10 要らない来客
「マサト、久し振りだね」
「ラドルファス様は相変わらずですね。アーニーさんも、お元気そうで」
「マサト様、お久し振りです」
一体何がどうなっているのか。何故こんな辺境地の外れに英雄と一国の王子が居るのか。幸い、街からは離れているから、変な噂が広まる事はないだろうけど。
私の左肩に止まっているアウラが、ラドルファス様達を警戒している。私とミツにしか見えないアウラだけど、ラドルファス様とアーニーは直感が鋭い獣人の中でもかなり敏感だから、何かは感じ取っている可能性はある。
「貴方が、この店の店主かな?急に来て申し訳ない。マサトを探していたんだ」
「いえ……会えて良かったですね。えっと……すみませんが、戸締まりをしたいのですが……」
「ああ、申し訳ない。すぐに失礼するよ。それじゃあ、またね」
「ありがとうございました……」
3人を見送った後、店の扉の鍵をかけた。
「『またね』って何?」
『あの3人、やっちゃう?』
「駄目だからね?国際問題にもなるからね?」
『そうなの?残念ね……』
鳥の姿のアウラなのに、悪巧みしているような顔に見えるのは気のせいだ。うん。気のせいだ。
「もう……本当に、何で今更……今日はミツのもふもふで寝よう」
そうして、私はいつもより早い時間に就寝した。
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「彼は、旅の仲間だったラドルファス王子なんだ。今は、この国で観光を楽しんでるみたいで、ついでで俺に会いに来てくれたみたいなんだ」
「そうなんですね。このような所で、殿下にお会いできて光栄です」
「ありがとう」
にっこり笑うラドルファス様。その人懐っこい笑顔に、ついつい警戒心を解いてしまいそうになる。
「後ろに居るのは、ラドルファス様の従者のアーニーさん。そのアーニーさんが怪我をしてたから、ここの薬を塗ったら気に入ったみたいで。購入できる?」
「勿論です。少しお待ち下さい」
英雄様が購入したのは一番軽いタイプの塗り薬。それと同じ物を取り出す。獣人は怪我をしても治りが早いから、掠り傷程度だと手当を受けない人もいる。治りが早いから、軽いタイプの塗り薬でも効果が出やすくもある。
「ここでは1人で?」
「いえ、もう1人居ます」
「リヴィ様、そろそろお昼にしませんか?」
と、そこにタイミングよくミツがやって来た。
「彼女が、私の同居人兼助手のミツです」
「来客中でしたか。失礼しました」
ミツがしれっと頭を下げて謝る。
ミツが3人の存在に気付いていなかった筈はなく、私を助けに来てくれたのだ。
「もうお昼なんだね。こちらこそ申し訳ない。薬、ありがとう。では─」
と、3人が店から出て行くと、私はため息を吐きながら椅子に腰を下ろした。
「何で……こんな所に3人も集まるの!?」
『やっぱり、やっちゃった方が良い?』
「いつでも動けますよ」
「アウラ、ミツ、落ち着いてね?絶対にやっちゃったら駄目よ?」
この2人の気持ちは有り難いけど、本当にやっちゃったら大問題だ。
「これ以上、接点が無い事を祈るわ──」
*ラドルファス視点*
「マサトは、あの娘が気になっているのか?」
「気になって……ると思う」
結婚式の後すぐにマサトに手紙を飛ばすと、マサトからとすぐに返事が届いた。
“ジルダを探している。今は北の辺境地に居る”
そうして、俺とアーニーはすぐに王都から辺境地にやって来た。そこでマサトから紹介されたのが、さっきの娘─リヴィアンナだった。家名が無いという事は平民。容姿も至って普通で、茶色の髪に緑色の瞳。ジルダとは全く違う容姿なのに、何故かジルダと同じ雰囲気を持った娘だった。
「気になると言えば……あのミツという娘もだな。アーニーは、どう思う?」
ミツも容姿は幼く見える女の子。茶色の髪は普通だけど、あの金色の瞳は何とも言えないものを帯びている。おそらく、人間ではなく獣人だろうけど───
「あのミツという子はヤバいですね。人間ではないのは確かですけど、獣人だとは言い切れないような……とにかく、本能がヤバいと訴えかけてます」
「あのミツが?」
と、マサトは驚いているが、本当にあのミツという娘はヤバい。何故かは分からないが、おそらく、英雄のマサトや獣人の俺達なんかよりも──
「それが本当なら、そんなヤバいミツが『リヴィ様』と呼ぶリヴィアンナとは一体どういう関係なんだ?」
ただ単に、“同居人”でも“店主と助手”でもないだろう。
「何だか、色々気になるね……」
ー少し探ってみるか?ー
「あ、そうそう。聖女ナナカが、マサトが結婚式に来なかった事を寂しがっていたよ」
「そうか……また会えたら謝罪するよ」
“会いたくないし、謝罪する気もない”
ルベールもマサトも、ナナカに謝る事は……ないだろう。




