36 深影
**深影視点の番外編(補足的な話)になります。長めになりますが、分割せずにいきます**
『ゼロスの世界に紛れ込んでいるそうよ』
と言いながら、にっこり微笑む主様の威圧感がとんでもない事になっている。
人間の世界で悪事を繰り返していた妖犬を捕らえていた──ところ、ネアン女神の世界の者が、ゼロス神の世界に召喚される時に巻き込まれてしまったらしい。
『一体どうやったら巻き込まれるの?アイリーンといい、アイリーンといい……』
ーいや、今回の件はアイリーン女神は関係ないよな?ー
とは絶対に言わない。
ただ、アイリーン女神のおかげで、『神様も万能ではない』という事を学んだ。そして、我が主に逆らってはいけない──という事を再確認した。
『とにかく、奴が何かをしでかす前に手を打たなければね……深影、いつでも動けるようにしときなさい』
「承知しました」
それからすぐの事だった。
『ねぇ……どうして“聖女”というのは問題を起こすの?それとも、聖女を選んだ神々が馬鹿なの?』
「問題ある聖女は、ごく一部だけです。最強の聖女様や神をも恐れない真面目な聖女様も居ますから……」
『そうね……』
まぁ、主様が愚痴りたくなるのも分かる。いつも、問題を起こした聖女を選んだ神々の尻拭いをしているのが……我が主様だからだ。
今回の聖女もまた、己の欲望の為に駄犬の誘惑に乗り、愛し子に手を出してしまったのだ。
そこを、ギリギリのところで主様が救いだし、その愛し子の保護の為に、俺の娘の光が異世界に行く事になった。
光は菊花に似て可愛らしく、俺に似て力が強い。選ばれて当然だと思う気持ちよりも、光との時間を奪われたかと思うと、腹立たしさしかない。光を心配している菊花を見るのも心苦しくなる。
ーどんな罰を下してやろうかー
簡単に済ませる気はない。主様も見て見ぬふりをしてくれるだろうから。
そうして、駄犬がまた愛し子に手を出してくれたおかげで、俺達が介入できるようになり、俺が駄犬を回収しに行ける事になった。
『私が行くわ!』と言い張る菊花をおとなしくさせるのに一晩かかったが、菊花に駄犬の相手をさせるつもりはなかったし、久し振りに光に会う為でもあった。
久し振りに会った光は、更に妖力が強くなり、扱いも上手くなっていた。おそらく、愛し子のおかげだろう。この愛し子も、かなりの実力者だ。おまけに、光が愛し子に向ける視線が熱い。“憧れ”といったところか?光がそうなら、俺もその愛し子を大切にするだけだ。その愛し子に手を出した上に、光に怪我を負わせた駄犬(怪我は壁にぶつけたそうだが)。手を斬り落としただけでは気が済まない。ただ、この駄犬への処罰は、2人の精霊が下す事になった。
ーでも、処罰を下すのが1回だけという決まりはないー
駄犬をニコに頼み、王城に居る精霊達の所に転移させた後、光の怪我を治して、愛し子の体調を確認した後、俺は駄犬の元へ転移した。
俺が転移した先は、丁度駄犬が精霊と王城から転移して来たところだった。
『深影!?』
「また会えたな……精霊様、申し訳ないが、連れて行く前に、俺からもお礼をさせてもらっても良いですか?」
『良いわよ』
と、精霊がニコリと微笑む。我が主様と同類の微笑みだ。
「お前の処罰は、俺が直接下したかったが、この世界の精霊様達が下す事になった。そこでだ。片腕がないと不便だろうし、見た目も醜くて失礼になるだろう?だから、腕を元に戻してやろう」
「え?」
と、少し戸惑う駄犬を無視して指を鳴らせば、駄犬の腕が元通りになった。
『な……え?』
驚きながらも、腕が元通りになり出血も止まり痛みもなくなったからか、安心した顔をする駄犬。
「あぁ、そうそう。元通りになって良かったが、一つだけ問題があるんだ。俺の力は、闇と関係があってね……特に満月の日はどうしても光に負けてしまうんだ」
ー嘘だけどー
「満月の日は俺の妖力が消えてしまうから、その時はまた…………腕が落ちてしまうんだ」
『落ちて?』
「そう。俺がお前の腕を斬り落とした時と同じ状態になる」
『え?って……まさか…………』
「そのまさかだ。お前は、満月の日の度に、腕が落ちて、苦痛を喰らう事になる。そうだな……満月の日から2、3日もすればまた腕が元通りになるだろう」
元に戻る迄は苦痛に襲われ、腕が元通りになれば、また満月の日に苦痛を味わう。その繰り返しだ。
『そっ……そんな事なら、腕なんて要らない!何故何度も苦痛を味わわなければならないんだ!?今すぐ斬り落とせ!』
「それ、お前が言える事か?それは、お前がこの世界の人間にした事だろう。自分がした事を自分で受ける事になっただけだ」
弱い者ほど、とことん弱者を痛めつけるのに、自分の苦痛には弱い。
『俺だけのせいじゃない!あの聖女が望んだ事をしてやっただけだ!だから、この苦痛を味わうべきはあの聖女だ!ぐはっ!』
「本当に……弱くて馬鹿な奴ほどよく吠えるなぁ……」
口を押さえたついでに、そのままガツンッと後ろに倒して、更にグリグリと床に頭を擦りつけた。
「俺と光の時間を奪った上、光の大切な者に手を出したのに、俺からはこれだけで済むのだから、感謝して欲しいぐらいだ」
本当は切り刻んでやりたいが、後は精霊に任せるしかない。まぁ、精霊の怒りも相当なものだから、簡単には終わらないだろう。
「精霊様、時間をいただき、ありがとうございました。後は……ご自由に」
『ふふっ……気に入ったわ、ありがとう』
その精霊が楽しそうに笑った後、駄犬と共にその場から姿を消した。
ようやく光が俺の元に戻って来る──と思っていたが、色々な理由でもう暫くの間、ゼロス神の世界に留まる事になった。
主様の命でもあり、光も嬉しそうだから……受け入れるしかない。
ただ、気に食わない事があるとすれば、あのアーニーとかいう獣人だ。奴の光を見る目が甘い。光は可愛らしいから、光に惚れてしまっても仕方ないが、光に男やら恋愛はまだまだ早過ぎる。しかも、異世界人などは以ての外だ──とは言い切れない。菊花の大切な者が……異世界結婚しているから。
光に視線を向けると、光はリヴィアンナと嬉しそうに話をしていた。
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「お父様、おかえりなさい。光は元気だった?」
「ただいま。光は元気だったよ」
帰って来た俺を出迎えてくれたのは、息子であり光の双子の弟の晃だ。俺にそっくりな妖犬だ。光とは違う可愛らしさがある。
「お父様は光に過保護だから、暫くは帰って来ないかもと思っていたけど、早かったね」
「『お母様が心配だから早く帰れ』と言われたからな」
「ははっ。流石は光。お父様の扱いは上手いね。それじゃあ、僕はゆかりの所に行って来ます」
「ああ、皆によろしく伝えてくれ」
“ゆかり”とは、菊花の大切な者の娘で、晃の大切な者だ。主様の加護を受けた家族。あの3人が最強なのかもしれない。
「それじゃあ、俺も俺の大切な者の所に行くか……」
ーおとなしくお留守番していたご褒美が必要だろうー
そう思いながら、俺は菊花の居る部屋へと向った。
ちなみに、光がぶつけて怪我をした壁は、少し柔らかい素材に変更しておいた───のは、光達には秘密にしている。




