29 聖女の最後②
メリンダの火の攻撃は、真っ直ぐにヴァルナに向かったけど、その火は一瞬にしてかき消された。
「なっ!?」
『本物の愚か者だったのね』
ヴァルナが人差し指をクルクルと回すと、水の蛇のようなものがメリンダの体に絡みつき、そのままメリンダを締め上げているようで、苦しそうにもがいているけど、口も押さえられているし、その水の蛇の力が弱まる気配はなく、むしろ更に力が込められているように見える。
「んん──っ!!」
メリンダは何かを叫んだ後、その場に倒れたけど、水の蛇がメリンダから離れる事はなさそうだ。
『王子様は知ってた?この子、事あるごとにいつもジルダに手を出して返り討ちにあっていたのよ。そんな者を王太子妃の護衛につけていて驚いたわ。あ、そうだったわ。ジルダは居なくなってしまったから、もう関係なかったわね』
メリンダを私の護衛に選んだのは私だ。メリンダがジルダを嫌っていた事を知っていたし……私を絶対に裏切らない者だったから。
『あ、王子は知ってた?』
そこで、若葉色の女性がセオドリク様に近付き微笑んだ。
『あの時ジルダに誰も近寄れないようにしていたのが、この女よ。おかげで、すぐ反応したラドルファスもジルダを助けられなかったのよ』
「え?」
セオドリク様の目が、驚きで大きく見開かれた後、その視線を私に向けてきた。
「何を……私がそんな事……するわけが……」
ーどうして知っているの!?ー
その事は、私とあの男とメリンダとジスランしか知らない事。しかも、あの時使った魔法の痕跡は、あの男が完璧に消したから、あのルベール様でさえ気付かなかったのに。
『でも、王子も同罪よね?』
その言葉に、セオドリク様が僅かに反応した。
『王子があの旅に同行したのは“王族の立場として聖女を護る為”と言うのは建前で、本当は“王族として婚約者でもある愛し子を護る為”だったのに、王子は愛し子より聖女を選んだのだから』
「…………」
セオドリク様が何も言わないところをみると、本当の事なんだろう。本当の同行理由を知ってショックだけど、それよりも、セオドリク様がジルダより私を選んでくれていた事が嬉しい。もう、あの頃には両思いだった。私を選んだのは、ジルダの代わりでも、聖女だからでもなかった。
『だから、オマエ達は、ジルダが消えて、さぞ嬉しかったでしょうね。優秀で民からも好かれていたジルダが消えて、何の問題もなく結ばれる事ができたから』
「それはちが───」
『違う!なんて言わないでね?安心して。ジルダには言わないから。これからも2人で仲良くすれば良いわ』
若葉色の女性がニッコリ微笑み、更に話を続けた。
『ただ、私とジルダにした事に関して、何もしないという選択肢はないの。精霊とは、そこまでお人好しじゃないのよ』
「ちょっと待って……貴方は関係ないでしょう?ジルダと契約を交わした精霊は、水の精霊のヴァルナだけで──っ!」
声を上げた私は、ヴァルナに大きな水の玉で口を覆い隠された。
『私の名を呼ぶなと言ったでしょう?それに、彼女は関係大アリよ。彼女もまた、ジルダと契約を交わしている精霊だから』
「っ!?」
ージルダが契約を交わしていたのは、ヴァルナ1人だけじゃなかったの!?ー
あり得ない。今の時代、精霊や妖精を見る事自体が珍しく、契約を交わすのは奇跡に近い──と、私が調べた限りはそうだった。それなのに、二つの属性の精霊と契約を交わしていたなんて。
チラッとセオドリク様に視線を向けると、セオドリク様の顔色が真っ青になって震えていた。セオドリク様は、知っていたんだ。でも、ちゃんと理解していなかったんだ。
「精霊が、女神が選んだ聖女に手を出してもいいの?それこそ、私に手を出せば女神様が──」
『創世神は、選んだ者には特別なものを与えてはくれるけど、その後はその者の行い次第。その者の行いが良ければ平穏に過ごせるけど、行いが悪ければ力を失うわ。そうして失ってしまっても、神々がその者を助ける事も、再び力を与える事も無いわ。世界の理が崩れるから。でもね、私達精霊は違うのよ。精霊や妖精は、神が創った世界を守護する存在なのよ』
そんな事は知らなかったし、どの文献にも記されてなかった。“精霊や妖精は気まぐれ”“今ではおとぎ話に近い存在”としかなかった。
『私達は、お気に入りを見付けると契約を交わして、この世界をより良くする為にその者に力を貸して手伝ってもらうのよ。その者を“愛し子”と呼ぶのよ。オマエ達は、その愛し子を害したの。ナナカに至っては、守護者である水の精霊を閉じ込めて力を奪い続けたのよ』
「奪い……続けた?」
今まで震えて黙っていたセオドリク様の顔色が、より一層悪くなった。
『この女は、水の精霊から奪った力を利用して、聖女のように振る舞っていたのよ』




