに二人で座ったが、ちょこんと座る彼女は可愛いかった。


こんな、安い居酒屋兼食堂の店で、気になる子と初めての食事。


俺も、滅茶苦茶だな、と思ったが、彼女はハンカチを取り出すと、首の汗をサッと拭いた。纏めた髪から一筋首の方に垂れて、それが汗で張り付いていた。


涼しい店内で彼女も気持ちよさそうにしている。


──何か、適当に注文して、彼女の好きな物を調べるか。まずは、肉と魚、野菜だな。


俺は店員を呼び、「本日のお勧めと、豚の生姜焼き。アジフライと、豆腐のサラダ。あとご飯と…。生で?」と注文して、彼女の方に聞くと、彼女も頷いた。


「じゃあ、生二つ。刺身、食べれます?」


「え?はい」


──成程、生魚も食べられる。後は…。


「じゃあ、お勧め盛り合わせ一つ、あとこれ、ペン、この店の物みたいで、昨夜落ちてました」


素早く注文し、店員にペンを渡すと彼女におしぼりを渡した。


「あー。店の中、涼しいですね」


「あ、はい」


そう言うと、おしぼりを持って、今更ながら何か考えている顔をしていた。逃がすわけにはいかない。


「生、お待ちー」


丁度良いタイミングで。ビールが持って来られた。


「じゃ、乾杯しましょう。冷たいビールに」


「頂きます」


カチンと合わせると、彼女は勢いよく飲み、「ぷはっ」っと言った。


──可愛いな。


「ははは、美味そうに飲みますね。俺、黒川って言います」



「私は、兎沢(うさぎざわ)です」


「うさぎ?」


「珍しいですよね。はい、その兎です」


「へえ…。可愛いですね」


うさぎちゃんか。可愛いな。ぷるぷる震えて、耳を動かして、さっと隠れる。ぱくっと食べたら泣いてしまうだろうか。震えて嫌われるだろうか。嫌われるのは嫌だな。美味しそうに食べて、楽しそうにしているのをこれからも見ていたい。


「夏の間にビアガーデンとかも行きたいな」


独り言のように言った彼女の言葉を俺は聞き逃さなかった。


なるほどね。少しずつ、少しずつ、彼女のテリトリーに入って行こう。俺は彼女の話に耳を傾けながら、これからの作戦を練っていたのだ。




そして連絡先も交換し、三週間程経った頃。



ホテルのビアビュッフェなるものの予約も取った。知り合いに頼むとすぐに予約を取ってくれた。しかも『この間のお礼だから』と、無料で。


無料ならうさぎちゃんは断らないだろうか。どうだろう。どう誘えば来てくれるかな。


中学生でもないのに、一人の女の子を一生懸命落とそうとしているのが、自分でもおかしい。


まあ、うさぎちゃんが可愛いのが悪いな。


「ビュッフェの帰りに、告白したら、驚くかなあ」


でも、まあ、もういいだろう。待ても、飽きてきた。


「可愛いからな。早く捕まえておかないと」



ほろ酔いの彼女に俺が今夜告白するまで、あと五時間。


「楽しみだな」


俺は無邪気なうさぎちゃんにそう、メッセージを送った。


今日は会える。そう思うだけで、嬉しい。俺も大概溺れてるな。なんて言おうか。やっぱりストレートがいいのか。


『好きだよ』


『付き合って欲しい』


『うさぎさんじゃなくて、うさぎちゃんって呼んでもいいかな?』


頭の中で言葉が浮かんでは、どれを言おうか迷っている。


「まずはご飯。そしてお酒。うさぎちゃん…ちゃんと捕まえておきたいな」


思わずつぶやいた自分の言葉に笑ってしまった。







ここまでです。

読んでいただきありがとうございます。もしよろしければ、☆評価、ブックマークして頂けると、嬉しいです。モチベーションに繋がります。


これからの黒川さんとうさぎちゃんを読みたいと需要があれば、続きがあるかも…。です。

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