第19話 フードフェス
待ちに待った山田さんとのフードフェス当日。
俺は前髪をおろしてメガネをかけたモブスタイルはそのままに、清潔感を出しつつそこそこのファッションに身を包んでいた。
朝10時、会場近くのベンチで腰掛けていた山田さんが俺の姿を見つけて立ち上がる。
「おはよう。あれ、君なんだか大きな荷物背負ってるね。戦場に行く兵士みたい」
「気合い入って色々詰め込んだらこんなことになってた」
フードフェスへ参戦のため、俺はパンパンのリュックを背負っていた。
「荷物が多いのは普通女の子でしょ? おかしなの。わたしなんてこのカバンだけだよ?」
山田さんが指差したのは、赤い小さなバッグ。それをワンピースの上から斜めがけにしている。
清楚でありながら動きやすくてカジュアルなバランスだった。
いつもの制服姿とは違って、やけに可愛く思えた。
「小さいカバンって女の子らしいよ。それに山田さんの私服初めて見た。いい感じ」
「あはは、褒められた。そんなつもりじゃなかったのに」
ありがと、と山田さんは微笑んだあと俺の姿を見ながら続ける。
「君はいつもと雰囲気ちがうね」
「そうかな?」
こくりと山田さんは頷いた。
「うん。いい感じだよ」
「ありがとう」
感謝を返しつつも俺の本気はもっとカッコよくできるのに、なんて少し歯がゆさを覚える。
だけど、この姿でいい感じといわれると鼻が高くなるのも事実だ。
彼女だけが俺のこの姿を肯定してくれる、そんな風に思うのはドラマチックな自惚れだろうか。
「いこ。まだ見ぬ食べ物が私たちを待ってるよ」
山田さんは俺の手を掴んでから小さな子どものように大股で歩き出す。
柔らかく小さな感触に俺は焦りながらいう。
「え、山田さん!? 手?!」
山田さんはなんでもないようにいう。
「すごい人混みだからさ、はぐれたら迷子になっちゃうかもね。まずはなに食べる? あ、麺はなしだよ?」
「ここまできて麺食べないって」
それよりも手だ。
手汗かいてないよな。
「あそこに、東京で1番獲ったフランス料理のラーメン屋さんがー」
「え、どれ?」
「麺食べないんじゃなかったの」
「ヤラレタ」
あはは、やっぱり食べたいんだ、と屈託のない笑顔をみせる山田さんに俺は、いや、気になっただけだし、とおどけてみせる。
心はそれどころではないけど、それを誤魔化すように。
「あそこの店は店舗が近くにあるみたいだし、今度行こ。だから、今日は別のもの食べよ」
「あ……、うん。わかった」
今、さりげなく予定決められた?!
また出かけてもいいってこと?!
そわそわとした気持ちで、近くにある店に並びながら会計を待つことした。
山田さんはあたりを見渡しながらいう。
「どこも結構並んでるねー」
「うーん、大型イベントというだけあって街中の人がきてるんじゃないかな」
「こういうイベントのときに思うんだけど、こんなに街に人いたんだって思うよね。一体どこに隠れてたんだろう」
「いや意図して隠れてた訳じゃないと思うけどな。生活圏が重ならない人はいないのと同じに感じるのはわかるな」
「だよねー。あ、そろそろ私たちの番だ。なに頼む?」
俺たちが並んでいるのはケバブ屋さん。
目の前に大きな肉の塊が棒を軸にゆっくりと回転していた。
「ここはケバブラップかな、ポップにも定番って書いてあるし。量は、小、普通、大から選べるみたいだけど最初だしここは」
「大で!」
「計画性がない?!」
小を注文しようとした俺に、山田さんが口を挟む。
「なにをー、私ほど計画性のあるひとはいませんよ。ちっちっち」
ちっちっち、というリズムとともに人差し指を左右にふる山田さん。
「初手で大盛り買おうとする人間がいうセリフじゃないと思うんだけど」
「冗談だよ。ここはケバブラップ小を二つで!」
「いやいや、ひとつを二人で分けたほうが沢山種類食べられるよ」
「え、そ、そうだね……」
また冗談かと思って返したんだけど山田さんが頬を赤らめて恥ずかしそうにしていた。
どうしたんだろう、本当に間違えてしまったのかな。
小サイズをひとつだけ頼み、人も多いので歩きながら食べることはせず、立ち止まって食べることにした。
繋がれていた手は自然と離れていて、代わりに山田さんの手には先ほど買ったゲバブラップに占領されていた。
「ケバブって街中でみるけど頼んだことなかったな」
ゲバブラップとは肉と野菜に、薄いパン(トルティーヤというらしい)に挟んでいるものだ。
「お、君は初ケバブなんだ。同じものばっかり食べてそうだもんね」
にやっと山田さんがこちらを悪戯っぽくみる。
「ま、それもあるけどさ、ゲバブって外国人が店員さんになってること多いでしょ。注文しづらくて足が遠のくんだよね」
あのカラフルな店構えも足を遠のかせる一つの要因だ。
陰の者にはハードル高いって。
全部のお店オンライン注文にしてくれないかな。
「それだけの理由? もったいないなぁ。こんなに美味しいのに」
パクッとひとくち食べた山田さんが綻んだ表情をみせる。
味わった後、山田さんは少し恥ずかしそうに「はい、どうぞ」と俺に手渡してくれた。
「ありがとう山田さん。あっ」
俺は山田さんの口のサイズに食べられているケバブラップをみて気づく。
一つしか買ってないから必然的にシェアすることになるんだった。
他のものだったらそれぞれを分けられるのに。
さっき山田さんが顔を赤らめてたのってこのことが頭によぎったからか?!
間接キス……いや、ゲバブラップで間接キスって、情緒なさすぎだろ。
「どうしたの? 君も早く食べてみて、美味しいから」
山田さんは俺を急かす。
彼女は俺のことを異性だと感じてくれいるんだろうか。
嬉しさを覚えながらも、このまま躊躇しているとますます変な空気になりそうだったので、ううん、なんでもない、と俺は山田さんが食べたところを少々避けながら頬張る。
「なんか香ばしいお肉にソースがガツンと効いてて美味しいね。肉自体は思ったよりあっさりしてる。ってかこの肉って何でできてるんだろう。あんな大きな塊肉なんて豚丸ごと一匹ないと無理じゃない?」
俺は気恥ずかしさを吹き飛ばすように早口になる。
「あれは鳥もも肉か牛肉を一枚一枚重ねてるらしいよ。ケバブってトルコ料理で宗教的に豚肉を使わないんだってさ」
「へえ、山田さん詳しいね」
「食べるの好きですから」
山田さんは自信ありげに胸を張った。
決して大きくないのに今日はバッグを斜めがけにしてるせいで強調されているから困る。
「次、私食べるからちょうだい」
ぱくっと、山田さんは俺が手に持ったままのケバブラップを横からかじった。
「ちょっ、こぼれる」
「だって、持ち替え合うの面倒だったから」
そうかな。うん、そうかもしれない。
どきりとしたけど気にしちゃ負けだ。
食べはじめの頃は、山田さんが食べた部分をそれとなく避けるようにしていたけど最後にはそうもいってられなくなったので、仲良く食べるのだった。
食べ終わってから次の作戦を立てる。
「そうだ。大体並んでるし、二人で分担して買った方がたくさん食べられるかも」
「たしかにその方が賢いかもしれない。あ、ちょっとごめん、トイレ行ってくる」
「うん、じゃあ私ほかのところ見ながら待ってるねー」
山田さんが小さく手をふる。
俺も小さく返すとそのまま足どりでトイレには行かず、物陰に隠れてリュックを下ろす。
ーーーーよし、次だ。
10時半ごろ。
俺はスマホを見ながら人混みをかき分ける。
『おーい』
里香からの連絡だった。
『着いてるよー』
アシカのスタンプを交えたかわいいもの。
『どこにいるの?』
『大丈夫?』
『迎えに行こうか?』
俺が返信しよう文字を打つ間に、里香から立て続けに連絡がくる。
ポンポンポンと文章とともに着信音が鳴る。
スタンプはもう使われていなかった。
『私なにか悪いことしちゃった? ごめんね、謝るから。会ってよぉ』
木にもたれながら俯いている里香がいた。
その表情はとても暗く、周りの空気も澱んでいるように見えた。
「お待たせ」
「あ、健くんだぁ!」
しかし、一度俺が声をかけると、曇っていた空に陽がさすように明るくなった。
里香が勢いのまま俺にぎゅっと抱きついていう。
「今日もかっこいいね。私好みの服装じゃん」
自然と上目遣いになる里香は、可愛らしい女の子そのものだった。
いまの俺は髪を上げて、カーゴパンツにデニムのシングルライダースという、少々ハードなファッションに身を包んでいた。
こんな服装、この顔じゃなかったら絶対に浮いてただろうな。
ちなみにこれはリュックに詰め込んでいた服だ。
「ありがとう。里香はいつも以上にかわいいな」
「ほんと〜? 嬉し。だって大型イベントだもん。楽しみにしてたんだー」
里香はくるりとその場で一回転して、今日の装いをみせてくれる。
タイトなパーカーにショートパンツにブーツといったY2Kな組み合わせがストリートっぽくて、ピンクに黒く染まった毛先という里香の髪型と合っていた。
じゃあ行こっか、と里香は嬉しそうに腕を組む。
はたからみれば俺たちは美男美女でお似合いのカップルだろう。
「あ! ケバブだって! 食べよ食べよ」
里香は看板を指差しながら小さく跳ねた。
先ほど並んで食べたお店だった。山田さん近くにいないよな?
「健くんってケバブ食べたことある?」
「うん、あるよ」
さっき初めてね。
「やっぱり経験豊富だなぁ。私食べたことないんだよね。外国人の店員さんに話しかけるのがハードル高くて。あ、あの大きいお肉って何でてきてるんだろう?」
里香は高校デビューした口だから、コミュニケーションは得意じゃない。
そのせいかケバブを食べたことのない理由が、奇しくも俺と同じだった。
「あの肉は鳥もも肉を重ねてできるらしいよ。ケバブってトルコ料理だから宗教上の理由で豚肉は使わないんだってさ」
「え、健くん詳しー。すご。尊敬しちゃう」
里香の、俺の腕を組む力がぎゅうっと強くなる。
「それほどでもないよ。サイズは何頼む?」
人の受け売りを恥ずかしくなった俺は、里香に話題を振る。
「サイズは小さいの一個頼も? それを二人でシェアしよ」
「そうしようか」
俺が財布を出そうとした時、里香の細い腕が俺を静止する。
「健くん、今日は私が出すから」
「いやいや、割り勘しよう」
いーの、いーの、と里香は財布を出して現金で支払った。
恋人練習してくれているお礼とのことだったが、これで本当にいいんだろうか。
それから、先ほどと同様に立ち止まってケバブラップを食べることにした。
「わー、おしそ。っとと、食べる前に、二人で並んで写真撮ろ。記念記念」
里香はスマホを取り出してインカメラを向けて、ボタンを押す。
ディスプレイに映る里香の顔はケバブより小さかった。
「ん、撮れたのか?」
「あれ、シャッターボタン押したはずなのに。おっかしーな。わ、動画になってた。めっちゃあるあるなことしちゃった」
やばー、と里香は笑いながら、動画の撮影停止ボタンを押す。
「おいおい。いまのわざとだろ。なんか嬉しそうだったぞ」
「わざとじゃないけど、嬉しかったのは事実かな。あれって人の見てるときは、はいはいって冷めた目で見てたんだけど、実はちょっと憧れてて……」
派手なギャルっぽい見た目で、恋に憧れる普通の女の子だ。
「はむ、おいひー。この辛いソースがいいね」
里香は一口かじった後、下をぺろっと出して、自身の口のはじについたソースを拭う。
「はい、健くん。あ、あーん」
当然、といった具合で俺にケバブラップを差し出すので、それに合わせて俺は頬張る。
「うん、美味しいな」
「えへへ、あーんしちゃった。もぐもぐしてる健くんかわいい」
「なんだよそれ。誰だって食べ物食べるときは咀嚼するだろ」
「そういうことじゃないんだよ。もう、健くんはわかってないなー」
慈しむような瞳で、里香は俺をみる。
食べ物で膨らんだ俺の頬を、つんと人差し指でさして笑ったりする。
「次はどこに行こっかなー」
ごめん、と俺は里香に告げる。
「ちょっとトイレ行ってくる。里香悪いけどほかのところ並んでくれないか?」
「うん、わかった! 健くんが喜ぶような美味しそうなもの見つけとくから楽しみにしてて!」
俺はまた物陰に隠れて着替える。
着替えながら腕時計を確認する、時計の針は11時を少しすぎていた。
当初の時間からほんの少し押しているな。
着替えを終え、目的地に向かうと、誰をも寄せ付けないオーラを放っている美少女が立っていた。
「レナお待たせ」
「にいに。待ってないよ。今きたとこ」
レナは全身黒で、パンキッシュな服に見にまとっていた。
病み系ファッションとでもいうんだろうか。
綺麗な顔立ちから人は遠ざける傾向にあるレナだったが、今日はその装いも合わさって、こんな人だかりだというのにレナの周りだけぽっかりと穴が空いているようだった。
いつもはセットで隣にいる小さき天使が不在だった。
「あれミイナちゃんは?」
「ミイナはお留守番。今日はにいにとレナの二人っきり」
「大丈夫なのか?」
「うん、お母さんが珍しく休みだから二人で遊んでくるんだってさ」
じゃあ安心だな、と俺は胸をなでおろす。
「もしかして、レナと二人っきりは嫌だった?」
俺の表情を伺うようにレナが覗き込んでくる。
強そうな雰囲気なのに、小心者だったりするんだよな。
俺は不安げなレナをあやすようにいう。
「いや、そうじゃないさ。レナと二人で会うのって初めてだなって思って」
「初めてじゃないよ。学校で会ってるし」
「ああ、そうだったな」
思い返してみれば、手紙を渡された時や一限をサボった時に二人になってたか。
どれも屋上だったな、なんて思う。
「にいに、どこ行く?」
冷淡のようでどこか高揚感を隠しきれないレナの問いかけに、一つだけ注文をつける。
「レナ、申し訳ないんだけど、ケバブ以外で頼む」
「にいにケバブ嫌いなの?」
「そういう訳じゃないけど、最近立て続けに食べてるからさ」
「へえ、マイブームだったんだ。また今度食べてみようかな」
「美味しいのは俺が保証するよ」
連続で食べるもんじゃないけれど。
「じゃあ、ほかのとこいこ。あそこ、玉子焼き串はどうかな?」
ひよこのキャラが描かれた屋台で玉子焼き串なるものが売っていた。
こういうイラストをみて思うけど、食べられる食材たちが笑顔で宣伝してるのって変な感じだよなー。
「いいな、それにしよう」
あっさりしてて食べやすそうだ。
ケバブラップはソースがこってりしてたんだよなあ。
卵焼き串は小さいのでそれぞれ一本ずつ頼んだ。
「串に玉子焼きをさして食べるのって初めてだけどアリだな」
「だね。ふわっとしてて、甘くて美味しい」
玉子をひとくちかじったレナが柔らかい笑みをみせる。
「レナは甘いのがすきか?」
「うん、食べ物はなんでも甘いのがすき。だからスイーツもすき。ここには沢山あるみたいだから、制覇したい」
レナは小さく拳を握ってふんすとやる気をみせる。
「はは、制覇無理なんじゃないかな」
でもそれほど好きだったとは知らなかったな。
ミイナちゃんと遊んでいてレナ個人のこと知る機会は少なかったのかもしれない。
そんなことを考えて歩いていると、レナが俺の服の裾を引っ張って止まる。
「ねえ、にいに。さっきからにいにに色目使う女ばっかりでうざいんだけど。あいつらの色目使えなくしてきていい?」
あれ、怒っていらっしゃる?!
「レナ、落ち着け。今日はフードフェスを楽しみに来てるんだ。怒るのはいけないぞ? だからその串は捨てなさい」
食べ終わった串が武器みたいになってるから。
それで目を刺すつもりだったのか? 怖い怖い。
「……うん、わかった。でもむかむかが収まらないから、にいに、頭なでなでしてほしい」
レナはそのモデルのように小さな頭を差し出してくる。
銀髪の綺麗な髪がさらりと落ちる
「ここで?」
ただでさえ俺たちは目を引くというのに、そんなことをしたらどうなるか。衆目を集めるのは間違いない。
断ろうとすると、やはりビービーと頭の中に警報が鳴る。
「うん、いまここで。雌豚どもに見せつける」
「やれやれ、そんな言葉どこで覚えたのやら」
被害者が出るよりはいいだろうと、俺は観念して、よしよし、怒るなよーと頭を撫でてやった。
レナがふにゃっとした綻ぶ。
その表情に、ぐはっ、と近くにいた男たちがなぜだがダメージを受けていた。
別の意味で被害者でちゃってんじゃん。
まあ、許せ。
「そうだ、にいに。お昼すぎにヒーローショーやってるんだってさ、一緒に見に行こ」
「ヒーローショー? またなんで」
「ミイナとにいにがごっこ遊びしてた 『魔法少女ういっち』っていうアニメのやつ。あれからミイナと一緒に観てるの」
前にレナの家で俺がミイナちゃんと遊んでいたことを思い出す。
そのときレナは俺たちが何をしてるかわからなかったみたいだし興味も示してなかったけど、ちゃんと姉としてミイナちゃんに歩み寄っているんだな。
「そうだったのか。仲が良いみたいでよかったよ」
俺は、二人してテレビを眺めてる姿を想像する。
姉妹の仲が良いとほっこりとした気分になるな。
しかし、そろそろ時間だ。
腕時計に視線をやると11時30分を過ぎようとしていた。
「おおっと、ちょっとトイレ行ってくるわ」
「じゃあレナもついていく」
「いや、それは……」
「にいにと一緒がいい」
裾をぎゅっと掴んで着いてこようとする。
おいおい、どうしたらいいんだ。
「俺は他のもの買っててくれる方が嬉しいなーって」
俺がお願いをすると、レナの目の色が変わった。
「わかった。なにがいい?」
兄のために頑張ろうとしている健気な妹、そのものだった。
「じゃあ、スイーツ系で、あとはレナのセンスに任せるよ」
「にいにに喜んでもらうように頑張る」
いつもは平坦に話すレナが、語気を強めていた。
またも俺は物陰に隠れてさっと着替える。
早着替えがうまくなってきたんじゃないか。
ここまでくれば次もあるんだよな、これが。
「もー、遅いで高橋!」
ぷんぷんと京美人を崩しながらわかりやすく怒るのは、もちろん壇ノ浦潤だ。
不自然に胸と所が空いた半袖のニット、童貞をころすセーターとも呼ばれる服にタイトなロングスカートが高校生とは思えないほどの色香を放つ。
そう、俺は今日、山田さん、里香、レナ、壇ノ浦の4人それぞれとフードフェスに行く約束をした。
里香、レナ、壇ノ浦の3人からの誘いを断ろうとすると、久々に首輪がけたたましく警報を鳴らしたからだ。
4人と俺の5人で仲良く出かける? そんなの無理無理。
しかし、みんなとも行かないといけない。
じゃなきゃ首輪が爆発して俺は死ぬ。
そこで俺は作戦を考えた。
それぞれに合わせた服装や見た目に変装しながらローテーションして回ることだ。
これなら多少不自然になるけど問題ない。
名付けて高橋ローテーション。これは完璧だ。
「すまんって」
俺は片手だけ拝みながらいう。
「遅れたから奢ってもらわんとなー」
「げ、それは勘弁してくれよ」
「あかんあかん、うちの腹の虫が収まらんねん」
ぐー、っと壇ノ浦の腹から低い音がする。
「腹の虫が鳴ってるじゃん」
「女の子のそういうところは目をつむらなあかんねんで」
「耳から聞こえてきたら仕方ないだろ」
「ああいえばこういう!」
ぷりぷりと怒るこいつのどこが色欲なんだろう。
まあ、遅れたのは事実だしここは一肌脱ぐか。
「すまんすまん。一品奢ってやるからほら行こうぜ。どこに行きたいんだ?」
「ガーリックシュリンプ! めっちゃ美味しそうやなって思っててん」
キラキラとした顔で、口から出てきたのはおじさんくさい料理だった。
店の前に並び、漂ってくる匂いを嗅ぐ。
「匂いえぐいってこれ」
先頭までまだ距離あるのに、パンチすごいな。
「うちと高橋の仲やろー? 気にせんでええんよ」
それから、お目当ての料理を購入した。
ただのガーリックシュリンプじゃなくて、一片丸ごとのにんにくがいくつか入っていた。
「むっはー、このくっさいのがたまらんわー」
「そんなことないか」
満足そうに舌鼓を打つ壇ノ浦をみて、先ほどまでの考えを改める。
おいしーと壇ノ浦が揺れるたびに、えびよりもぷりぷりと弾けそうな胸が揺れているのだ。
「ん、なによ。高橋も食べたいんやろ? ほら食べ食べ」
「くっ、うまいのは認める」
たっぷりとしたガーリックオイルの中を泳いでいたエビは、体内までヒタヒタに浸かっていて、エビの甘味とにんにくの香りが合わさって、悔しいほどに美味い。
口がくさくなるのだけがマイナスだ。
いや、そのマイナスデカすぎるんだけどさ!
「やんなー。ほんまここ選んで正解やわぁ。辛口ジンジャーエールの組み合わせも最高やわ。あ、高橋も飲む? 間接キスになるけど」
「貸せ」
にやにやとする壇ノ浦が腹ただしくなったので、同じ店で買ったジンジャーエールのビンをふんだくる。
そして、いつもの要領で俺は飲み口から距離を離して喉へと流し込む。
「炭酸きっつ、喉いった」
げっほげっほと俺は咽ぶ。
「あはははは、なんやその顔、いい男が台無しやないの」
「なんだこれ、人がのんでいいやつなのかよ!」
辛口のせいかのど熱くなってるわ。
「ええに決まってるやん。うち好きやで? あー、笑った笑った。ジュース飲んだらお手洗い行きたくなってきたから、ちょっとお花摘みに行ってくるわ」
「おう、漏らすなよー」
「高橋のあほ、大きな声でそんなん言わんで!」
壇ノ浦が去った後、急いでデンタルフロスと歯磨き、ブレスケアをしてから、モブモードへと切り替える。
こんなこともあろうかと、服以外にも持ってきてたんだよな。
備えあれば憂いなしだぜ。
そして、山田さんの待つ先へと戻った。
「山田さん、ごめん。トイレめっちゃ混んでて遅くなった」
「この人だかりだもんね。仕方ないよ。買っておいたよ牛タン串」
「あ、ありがと! いただきます」
フードフェスだから当たり前だけど、またご飯か、ちと食べ過ぎかもしれん。
山田さんと初めてのデートを楽しむ予定だったのに大変だぜ、全く。
しかし、絶対に誰にもバレずに俺はこのフードフェスを無事に終わらせてみせる!
お読みいただきありがとうございます。
皆様のおかげで現在ラブコメ日間3位になりました!
週間9位にもなり表紙入りできる5位に迫る勢いです!
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よろしくお願いします!!




