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消えた治癒士への執着は棄てて下さい  作者: みん


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30 聖女の最後③

「ナナカ……それは本当の事なのか?」

「違うっ!私は……あのネックレスに、精霊が閉じ込められていたなんて知らなかったわ!」


ジルダに手を出した上、精霊の力を奪っていたなんて認めてしまったら、聖女や王太子妃の座を失ってしまう。それに、精霊を閉じ込めたのは私じゃない。()()()()()()()ネックレスに閉じ込められていただけ。


「ネックレスに閉じ込められていたのか?」

『そうよ。アウイナイトのネックレスよ』

「ナナカ、それは本当なのか?」

「そうよ。でも、私、今まであのネックレスに精霊が閉じ込められていたなんて、本当に知らなかったわ」

『知らなかったのに、どうして“ネックレスに閉じ込められていた”事を知っているの?』

「え?だって……ネックレスに閉じ込められていたって──」


そこまで言って、ハッとして口を噤んだ。


ヴァルナは『閉じ込められていた』と言っただけで、『()()()()()に閉じ込められていた』とは、一度も言ってなかった。


「そういえば、ナナカが治癒をする時は、アウイナイトのネックレスをしていたな」


セオドリク様の顔が、くしゃりと歪む。それは、怒っているようでもあり、苦しそうな顔でもある。


「わたし……ちがう……わたしはただ……()()()()()でセオドリク様と……しあわせに……」


もともと私の場所だったから、ジルダから取り戻しただけ。

もともと、ジルダが私の場所を奪っていただけ。


「取り戻しただけなのに、何が悪いの?」

「ナナカ……」

『良いタイミングで来たわね』


何が良いタイミングで来たのか?と思って、そう言った若葉色の精霊を見ると、ポンポンと青色の火の玉がサークル状に現れ、そのサークル内に人が2人立っていた。

1人はあの男で、もう1人は琥珀色の髪の女の子。頭に耳があるから獣人なんだろうけど、尻尾が2本ある。


『本当に良いタイミングね』

「お2人とも、元の姿に戻れたんですね。リヴィ様も繋がりが切れましたので、遠慮なくやって下さい」

『『ありがとう』』

『───っ!』


その男が、私の前に放り出された。


繋がりが切れた──という事は、失敗したという事。それは、ジルダが生きているという事。


「この男は一体?」

『その男が、ジルダから魔力とヴァルナを奪って、更に残りの魔力を奪って殺そうとした者よ。ジルダの魔力を奪わせるように唆したのはこの男だけど、そう願って契約を交わしたのは……誰なのか、言いなさい』


若葉色の精霊の言葉に反抗しているのか、その男はグッと口元に力を入れて耐えている。

その男がなかなか答えない事に我慢できなかったのか、獣人らしき女の子が「アウラさん、私が口を割らせましょうか?」と言うと、その男がニヤリと嗤った。


『馬鹿な狐め!わざわざ名前を教えてくれるとはな!!風の精霊()()()!俺の力の贄となれ!!』


名前で相手を縛る──と、この男が言っていた。その相手の魔力が強ければ強い程縛りが強くなると。その相手が精霊ならば、その魔力を食らえばこの男は最強になれる。そうなれば、私も助かるはず。


『ふふっ……愚か者ね。そんな失態すると思う?』

「本当に舐められたものですが、予想通りの行動をしてくれて、ありがたい限りですね」

『まさか……わざと偽の名を──がはっ!』


その男が血を吐きながら倒れて、その場でもがき苦しんでいる。


『呪いを掛けて失敗すれば、その倍返しを喰らうのよ。その意味、分かる?この男が失敗してここに居るのだから、ナナカの願いも失敗したという事よ』


ヒュッと息を呑む。


私がこの男に願ったのは、ジルダから魔力と居場所を奪う事。その願いが失敗すれば──


「この男に願って契約を交わしたのは、ナナカなのか?」

「だって……もともと私のものだったから。だから、私は自分の居場所を取り戻そうとしただけよ。それの何が悪いの?」

「ナナカ……」


セオドリク様が、どうして喜んでくれないのか分からない。セオドリク様も、ジルダよりも私を選んでくれたのに。ジルダが居なければ、これからも私と一緒に居られるのに。


「セオドリク様も、ジルダより私が好きだから、私を選んでくれたんでしょう?ジルダが邪魔だったんでしょう?だから……旅の間、私との噂が広まっても何も対処しなかったんでしょう!?」

「───っ!」


セオドリク様は、何も言わずに黙っている。旅の間、こそこそとしながらも聞こえるように皆が言っていた噂。セオドリク様が知らなかったはずがない。知っていながら否定しなかったのも、ジルダをフォローしなかったのもセオドリク様の選択だ。私はただ、そのセオドリク様の意志を尊重しただけ。


ー私の居場所は、誰にも奪わせない!ー


「ん?」


そう意気込んでいると、鼻の奥からツーッと何かが垂れたようで、そこに手を当てて確認すると、手に血が付いた。


「鼻血?」


何故?と思っていると、今度は貧血みたいに血の気が引き、体も冷えてガタガタと震え出し、あまりの辛さにその場にへたり込んだ。


「一体どうなっているの?」


『だから、“返ってくる”と言ったでしょう?』


と、若葉色の精霊が微笑んだ。




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