14 青色の火
1ヶ月はあっという間に過ぎる。
朔の日まで後3日。いつも通りに、左足が重く感じる。
「気のせい……じゃないよね……」
朔の日になると、左足の足首に浮かび上がる鎖のような模様。うっすらとした灰色の色だったのに、今日は以前より色が濃くなっている気がする。それの、意味するところは?と、その模様を見つめていても分からない。ただ、そこはあの時、何かに掴まれた場所だったという事。
『少し濃くなってる』
「そうですね。先輩に見てもらえれば、何か分かるかもしれませんけど……」
ミツの言う“先輩”とは、ミツの世界に居るという2人の先輩の事。ただ、そう簡単に移動できる訳じゃない。
「すぐには無理だと思いますけど、先輩に手紙を飛ばしておきます。取り敢えずは、治癒の魔法でもかけておきましょう」
と、ミツはそう言うと、私の左足の足首のソレに魔法をかけてくれた。
ミツの魔法は独特なもので、この世界の魔力とは全く違う。ミツは火を使うけど、ミツの扱う火は赤色でもオレンジ色でもなく、青色の火だ。この世界では見た事がない。
「ミツの青色の火は、いつ見ても綺麗だね」
「ありがとうございます。先輩の火は、もっと綺麗な色をしてるんですよ。能力が高ければ高い程、綺麗で鮮やかな青色になるんです」
「そうなんだ」
青色なのに温かく感じるのは、ミツの優しい心故なのか?
「これはこれは……珍しい火の色だな」
「「『──っ!?』」」
私達以外誰も居ないと思っていた森の中。油断していたとはいえ、ミツもアウラもその存在に気付かなかった。
ーな……何で………ー
声のした方に視線を向けると、そこには、魔道士のルベール=メンフィールス公爵が居た。
「それは……魔力か?」
「「『…………』」」
いや、そんな事よりも、どうして魔道士団の団長であるメンフィールス公爵が辺境地に居るのか?それに、もう既にラドルファス様とマサトだけでいっぱいいっぱいなんですけど!?
「リヴィアンナさん!本当に申し訳ない!!ごめんなさい!!」
必死に謝りながら走ってやって来たのは、英雄様。
「青色の火ってすごいね」
興味津々と言った感じでやって来たのはラドルファス様。アーニーさんは無言でミツを見ている。
「あの……どうしてこんな所に?」
この森は私の私有地ではないから、誰が居てもおかしくはない。ただ、辺境地の端っこに位置する普通の森だから、普段から私達以外の人がやって来る事はない。そんな所に、他国の王子とこの国の英雄と魔道士団長の公爵が来るなんて───
“ジルダ=イデリアルを探している”
「俺が誰だか知っているのか?」
「濃紺色の髪に琥珀色の瞳は珍しいですから。魔道士団長のメンフィールス公爵様ですよね?」
「あぁ、そうだ」
口元は少し笑っているけど、目は全く笑っていないのは相変わらずだ。相手が老若男女関係無く対応は一貫して冷淡。言い換えれば、誰にも平等。
「急にルベールさんが来るって連絡があったと同時に本人が来て、ラドルファス様が薬の話をしたら、ここに──」
「この森にも興味があるって言うから、店に行く前に来たんだ。本当に綺麗に澄んだ森だよね」
私がこの森の近くに住むことにしたのは、それが理由だったりもする。力が弱くなってしまったアウラを癒やす為だった。アウラもこの森が気に入っているし、少しずつだけど力も回復している。
「そうですね。この森に居ると癒やされますね。それで、塗り薬をご所望ですか?」
「それもそうだが……ふむ……」
左手を自身の腰にあて、右手は顎に手をあてて私を見つめている。それは、メンフィールス様が何かを思案している時のポーズだ。それも、良くない方に。
「取り敢えず、その塗り薬を買わせてもらおう」
「分かりました。では、店まで戻りましょう」
『私はもう少しここに残るわ』
と、アウラは木の上に飛んで行った。
******
「足を痛めているのか?」
「え?」
ラボに戻って薬を準備している時だった。今まで誰にも気付かれた事はないのに、メンフィールス様の指摘にドキリとする。
足を引き摺ったりはしていないし、薄っすら浮かび上がる模様は魔法で隠してあるし、靴下にショートブーツを履いているから見える事もない。
「あ……さっき、少し挫いてしまっただけです。すぐに治りますよ」
ー気付いてる?ー
ハッキリとは分からないだろうけど、あの“大陸一の魔道士”と言われているメンフィールス様だから、何かには気付いている可能性はあるから、下手に隠さない方が良いかもしれない。
「そうか………」
本当に、相変わらず、ある意味ドキドキする視線を向けて来るから緊張する。いつもいつも品定めされているような気持ちになる。
『ジルダは団長のお気に入りだから』
なんてよく言われていたけど、『お前の目は腐っているの?』と、突っ込みたいのを我慢するのが大変だった。
まぁ……相変わらず元気そうで……何よりです。




