第14話 読める子供
ロウは三日、銅貨に触らなかった。
腰の布の、別の折り目に入れたままだった。頁の場所ではない。
その間、ロウは街を歩いた。
歩きながら、印章を見た。
商会の印は、丸の中に鳥。
教会の印は、四角の中に鍵。
文字は読めない。だが、その二つの形は覚えていた。
檻の台帳に、何度も押されていた。檻の荷札にもあった。
丸い鳥の下で、子供は売られた。
四角い鍵の下で、子供は連れていかれた。
どちらも、近づいていい印ではなかった。
キールも、同じ通りを避けるはずだった。
キールは読める。
読める子供は、鳥と鍵の下に立たない。
ロウは、危ない印のある通りを一つずつ消した。
消したあとに残る細い道を、ゆっくり覗いた。
そこに、キールがいるはずだった。
路地の縁で、子供の声がした。
烏の子の話だった。
「片方の翼だけ、売りに出たって」
「じゃあ、もう片方は残ってるのか」
笑い声がした。
ロウは足を止めた。
ジグの羽音を思い出した。檻の中で、わざと大きく鳴らした羽音だった。
ロウは、そちらへ行かなかった。
ロウは胸の頁を、布の上から確かめた。
探すのは、台帳だった。
四日目の夕方、ロウは水路の縁で足跡を見つけた。
小さい足跡が二つ。
一つは、途中で何度も止まっていた。もう一つは、その止まった足跡の横に戻っていた。
ロウは、その跡を追った。
水路の縁の、捨てられた籠の影で、子供が二人、身体を寄せていた。
一人はキールだった。
もう一人は、それより小さい。髪の横から、長い耳が折れていた。
キールの腕の中に、厚いものがあった。
布で包んであった。結び目の隙間から、押された印の端が見えていた。
長い耳の子供は、キールの袖をつかんでいた。
離していなかった。
ロウは近づかなかった。
少し離れたところで、立ち止まった。
長い耳が、ぴくりと動いた。
それから、キールの顔が上がった。
ロウを見た。
「ロウ」
それだけ言った。
ロウは答えなかった。
胸に手を入れた。頁の形を、布の上から確かめた。
それから、手を抜いた。
キールは、その動作を見た。
それから、自分の腕の中の厚いものを抱え直した。結び目の隙間から、押された印の端が見えた。
ロウは、それ以上近づかなかった。
キールも、それ以上言わなかった。
それで足りた。
ニナは、何も言わなかった。
ただ、キールの袖を、もっと強くつかんだ。
ロウを見ていた。ロウの顔を、長く見ていた。
何か、言いかけた。
口の形が、少し開いた。
セ、の形だった。
ロウは目を逸らした。
夜が来る前に、三人は動いた。
キールは、台帳を腕の中に抱えたまま、歩いた。
ロウは、その歩き方を見ていた。
キールは、店先で足を止めた。
商会の印のある荷車だった。丸の中に、鳥。
ロウにも、その印は見えた。
だが、キールの目は、その下で止まった。ロウには読めない行だった。
キールは唇を閉じた。それから、道を曲がった。
ニナも、ついていった。ロウもついていった。
読める子供は、立ち止まる場所が多かった。
ロウは、キールの腕の中を見た。
厚かった。
歩くたびに、その重さが、キールの歩幅を少しだけ短くしていた。
これを捨てれば、と、ロウは一瞬考えた。
捨てれば、キールはもう少し速く歩ける。たぶん、追われる道も少し減る。
だが、ロウは口に出さなかった。
キールも、台帳を腕から下ろさなかった。
台帳の重さだけが、二人の間に残った。
夜が来た。
水路の縁の、別の籠の影に、三人は身体を寄せた。
ニナは、キールの袖を、まだつかんでいた。
キールは、台帳を膝の上に置いた。
布の結び目の隙間から、硬い表紙の端が見えていた。
ロウは、その中身を見ようとはしなかった。
キールも、それを開こうとはしなかった。
布の包みは、ただ三人の真ん中にあった。
夜の冷たさが、籠の隙間から入ってきた。
ロウは胸に手を入れた。
頁は、まだ濡れていなかった。
三人の真ん中に、ロウが読めない厚いものがあった。
キールはまだ、それを開かなかった。




