13 ジルダ=イデリアル
ジルダ=イデリアル
伯爵家の令嬢で、水と風属性の魔力持ちの治癒士。
魔法の扱いにも長けていた為、亀裂の封印の旅のパーティーの一員にも加えられた。
王太子セオドリクの婚約者でもあった。
そんな治癒士のジルダは、旅の最後で姿が消えてしまい、王都に帰って来る事はなかった。
最後の亀裂の封印が成功したが、浄化の際に異変が起こり、パーティーの魔道士や騎士が聖女ナナカを護る為に動き、聖女ナナカは怪我一つ負う事はなかったが、治癒士ジルダの姿だけが無くなっていた。
それは、一瞬の出来事だった。黒い霧のようなものが立ち込めたかと思えば、次の瞬間には金色の光が溢れて霧散した。その間、ラドルファスが『ジルダ』と何度か叫んでいた。
そこに、ジルダが居たはずなのに、ジルダの姿は無いどころか、何の痕跡も無かった。
それから、聖女ナナカを含め3分の2は王都への帰路に就き、残りのメンバーでジルダを探したが、ついに見付ける事ができないまま、残りのメンバーも王都への帰路に就いた。
「何故まだ探しているの?」
治癒士ジルダ=イデリアルは、国王が“死亡”と判断して表立った捜索も打ち切られた。
それでも『納得がいかない』と、イデリアル伯爵が捜索を続けている事は、誰も口にはしないが周知の事実でもある。それは仕方ない。親だから。たとえ国王が“死”としても、『はいそうですか』と諦められるはずがない。国王とて親でもあるから、イデリアル伯爵を咎める事はないし、止める者も誰もいない。
ラドルファスはバズラス王国の王子で、マサトは異世界人の英雄で、ジルダとは旅の仲間程度の間柄なだけで、特に交友があった訳でもない。それなのに、何故ジルダを探し続けているのか。
「全く意味が分からない」
聖女ナナカは無事に役目を終えて、尚且つ聖女の力を持ったままで、王太子妃となった。この国にとってはいい事ずくめだ。姿を消した伯爵令嬢を気にする必要がある?
『ジルダ……』
ゾクッと背中に嫌な汗が滲んで、左足がズキンと痛みだす。
『やっぱり、ヤっちゃう?』
「そうですね。ヤりましょう」
「そうだね……もういっその事、ヤッちゃっ……たら駄目だからね!?」
ー危ない……流されるところだったー
ジルダ=イデリアルとは、私の事だ。
今は、名前だけではなく容姿も変えているから、見た目だけではジルダと気付く人はいない。ジルダは緑色の髪で、瞳は水色という目立つ色をしていたけど、リヴィアンナはよくある茶色の髪と緑色の瞳。
どうやって容姿を変えているのか?
それは、私が常に着けているピアスのおかげだ。これは、ミツの世界の神様が特別に私の為に作ってくれた装身具。この世界で言うところの“魔道具”だけど、魔力ではない力が込められているらしく、この世界ではどんな魔道士であっても、これが魔道具だと感知される事はないそうだ。だから、私が容姿を変化させているという事も気付かれる事はない。
そのおかげで、私は今もまだなんとか生きている。ミツの世界の神様には感謝しきれない。
『尻拭いは慣れていると─笑っていらっしゃいました』
ー神様が尻拭いとは?ー
その意味はよく分からないけど、助けてもらった事に変わりはない。
そして、私がジルダだとバレてしまうとどうなるのか?その先は───
「大丈夫です。バレる前に処理します」
「『処理』!?それ、駄目なやつ!」
「──ちっ」
ミツ、その舌打ちも聞こえてるからね?
それと、もう一つジルダと違うところは、リヴィアンナには水属性の魔力が無い事。基本、魔力の属性は一つだけだが、稀に二つ以上の属性を持って生まれる事もある。更には、二つ以上持って生まれても、逆に失われる事もある。私の場合は──
奪われた──が正しい。
あの時の感覚と痛みを忘れる事はない。今でもハッキリと残っている。
何とかギリギリのところで、風属性の魔力だけは残った。それでも以前よりは弱くなってしまった。ただ、風属性が残ったのは、アウラが私を護ってくれたから。ただ、その時に力をたくさん使ったせいで、アウラ自身の力も弱くなってしまった。
『ジルダを護れたんだから、何の問題もないわ』
と、アウラは笑ってくれた。
そして、ミツもその時に私を助けてくれた1人で、それ以降も私に付いて護ってくれている。ミツはナナカとはまた別世界の獣人で、“主様”と言う神様の命を受けているらしい。ただ、異世界の神様が関与できるギリギリのラインらしく、『一気に問題解決!とまではできなくて申し訳ない』との事だけど、そんなギリギリの危険な状態で助けてもらっているのだから、ありがたいと言う気持ちしかない。
ーいつか、その主様にも直接お礼が言えたらいいけどー
とにかく、あの3人が何の目的でジルダを探しているのか──
「気を付けないとね」
ただの治癒士に執着するのは止めていただきたい。




