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第17話 壇ノ浦とお外デート


 昼下がりの午後。

 俺は壇ノ浦と大通りを歩いていた。


 

「外の空気もええもんやねー」



 んんー、と壇ノ浦が伸びをする。

 ただでさえ大きな胸が、背をそらすことでより強調される。

 それみている周りの男たちの鼻の下も伸びる。


 

「なんだそれ。たったいま刑務所から出てきたみたいだな?」


「誰が脱獄者やねん」


「脱獄したとはいってない。釈放された場合もあるだろ」


「それどのみち犯罪者なん変わらんやん」



 びしっと、壇ノ浦が漫才のツッコミよろしく、手の甲で腹を叩いてくる。


 

「あんたお腹固いなあ。無駄に腹筋バキバキにしよってからに」



 無駄にとはなんだ。

 いたあ、と壇ノ浦が手をぷらぷらとさせる。

 

 

「いつも家でゲームして遊んでるから、たまには外に出るのもええなあおもただけやん」



「分からないでもないけどさ、外に出て向かう先はゲーセンって。やってるこ

といつもと変わらねえな」



 そう。今、俺たちはショッピングモールにあるゲームセンターへと向かっていた。


 

「ええやん、うち女の子っぽい遊び方知らんのやし。高橋もそっちの方が楽やろ?」



「まあな。そもそも女の子っぽい遊びってなんだ?」



 ギャルゲー世界で過ごしたおかげでデートはわかるけど、女の子同士でする遊びは知らないな。



「うーん。カフェで駄弁ったりカラオケで騒いだりするだけちゃう? うち友達おらんからよう分からんわ」


「すまん」



 壇ノ浦に聞いたのが間違いだった。

 こいつ一人で『浦島太郎電鉄』99年設定でやるような奴だった。


 

「謝らんでええよ。謝られた方がみじめになるやんか」



 およよ、と泣いたふりをする壇ノ浦。

 別に気にしてないみたいでよかった。


 

「なあ、男が外でする遊びってどんなもん?」



「男も大体同じような感じだと思うぜ。てか高校生がそういう風に遊ぶのかもな。鬼ごっこやキャッチボールとかみたいな外で運動するってことはすることないだろうし」



「公園で砂場遊びとか子どもしかせんもんね」



「そ、そうだな」



 俺は心当たりがあるせいで返事につっかえてしまう。

 ミイナちゃんと砂場遊びしてたけど、俺は子どもなんだろうか。

 いや、あれは子どもと遊んであげただけだからセーフか?



「シール集めて交換会とかしてたんが懐かしいわあ」


「壇ノ浦、交換会とかしてたのか?」

 

「なんよその言いかたー。小さい頃は友達おったんよ。発育なんてその時はみんな一緒やん? それに男子も性欲向けてくることなかったから、友情が拗れることもあらへんし」


「たしかに、小さい頃は男女関係なかった気がするな」


「やろー? ほんまうちは罪作りな女やで」


「だったらそのスタイルを強調する服はどうかと思うけどな。今もじろじろ見られてるぞ」



 壇ノ浦は胸元にスリットが入っているタイトなニットを着ている。いわゆる童貞特攻二重丸な服だ。

 そのせいで、すれ違う男たちはその一点へと視線が吸い寄せられていた。

 つーか、谷間が見えるデザインって誰が考えたんだよこれ。

  


「前にいうたやろ。うちはうちやから隠したくないって。なにー? 高橋もここに釘付けになってんの?」



 壇ノ浦がにやつきながら自身の肘で、その凶暴な胸をぎゅむっと挟み見せつけてくる。

 胸自体は魅力的なのはたしかだが、ここでそういうとますます調子に乗るだろう。

 

「なってない。自分を安売りするな。さっさと行くぞ」


 にやつき顔が腹立たしいので俺は足を早める。


「おいこら、腕を組むな!」



 走り寄ってきた壇ノ浦が俺の腕を掴んで離さない。

 そのせいで柔らかい胸が俺の腕に押し当てられる。というよりかは胸が大きすぎて、胸でも腕を掴まれてるような感覚だ。すげえ。

  

「ええやんかー。うちら友達やろ? 女の子同士、こうやって腕組んでるのみるで?」



 やれやれ、と俺は頭を振る。

 壇ノ浦には友達の定義から理解(わか)らせないといけないみたいだな



「女子同士のじゃれあいなら腕を組んだり、抱き合ったりとかたまにあるけどよ。男子が腕組んだり抱き合ったりしてるの見たことねえよ」


「たしかに、せやね」

 

「だろ?」


 

 見たら引くわ。

 壇ノ浦が腕を離して隣を歩く。

 

 てかなんで女子同士って距離感あんな近いの?

 


「ついたー。ほなやってこかー。うちの腕が鳴るで!」


 ゲーセンに着いた壇ノ浦が腕をぶんぶんと回す。

 回すな回すな。そのせいで揺れてんだよ。なにがとは言わんが。



「なにからするんだ?」

 

「もちろん格ゲーや! アケコンでもええんやけどゲーセンの筐体でするのがたまらんねんなあ。格ゲーは高橋初めてやろ? みっちりしごいたるわ」



 目の前で、俺の操作するキャラが壁際に追い詰められた。

 そして、一つ攻撃を受けてからは一方的にやられてゲージがみるみるうちに減っていく。



「ちょ、おい! それなんだよ」


「ふふん、これはハメ技や」



 筐体越しに壇ノ浦の声がする。



「初心者相手に本気すぎるだろうがっ」


「おっほっほ。今まで相手おらんくてトレモ籠るかNPCとばっかりやってたから、生身の相手はええなあ」



 顔が見えねえけどめっちゃ笑ってんだろうなあ。

 手に取るようにわかるぜ。うぜえ。

 それから何戦かボコられた。


 

「っし。だんだんコツ掴めてきたぞ」


「あんた、コンボ、できひん、のに、なんで、うちと、良い勝負、してるんや!」



 壇ノ浦が技を繰り出しながら細切れに言葉を吐き出す。


 

「ガード硬っ。カチカチやん。どうやってんのそれ」


「見てから対応してるだけ」


「反射神経どないなっとんねん!」



 コンボやシステムは分からんけど来た攻撃をガードするのは覚えたぞ。

 ギャルゲー帰りでステータスカンストした俺の反射神経を舐めるなよ!



「はあ、はあ、なんとか勝ち越せたで。あんたやるやないの」


「くっそ、負けたの悔しいな」


 とはいえ、壇ノ浦の方が一日の長があるため勝ち越すには至らなかった。


「帰ってから動画漁って練習するか」


「あかんあかん、あんたが練習したらうちが勝てんくなるから禁止!」


 壇ノ浦が両手をクロスしてばってんを作る。

 身振り手振り多いのって関西出身だからかな?


 そして次はなにをしようかと、ゲーセンを練り歩いていると壇ノ浦がパッと走り出した。

 

「うわー。めっちゃかわいいやん」


 壇ノ浦が向かった先はクレーンゲームだった。

 ケースに入っているのはアシカのぬいぐるみ。


「高橋知ってる? このアシカのキャラ名前変やねんで」


「シカちゃんだろ」


 こいつは前に里香ときた時に見た。

 アシカでシカちゃんってなんだよ。アッシーとかでいいだろ。

 

「へえ、よう知っとるやん」

 

「前も思ったけどこのキャラクターって人気なのか?」

 

 里香も目を輝かせてたし、壇ノ浦もこの反応だ。

 

「せやで。このつぶらな瞳と丸いお腹でかわいいのに、おうおう、って鳴きながら喧嘩売るキャラで、すぐ負けるのがいじらしくて。女子高生の間で密かなブームやねん」


「それでどう人気になれるんだよ」


 女子って分からんな、と俺は首を傾げる。


「……前もってどういうことや……?」


 だから、壇ノ浦のつぶやきが聞こえなかった。





「お次はカラオケやー!」


 いえーい、と壇ノ浦がマイクを持って叫んだ。


「歌ってもないのにマイクに声を乗せるな。うるさいだろ」


「料金払ってんねんからもうカラオケは始まってるんやで? 使うもの使わな損やん」


 どういう理屈だそれ。 

 

「なあ高橋はカラオケくるん?」


「来るには来るぜ。朝陽にめっちゃ連れてかれてたからな。でももっぱら聞く専だ」


 バンドマンの朝陽は歌がうまい。そして歌が好きだから遊ぶときはカラオケいくことがままあった。

 

「ほほう、あんた音痴なんやな? ほな、うちの美声聴きやー!」


 壇ノ浦は自分のスマホを操作して曲を入れる。

 マイクを持って空いている片方の手を動かし、ノリノリで踊りながら歌う。

 自分で美声というだけあって、その歌は伸びやかで耳にスッと入ってきて心地よかった。


 歌い終えてソファに腰を下ろした壇ノ浦に俺は拍手を送る。

 

「おおー、上手いな。なんかボイトレでもしてるのか?」


「ううん、ヒトカラ行きまくってたら自然とうまなってん」


「ごめん」


「せやから謝るなー!」


 キレのいいツッコミが入ったところで、モニターの画面が変わり、イントロが流れる。

 

「次はあんたやで」

 

「聞かせるほどのもんじゃないと思うけどな」


 うっし、と俺はマイクを持って立ちあがる。

 

「うっひっひ。あんたの苦手なもんあるんやね……ってめっちゃ上手いやないの!」


 おお、スピーカーから流れてくる歌声に、自分自身も驚く。

 向こうの世界で歌うことはなかったけど、『音楽』のステータスがカンストしているおかげもあって音感バッチリで歌も上手くなっていた。


 それから数曲歌って一息ついた俺たち。

 

「うちら相性いいんやね」


 マイクを持ったままの壇ノ浦が弾けるような笑顔をみせる。

  

「デュエットなんて初めてしたけどあれで良かったのか?」


「うん、ハモるのが楽しいねん」


 俺のうまさに最初は悔しがっていた壇ノ浦だったが、途中から一緒に歌おうとデュエットをさせられたのだ。

 俺は言われるがままにただ主旋律を歌っているだけで、壇ノ浦は俺の歌声に綺麗に合わせていく。


 その技術自体はすごいなって思ったけど、これまで友達と一緒に遊んだことのない壇ノ浦が

 誰にも合わすことなくハモリを練習していたことを考えると。

 

「涙が出るぜ」


「なにー? うちのおかげで歌ってて気持ちよかったからって泣かんでもええやん」


 けらけらと壇ノ浦が笑っている。

 うん、受け取り方は自由だからな。


 壇ノ浦はマイクを置いて、髪と同じ色のメロンソーダをストローでちゅうと飲む。

 ぽってりとした唇が開く。


「はー、あんたとおったらおもろいわぁ。今度はさ、遊園地と行かへん? 一人やとハードル高いし、うち行ってみたいねん」


「遊園地に壇ノ浦と二人でか、それはどうだろうな」


 俺は壇ノ浦の提案に歯切れ悪くこたえる。

 

「えー、そんなん言わんと行こうやー」


「男女複数人で行くならまだしも、付き合ってもない男女ペアで行くところじゃないっていうかさ」


「うちらがええんならええやん。周りの目なんて関係あらへんよ」

 

「そう言われてもなあ」


 どうしたものかと、俺は頭をかく。


 同性はおろか異性の友達ができたことのない壇ノ浦に友達ができるようにするため、『友達練習』として俺は一緒に遊んでいる。

 極力、性別を感じさせないような関係性を作れたらと思っているけれど、どうしたって俺たちの性別が違うそれは事実だ

 

 この時代、男女の隔たりは少なくはなってきているように思う。

 しかし、男女に対する価値観はあって。

 男女二人が仲が良かったら、「付き合ってる?」なんて聞かれることもあるだろう。


 こうして俺たちが遊んでいることも人によってはデート、なんて名称をつけて茶化されてもおかしくない。

 男女二人が遊ぶことは制約があるように感じる。

 俺も元々友達は多くないから異性の友達でそんなことを気にしていない人たちだっているんだろうけど。

 

 壇ノ浦に同姓の友達を作ってあげないといけないな。

 そうすれば俺の役目は御免となり、『友達練習』なんていうラブコメ展開も終わりを告げるのだから。

 

「もし、うちらが付き合ったらさ。いつも一緒におってもおかしくあらへんのかなあ」

 

 ぽつりとこぼした壇ノ浦の言葉が俺の耳に飛び込んでくる。


「え?」

 

「ん、あ、うち、なに言ってんのやろ。あははー、冗談冗談。ほんま気にせんで」


 あっつー、と手でぱたぱたと顔を仰ぐ壇ノ浦。

 それに対して、ほんとなにいってんだよ、なんて俺は返してやる。

 

「ええっと。次はこれ歌おかな! ほら、前に見た映画の主題歌」


 壇ノ浦はデンモクに視線を落として、いつもよりも声を張っていう。

 

「お、それいいんじゃないか。壇ノ浦の声にあってると思うぞ」


「せやんね。よぉし、まだまだ歌うでー」


 気まずい空気を霧散させるようにカラオケを再開した俺たち。

 別れるまでさっきの話題に触れることはなかった。



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