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第21話 誰が教えたんだ?



 本来は疲れを癒し、羽を伸ばす場所である自宅。

 そこで俺は緊張しながらテーブルに座っていた。

 左には里香、向かいには壇ノ浦、右側にレナがいて、俺たち四人でテーブルを囲っている。


 狭い家に美少女が三人、きっと誰もが羨む光景だろう。

 しかし俺の胃はキリキリと悲鳴をあげていた。


「高橋、説明してくれるんやんな?」


 先日のフードフェスで鉢合わせをした彼女たち。

 あの日は、収集がつかなくなって後日説明の場を設けることになったのだ。


「ここが健くんのお家……」


 里香は初めて俺の家にぽやぽやとした様子で見渡していた。

 

「にいに」


 レナはいつの間にか右隣に座ってもたれかかっている。


「ちょい、あんたらしっかりしいや!」


 すぱーんと机を叩いて、壇ノ浦が二人に突っ込む。

 まあまあ、と俺がなだめると「元はといえばあんたのせいやん」と咎められてしまう。

 その通りだった。

 

「みんなごめん。予定をバッティングしてしまって」


 俺はみんなに頭を下げた。


「本当にごめん」

 

「なんでそんなことしたんや」


 壇ノ浦は頬杖をつきながら問う。


「壇ノ浦は先約があると言ったら納得していたか?」


「いいや、うち優先してもらう。だってフードフェスはその日にしかないんやもん」


 壇ノ浦は腕を組む。

 だよな、そうと思ってたよ。


「レナは?」


「にいにと一緒に行きたかったから、先約があるって言われたら他の人消すしかない」


 レナがハイライトをなくした瞳でいう。

 物騒だなおい。

 そうならずに済んで良かったよ。


「里香は?」


「私も健くんと一緒に行きたかったし、断られたら嫌だったかも。他のイベントと替えがきかないし」


 里香はもじもじた口を尖らせる。

 そう、映画とかなら別の日に回せただろうけど、フードフェスはその日にしかなかった。


「だろ? みんなの希望を叶える為にはそうするしかなかったんだ」

 

 首輪のことを隠しつつ、なぜそういう状況になってしまったかを理解してもらうためにはこの理由しかなかった。


「もっと他にやり方あったんちゃうん」


「だね」


「……」


 壇ノ浦、里香、レナそれぞれは自分を優先して欲しいという顔はしつつも、どうすれば良かったのか明確な答えが出せずにいるようだった。


「というかもう一人おったやんな、あの……なんや、田中やったけ」


「山田さんだ」


「ああ、山田さん山田さん。そんな名前やったなあ。その子は呼ばへんでええの?」


 壇ノ浦の質問に俺は苦々しく答える。


「山田さんとはあれから会ってないし、連絡も取っていないというか取れないんだ」


「あっはっは、愛想つかされたわけや。まあ普通の子やったらそうなるんも分かるわあ」


 里香やレナ、壇ノ浦とは違って山田さんとは劇的な出会いがあったわけでも何か進展があったわけでもない。

 山田さんとはただのクラスメイトで、彼女の働くお店のただ常連というだけ。

 遊びに誘ってきたやつが他の人たちと予定を被せていたとなると、こんな失礼なやつとは関わらないでおこうと思うのは普通なのかもしれない。

 

 静寂の中、はあ、と壇ノ浦が立ち上がって冷蔵庫へと向かう。


「客人がきてるのにお茶のひとつも出さへんのも悪いし、喉乾いたからお茶飲ませてもらうわ」


「私はこのコップがいい」


 レナ立ち上がり棚から、前にきたときに使っていたコップを取り出して、壇ノ浦の隣に行く。


「なんか二人とも慣れてない?!」


 里香がその様子に驚いている。

 俺と里香の分のお茶を持ってきてくれた二人。里香は律儀にありがとう、と頭を下げていた。

 そして、お茶を一口すすった後、立ち上がっていう。

 

「いや、こんなのおかしいよ!」


「どうした?」


「健くんが私たち四人と予定をブッキングしていることは問題だけどさあ、それよりも」


 それよりも、と俺は首を傾げながらおうむ返しをする。


「どうして健くんは桐山さんや壇ノ浦さんと仲良いの?!」


 くっ、その問題に踏み込んできたか。

 触れられないようにバカなふりをしていたというのに。

 

「うちもそれ気になっててん」

 

「私も」

 

 壇ノ浦とレナが援護射撃をしてきて、俺の逃げ場はなくなってしまった。


「まさか恋人とかじゃないよね……?」


 なんて里香がいうから、空気が一変して重くなった。

 

「いや、恋人じゃないって。みんなとはそんな関係じゃないからさ! な?」


 周囲に同意を求める。

 このままじゃ恋人が沢山いるのに女の子と遊んでいるクズ野郎だ。


「レナとは『お兄ちゃん契約』で俺がレナとその妹のお兄ちゃんになることになったんだよ」


「『お兄ちゃん契約』!?」


「なんやのそれ」


 里香と壇ノ浦が怪訝な顔を向ける。


「ほーん、そんで、にいにとか呼ばせて? 変態やないの」


「妹が欲しかったら……その、私がなるよ、健くん?」


 里香の優しさが痛い!!

 レナも一緒に説明してくれー!


 俺の視線に気づいたレナは、こくりと頷いた。

 

「レナとにいには家族」


「か、家族?!」


「え、えええーー!!」

 

 なにいってんの?!


「そんなこといって、ほんまはやましい関係やったりするんちゃうん?」

  

「レナは妹みたいなもんだし手を出すわけないだろ。守ってあげたいし、後輩だし、そんなことするわけないだろ」


 あれ、否定してるのになんか変な感じだ。

 

「それクズ男の言い訳や!!」


「俺も言ってておかしいなって思ったよ。でもマジなんだって! なあ、レナ。手なんか出してないよな?」


「うん。膝枕してもらっただけ」


 おいーーーーーー!!! 話がこじれるだろうが!!!

 案の定、壇ノ浦がぎゃーぎゃーと騒ぎ、里香のハイライトが消えている。

 

「あなたはどうなの。壇ノ浦さん」


 レナは冷たく鋭い視線を向ける。


「ええ、うち? うちはただの女友達やで? 『友達練習』で友達がいないうちに高橋は手伝ってくれてるだけやん」


「そんなやらしい体の女友達、にいにに必要ない。不健全」


 や、やらしい?! と壇ノ浦は自分の体を抱いた。

 女子からしてもそう見えるよな。


「距離が近くてえっちな体なんて、一番側において置きたくない危険人物だよ」


 うぅーと、里香が歯噛みしていた。

 

「か、勘違いせんといて! うちと高橋はそんな関係やないんやから!」


「本当に? 付き合う気はないって誓える?」


 里香がここぞとばかりに問い詰める。


「ないよな、壇ノ浦?」


 壇ノ浦がそんなこと考える訳がない。


「健くんは黙っててね?」


「はい」


 あれー、里香ってこんなに迫力あったっけ。


「どうなの壇ノ浦さん」

 

「付き合えたら色んなところに出かける障害はなくなるなあとかは考えたことあるけど」


「あ、考えてるんだ。消さないと」


 レナがガタッと立ち上がる。

 どうどう、と俺はレナの前に立ちはだかって抑える。


「どいてにいに、そいつ消せない!」


「ちゃうやん! 好きとかそういうんやないやって!」


 壇ノ浦はいつものはんなりとした所作が崩れて、強く否定するように手をぶんぶんと振っていた。


「にいに、どうしてそいつのこと庇うの? 妹より友達の方が大切?」


 綺麗な青い色の瞳は、深く暗い色をしていた。

 ちょっとやばい。屋上で怒っていたレナみたいになっている。

 

「そういうわけじゃないけどさ」


「へえ、友達のことは大切やないんや」


 壇ノ浦が俺の背後にピッタリと身を寄せて呟く。

 てめえ、ややこしくすんなって!


 それに俺を盾にしてるせいで胸があたってんだよ!

 レナを抑える俺と、俺を盾にする壇ノ浦でサンドイッチ状態になっていた。

 

「妹でも友達でも近すぎ、離れなよ!」


 事態を見兼ねた里香が、俺からレナと壇ノ浦を引き剥がす。


「ちょっと二人とも健くんが困ってんじゃん!」


 ねえ、とレナがいい、あんたと壇ノ浦がいう。

 そして二人の声が重なった。

 

「にいにのなに?!」

「高橋のなんやの?!」


 二人から問われた里香は、たじろぎながらも答える。

 

「わ、私は、高橋くんの恋人だよ」


 ぎゅっとレナは俺の腕を組んで体をべったりと寄せる。

 柔らかい感触に腕は包まれていた。


「許さない!」

 

「嘘や!」


 里香なの発言に場が慌ただしくなる。


「だったら見せつけてあげようよ。友達よりも妹よりも恋人が一番大切だもんね、健くん?」


「おい、里香なに言ってんだ」

 

「は?」


「はあ?」


 里香の発言にレナも壇ノ浦もご立腹だ。


「友達にも妹にもできないことしよ?」


 んー、と里香は目をつむり薄く上品な唇を寄せてくる。

 おいおいおい、なんかスイッチ入って暴走しちゃってるってば!


「ちゅ、ちゅ、ちゅーなんて妹でもできる」


 レナが正面から駆け寄ってきて、だよね、にいに、なんて寂しそうな声を出す。

 二つの美少女の花びらが近づいてくる。

 

 そんな中、ぱっと里香がまぶたを開ける。


「あ、そうだ。恋人だったらさ、もっと雰囲気出さないとね。ほら、健くん触っていいよ」


 里香は組んでいた腕を話して、そのまま自信の胸へと俺の手をあてがう。

 腕から伝わっていた感触が手の平を通じてより鮮明になる。

 むにゅん、と下着越しだというのに柔らかい。


 いや、あれ、里香、これノーブラじゃね?

 周囲を見渡すとピンク色のレースの布地が置かれていた。

 いや、いつの間に?! てか、暴走しすぎだって!


「家族に胸は触らせないでしょ?」


「ん、んんん! こいつ! ふざけるな!」


 里香のわかりやすい挑発に、レナは透き通るほどの白い肌を朱に染めながら激昂していた。

 

「ふーん、『暴食』の名前も伊達やあらへんねんなあ。ほなうちも」


 壇ノ浦がシャツのボタンを外して、はだけながら近づいてくる。


「お、おい壇ノ浦なにしてんだ?!」

 

「『色欲』と呼ばれる身としては負けてられへん!」


 なにいってんだこいつ。

 

「ここで変な関西の負けん気出すな!」


「うるさいうるさい。妹よりも恋人よりも友達が優先やの! それに、身体を許す友達の形もあるみたいやん?」


 それはセフレというんじゃないだろうか?


「その形はあるにはあるが、俺たちは違うぞ」 


「まあまあ、ええやないの細かいことは気にせんで」


 壇ノ浦は俺の空いている片方の手をブラの隙間に忍ばせる。

 どっぷんと、それはどこまでも沈み込むような広大な海を思わせた。

 里香とは違う圧倒重量感。数多の男たちが悩殺されてしまうのも分かる。


 逃げようと手を動かせば、あっ、と壇ノ浦は矯正をあげる。

 こいつこんな声も出せたんだな、男友達のように気安い関係性を築いていたから知らなかった。


 はあ、はあ、と里香が息を荒げながら俺の首をついばむ。

 それが徐々に顎へと近づいてきていて、その軌道が俺の唇に向かっていることは容易にわかった。


 ふーっ、ふーっ、と今にも爆発しそうなレナが俺の頬を両手から挟み動かさないようにしていた。

 視線は俺の唇しかみえていないようだ。


 このまま全て身を預けたらどんなに気持ちがいいだろう。

 きっと最高の気分になれるはずだ。


「健くん」


「にいに」


「たかはしぃ」


 七女の大罪と呼ばれる美少女たち三人が今ここで、俺を必死になって求めている。

 男として誰もが羨むことだろう。平凡とはかけ離れたこの景色に。


 ふと、とある少女の走り去る光景が浮かんだ。

 それは平凡で、普通で、ささやかで、けど大切な日常だった。


 

「みんな一度離れてくれ!」


 

 俺はかろうじて残っていた理性と、運動神経を持って、みんなから離れた。

 とろんとした瞳をした里香に向かっていう。

 

「里香、誤解される言い方するなよ!」


「だって恋人なんだもん!」


 里香は恋人ごっこをしていることをバラしたくないのか頑なに認めようとはしなかった。

 しかし、これ以上こじれるのはマズイため俺は本当のことを打ち明けた。


「男遊びしてると思われた里香の男除け兼、経験を積むために里香とは『恋人ごっこ』といって恋人のフリをしているだけなんだ」


「健くんなんでいうの!」


「だって本当のこと言わないとややこしくなるだろ!」


 これ以上ごちゃごちゃするのは避けたいんだよ。

 

「それって、恋人の練習してたけど実は好きになって恋人になるやつちゃうの?!」


「なにをいってるんだか。そんなことないよな里香?」


 壇ノ浦がばかな事をいっていたので俺は里香にパスをする。

 そんなことを言われたらそれも心外だろう。

 

「……」


「里香?」


「……」

 

 なんとかいってくれよ!!

 里香は頬を赤らめるだけだった。


 気が動転してよく話を聞いていないだけだろう。



「じゃあ家族の方が一番上だから、レナが優先的されるべき」


 レナが当然といった口調でいう。


「いいや、家族より友達の方が楽しく過ごす時間多いと思うで」


「家族よりも友達よりも恋人だと思うんだけどなあ!」


 それに壇ノ浦と里香が反論した。

 なにをー、とみんながわちゃわちゃと言い争っている。


 どうしてこうなったんだ。

 元をたどると、俺がみんなを助けたのは仕方がない。

 それ自体は後悔していないけど、助けたイケメンが俺だとバレてしまったのが問題だ。


「なんで助けた相手が俺って分かったんだ」

 

 疑問が思わず口を突いて出た。

 

「そうだ。そうだよ。なんでみんなはあれが俺って分かったんだ?」


 俺の顔が違ったから普通にしてたらバレないはずなんだ。

 これまで聞こうと思っていたけど忘れていた。

 


「俺の母さんか父さんが写真を送ったのか?」


「ううん、健くんのご両親の連絡先は知らないよ」


 里香の答えに続いて壇ノ浦がいう。


「うちもや。うち自身もそうやし、両親ともに別に関わりない思うけどな」


 レナはこくりと頷いた。


「そう……なのか……」


 俺は顎に手を当てて考える。

 あの日、イケメンになって帰ってきた俺を母さんが写真を撮った。

 それを父に送って自慢して送っていたのが回り回って辿りついてたと思っていた。


 だったら不特定多数にバレるはずだし、ピンポイントに俺が助けた三人にだけ伝わっているというのもおかしな話だ。

 

「だったらどうして分かったんだ?」


「私はあの日、不良に絡まれていた後一人で逃げ出した先にいた人に教えてもらったの。さっきの人はうちの高校の高橋健だって」


「それは誰か分かるか?」

 

「ううん。ごめんなさい、思い出せない。女の子だったのは確かなの。こういっちゃなんだけど、なんだか平凡ですぐに顔も忘れちゃうような感じで……」


 うーん、と里香は思い出そうと頭を悩ませている。

 嘘はついていなんだろう。


「その時は助けてもらったこととその相手が分かったことに安心しちゃって疑問に思わなかったけど、変だよね」


 それから俺はレナに尋ねた。


「にいにがミイナを送ってくれた後、女の子が来て教えてくれた。でも、そこの人が言ってたのと同じで顔がよく思い出せない」


 俺が聞くよりも前に壇ノ浦がシャツのボタンを閉じながら答える。


「うちも同じや。高橋が去った後に制服を着た女が来たんや。うちらと同じ制服や思ったけど、顔は思い出せへんなあ」


「ありがとうみんな」


 俺の正体を教えた一人の人物がいたということが分かった。

 それは女の子で、恐らくうちと同じ学校の生徒であること。

 しかし、誰も顔を思い出せないと来たもんだ。

 のっぺらぼうじゃあるまいし。


 一体その子は誰なんだ?

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