第13話 壇ノ浦の性欲
「高橋サボりはあかんよー?」
屋上に入ってきたのは、七人の大罪のうちの【色欲】と呼ばれる壇ノ浦潤だった。
上はジャージ、下は短パンスタイルで体育終わりだからか頬が上気していて、前髪は少し張り付いているのが色っぽい。
短パンから覗く足はむっちりとしていてももの間に隙間がない。
「いーだろ別に」
「ならうちも混ぜてーよ」
まずい、このままだとレナと鉢合わせることになる。
「こっちにくるな」
「ええ? うちがそっちにいたらまずいことでもあんのー。分かったやめとくわ」
物分かりがよくて良かった。
「と見せかけて、行っちゃおー」
「ちょっ、おい」
壇ノ浦がにやけながらこっちに来る。
こいつの性格だとやっぱそうなるよなあ。
俺がいたところは屋上の扉が設定されている階段室から、曲がって視覚になっているくぼんだ場所。
ここは幸い屋上入り口にいる壇ノ浦から、寝ているレナが見えない死角になっている。
しかし、壇ノ浦が来てレナが起きることになると、レナのさっきの様子だとブチギレて何をしでかすか分からない。
それ以前に知られるのは面倒だ。
「あんまり近づくなよ。体育のあとだろ? 汗くさいんじゃないのか?」
「汗くさいっ……?! ほんまデリカシーなさすぎ」
ビタっと壇ノ浦はその場で止まって自分の匂いをくんくんと嗅ぐ。
おいおい、そういうときは袖でいいだろ。なんで腹をまくって嗅ぐんだ。
そのせいでウエストが見えるだろ。
顔が隠れているいまのうちに、俺は立ち上がって壇ノ浦に近づく。
これでレナから自然に離れることができたな。
「うち全然くさくないし! ほら嗅いでみ」
ん、と体操服の裾を両手で引っ張って差し出してくる。
これ俺、嗅がないといけないやつ?
後ろにはレナがいる。しのごのいってられないので鼻を近づけると、壇ノ浦は体操服の裾をがばっと持ち上げて俺の頭を包む。
突如として、滑らかな肌やレースのブラが視界に広がる。
「なにしてんだよ!」
「どうや? くさくないやろ!?」
「くさくない、くさくないから離せって!」
壇ノ浦が満足そうな顔を浮かべていた。
こいつが変なことをしたせいでお腹に顔を埋めることになってしまった。
その中で喋ったからか口の中が少ししょっぱい。
いくら友達だからとはいえこの距離感は間違ってるって。
そして、俺はレナを残し、壇ノ浦とともに屋上を後する。
休み時間で他の生徒がいるから、髪をおろしてメガネをかけるのは忘れない。
そして、壇ノ浦から距離を開けながら小声で話す。
「壇ノ浦、学校で俺に話しかけるなよ」
「高橋ひとりやからいいかなーって。うちら友達やん?」
「ダメだ。学校は誰の視線があるかわかったもんじゃない。それにお前と関わってるということがバレたらややこしいんだよ」
「えー、うちみたいな美人と地味な男の子が一緒にいると目立ってマズいってこと?」
「分かってるじゃん」
壇ノ浦が面を食らったようにして立ち止まる。
なんか変なこと言ったか?
「へえ、うちが美人なん否定せえへんのや」
「それを否定するのは流石に無理があるだろ」
学園で七人の大罪と呼ばれるほどの美貌の持ち主。
普段男友達と接するみたいに、性を感じないような扱いをしているけど、壇ノ浦自身が美人であるのは間違いはない。
「……そっか、ありがと」
「なに照れてるんだよ」
「う、うるさいわ!」
乙女チックになっていた壇ノ浦はぷんすかと声をあげて、いつものように戻った。
「高橋ほんまはかっこいいんやから顔出していったらええのに。なんやのそのメガネは、ダサいで」
「このメガネはダサいからいんだよ」
それに、と俺は続ける。
「容姿の良さがバレるといい事もあるけど、同じくらい悪いことがあるってこと知ってるだろ」
「……せやね」
壇ノ浦は最近の出来事を思い出してか、暗い声が返ってくる。
「けどうちはうちやし、隠したりするはいややの」
「それは否定しないけど、俺は俺だから隠すの」
どうやらこの話は平行線のようだった。
廊下を歩いていると前から走ってくる体操服姿の女子生徒。
「壇ノ浦さーん! 今日、壇ノ浦さん片付け当番だよ!」
「え、せやったっけ」
「授業終わってすぐどっか行っちゃったから探したよ。先生怒ってるから行ったほうがいいよ」
「あの先生ねちっこいからなあ」
どうやら、壇ノ浦は用事があるみたいでここでお別れのようだ。
がしっと腕を掴まれる。
「なんで俺まで……」
片付けを強引に手伝わされた俺は、体育倉庫で愚痴っていた。
「ええやないの。友達の手伝いしたってバチあたらんよ?」
百歩譲って手伝うことはいいんだけど、この体育倉庫っていうのが嫌なんだ。
「ふう、終わった終わった。ってあれ、ドア開かへん。うちら閉じ込められてる?!」
がちゃがちゃとドアを手にしながら慌てふためく壇ノ浦を尻目に、俺はため息をつく。
ラブコメで男女が二人で片付けしたらどうなるか、それは絶対に閉じ込められるということだ。
知ってた。
「どうしよう高橋っ?! ってあんたえらい落ち着いてるなあ」
「まあな」
俺は【ラブコメ体質】になっているんだ。こうなると思ってたよ。
『君のためのハーレム』の世界でも何度も体育倉庫に閉じ込められたんもんだぜ。
「まさか、あんたが閉じ込めてうちといやらしいことするつもりやったん?! このケダモノ!」
「そんなわけあるか!」
全く。なに口走ってんだよ。
「あそこに、窓があるだろ? そこから出ればいいだよ」
俺はある場所を指差す。そこは体育倉庫に設置されているスライド式の窓。
ちょうど人一人分のサイズはある。
「あんな高いところにあるのどうやって開けるんよ。あ、肩車してうちの柔らかいお尻を堪能する気なんやろ?」
「ちげーよ。見とけ」
よっと、俺は壁を蹴って三角飛びをする。
そして窓のフチに手をかけるとそのまま懸垂の要領で体をあげて、片手を外して鍵を開けて、窓をスライドさせる。
体を滑り込ませて前転させれば。脱出成功。
「ほらな」
ラブコメを破壊するのはいつだってフィジカルなのだ。
「ほらな。ちゃうわ! うちにできるわけないやろ! どっかの雑技団かあんたわ!」
体育倉庫から壇ノ浦の声が反響する。
まあ、壇ノ浦にこれほどの技術を求めているわけではない。
それにあの窓のサイズでは壇ノ浦が出てこれないだろう。
なぜなら、ほらあいつ、胸とか尻とかでかいじゃん?
「俺が出たってことは、俺が外から鍵を開ければいいんだろ」
「あ、そっか。高橋あったまええなあ」
普通なら考えつくことも気が動転していて考えつかないのだろう。
それから無事に壇ノ浦は体育倉庫から出てくることができたのだった。
脱出はできたもののすっかり休み時間が潰れた俺たちは、人気のない校庭を歩いていた。
「また高橋には助けられたわ、ほんまありがとうなあ」
「別にいいって。今回は俺も閉じ込められたから脱出したのは自分のためだし」
「また自分のためって、素直とちゃうなあ。東京の男って感じやわ。すかしよって、もう」
「本当に俺のためなんだって。てかそんな地域によって違うのかよ」
「そうやで、関西の男やったら何かしたら自分自分って我が強いもん」
へー、そんな違いがあるのか。
俺が関西の地域性について考えていると、あ、そうだ、と壇ノ浦が振り返る。
「助けてくれたお礼にうちのおっぱい揉む? 柔らかいもん触ったら落ち着くいうし、これは性欲とちゃうからええよ」
壇ノ浦が自身の胸を両手に抱えて持ち上げる。
これまでの試すような行為とは違って、本当に揉んでもいいみたいだ。
しかし俺は場所も場所だし断りを入れる。
「今日はもういいよ」
気温が一気に下がったような感覚を覚える。
「どういうこと? その言い方、今日はもう他の女のおっぱい揉んだみたいやん」
やっべ。ミスった。
今朝、里香の胸を揉んだから変なこと口走ってしまった。
「言い間違えただけだ。そう言葉を間に受けるなよ」
「ふーん、どうだか」
壇ノ浦が腕を組んでこちらをじとーっと見つめる。
てか、なんで怒ってんだよ。
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