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〈隠しキャラ〉の登場と未来の算段



 夜空の映る窓を背に、静かにこちらを見据える彼は――いわゆるところの〈隠しキャラ〉だった。

 それもとんでもなく面倒なフラグ管理とリアルラックがなければルートの開かない〈隠しキャラ〉だった。

 序盤にランダム要素に打ち勝つことでしか立てられないフラグを立てて、とあるキャラのイベントを一定まで進め、運でしか立たないフラグを二つ立て、別のキャラの好感度を調整し、さらに別のキャラのとあるイベントにて特定の選択をし、運でしか立たないフラグをもう一つ立て、なおかつ一定数のキャラのエンディング条件をクリアしておく――誰が考えたんだこの仕様と毒づきたくなる条件を成立させてやっと、最後のランダムイベントが発生するという鬼畜仕様。ランダム要素と作中スケジュール管理が厳しすぎて投げるプレイヤーが続出したのは仕方ないと言えよう。


 私が体に入った時点で、序盤のフラグととあるキャラの一定までのイベント進行とリアルラックが関係するフラグ二つと一定数のキャラのエンディング条件達成まではクリアしていたので、最終ランダムイベントに行き着く可能性が皆無にはなっていなかった。だからこそ必死で好感度調整をし、とあるイベントが発生するところまでイベントを進行させ、祈るというより呪うような勢いで運によるフラグ立てを祈った成果かフラグが立ち、……たった今、最後のランダムイベントが発生したというわけだ。この、――〈深夜の訪問者〉イベントが。



 〈深夜の訪問者〉イベント――通称〈かけおち〉イベント。

 〈隠しキャラ〉である彼は、存在ばかりは物語の初期から会話の端々に匂わされるものの、当人はフラグを立てていってもほぼ出てこない。噂話だったり、その存在の痕跡だったり――そういうのを積み重ねていくのがフラグ立てと言っても過言ではない。

 リアルラックが関係するフラグ立ては、街の噂話を聞く中で、彼の話が出るかどうかにかかっている。これは聞ける内容が完全ランダムな上に、他の話題も豊富にあるためセーブ&ロード地獄を味わわされるという代物だ。

 かくいう私もゲーム機ごとぶん投げたくなったものだけれど、今となってはなんて恵まれていたのだろうと心から思う。セーブ&ロードができる環境って素晴らしい。画面を隔てた世界って素晴らしい。


 ともかく、そんなしちめんどうくさいフラグ立ての結果出会える〈隠しキャラ〉は、少々特異な立ち位置の人物だ。

 そもそも、ゲーム中で正体が判然としない。推測はできる程度に情報は与えられるけれど、答えは明示されないのである。まあ、投げっぱなしとかではないし、確証が得られないだけで、きちんと情報を拾えば誰しも察せられるだろう、という感じではあったので、それも味というか、〈隠しキャラ〉――『レキ』の魅力の一部、として捉えられていたけれど。


 そんな彼は、『万能の漆黒』、『願いを叶えるもの』、『暗闇の王』、……そういった異称を持った、伝承、或いはお伽噺、そして噂話――その中に存在を置くものだ。正体についてはこの世界とか国の成り立ちやら神話やらが絡んで長くなるのだけれど、ざっくり説明すると、『神代から零れ落ちた超常存在で、人の願いに稀に力を貸してくれるもの』ということになる。


 ルートの開放=エンディング条件達成、且つ、どのエンディングよりも優先順位が高いのが、この『レキ』のエンディングだ。というか最後のランダムイベントが発生した時点でエンディング確定だからこそ、私はエンドレス発狂エンディングを回避するために死に物狂いで〈深夜の訪問者〉イベントを起こそうとしたわけで。


 とはいえ、この世界――もといゲームのコンセプトは『総ヤンデレゲー』なので、もれなく『レキ』もヤンデレに分類される性質は持っている。

 が、しかし、最後のイベントで初めましてをやるわけなので、そんなに深刻なことにならない。


 そもそも、『レキ』のエンディング自体、乙女ゲームのエンディングとしては微妙なところだったりする。いわゆるノーマルEDに近い。ただし、普通の乙女ゲームの。……このゲーム中でのノーマルEDは『総ヤンデレゲー』として恥じないようなつくりになってるので、普通のゲームのノーマルEDと同じ括りにしてはいけない。


 なので、通称の〈かけおち〉は、愛し合っている男女の〈駆け落ち〉ではなく、出奔的な意味での〈欠け落ち〉だったりする。

 つまり、このエンディングは、それっぽいかなー?という種はあれど、明確に恋愛とかにはならないし、辿ってきたルートのあれこれに決着はつかない――それどころか、全部放って国を出ることになるのだ。


 流れとしては、こうだ。多種多様なヤンデレ素質持ち(一部は漏れ出てる)と関わりを持った結果、そこはかとなく漂う不穏な(時々あからさまにヤバい)あれこれに危機感とか不安とかを抱いた主人公が、国を出ることを考える。

 しかし周りはヤンデレだらけなので、そう簡単に事は運ばない。具体的にはヤンデレ攻略対象たちによって自力出国の道が潰される。

 それにますます危機感を煽られた主人公が、神頼みならぬ伝承頼りをし、――運よく『レキ』の目に留まり、『国を出る』という『願い』を叶えられる……というのがゲームでの流れである。


 そして概ね、私in主人公も、多少の行動や反応の差はあれど、同じ流れを辿っている。イベントだのフラグだの言っているように、ほぼほぼこの世界は私の知っているゲームの通りに動くのだ。

 最初こそゲームでは描写されなかった幕間が豊富な劇でも見ているような心地だったけれど、身に迫る危機は『主人公』の体に入っている限り現実でしかない。知っている通りに動くからこそ恐ろしい。


 ……と、まあそういうわけで、ここに『レキ』が現れた時点で最悪の事態は回避確定、私としては大勝利!と快哉を叫びたいくらいなのだけど、さすがにそれをするほど冷静さを失ってはいない。


 ひとまず、ゲーム通りの言葉を発してから微動だにしない『レキ』に対してなんらかの行動を起こさなければならないとは理解している。

 理解しているのだけど、――ゲームでは先ほどの『レキ』の台詞で暗転、場面転換、幻想的な雰囲気の漂う夜闇を背景にしたスチルが表示され、表示される若干ポエミーかもしれない会話の中にヤンデレチラ見せかなー?な台詞が混じってる、みたいなエンディングに雪崩れ込むのである。

 つまりここから先はアドリブでどうにかするしかない。これまでの経験上、こういう合間合間の行動がゲームで言う次のイベントに影響することはなかったので、余程のことがない限りこのまま私の知っている『レキ』のエンディングに行けるとは思うんだけど。



「……私の望みを、あなたは知っているのね」



 とりあえず無難に会話を、と口を開く。向けた言葉に、『レキ』は首肯した。

 ……と思ったら、なぜか直後に首を傾げた。



「知っている。知っていた。だから来た――はずだが」



 『レキ』は傾げた首を元に戻して、私を――私の中の何かを見透かすようにじっと見つめる。

 ……何? なんなの? なんかちょっと雲行き怪しくない?



「お前の『望み』。『国を出たい』という『願い』。最も強い『望み』を叶える、そのために。……だが、お前の『望み』の本質が見えない。俺に届いた『望み』は、確かにそれであったのに。お前が最も深きところで望むことはそうではない。そうではないことしか俺には見えない」



 ゲームでも思ったけど『レキ』の口調、会話に向いてない……とか言ってる場合じゃない。

 ええと、もしかしてゲームの通りにフラグ立てて呼び寄せられはしたけど、実際相対したら中身に違うのが入ってるって差異が致命的な影響出してるってことじゃないのこれ。


 確かに『レキ』がどういう原理で『望み』を知るのかとかはゲームでは詳しく説明されなかったけど、超常存在ゆえの不思議能力によってだったら、心を読むだとか魂レベルの透視とか……できるのでは……。だって神代の超常存在だし……。


 ……えっ、詰んだ? いやそんなここまで来て中身の違いがシナリオに影響及ぼすとか無いよね無いと言って……!


 思わず固まって思考を高速回転させていたら、『レキ』は目を眇めるようにしてこちらを見たまま、一歩足を踏み出した。



「見えない。見えない。『望み』はあるのに。『願い』はあるのに。最も強き、最も深き、『望み』が見えない」



 一歩。また一歩。音もなく、滑るように近づいてくるのに、なんだか逃げ出したくなったのは混乱によるものか、本能か。



「――……面白い」



 結局固まったまま動けなかった私の手を掴んで、――『レキ』が、笑った。

 見えるのは目だけだというのに、お世辞にも穏やかとは言えない、獲物を見つけた捕食者のような笑みに体が竦む。



「すべての、あらゆる『望み』を俺は叶える。そういうものとして在る。叶えられない『望み』が存在するはずはない――なのにお前の『望み』は確たるものとして感じ取れない。見えない。不可解だ。不思議だ。在るはずがない。だが、ここに在る」



 ゲームのエンディングで聞いた台詞にちょくちょく掠るのに、決定的な線を踏み越えた感がある。

 具体的に言うと、ちょっとチラ見せだったヤンデレ要素が顔出してない? 気のせい? エンディングスチルですら変わらなかった表情が変わったのなんかヤバいフラグじゃない?



「お前の『望み』を叶えよう。叶えなければ俺は俺として在れない。――ああ、でも。面白い。お前に何があるのかを知りたい。お前を知りたい。お前の中身を知りたい」



 その『中身』は大丈夫なやつですか。腹とか掻っ捌かれませんか。胸を切り開いて中を見たいとかじゃないですか。

 ……こう、なんかアグレッシブ無節操ヤンデレと近い系統な興味な気がしてならないけど気のせいだと思いたい。



「ひとつ、ひとつ、叶えよう。お前の『望み』を。薄布を剥ぐように。最奥に届くように。お前の最も強き、最も深き『望み』が、俺に見えるようになるまで」



 ……なんだろう、このこっちに都合のいいことを言ってるはずなのに空恐ろしい感は。

 いや、でも行ける、詰んでない。大丈夫。とにかく『レキ』の協力を得て国を出てあのエンディングっぽい場面を経過さえすればエンディングを迎えたと見做されるはず。


 そして多分『レキ』が見えないっていう私の『望み』は『元の世界に帰りたい』だから、『レキ』の興味……らしきものが深化するまでにさよならできるだろう。そうであると信じたい。



「――言っていることはよくわからないけれど、私の『望み』を叶えてくれるというのなら、それでいいわ」


「ああ、俺はお前の『望み』を叶える。それは約す。まずは、――『国を出たい』という『望み』から」



 逃がすまいというように掴まれていた手が、するりとどこかへ導こうとするように持ち替えられる。

 これはこのまま国外に移動の流れ……! 今は夜であのエンディングスチルの背景は夜闇! 勝った!!


 ――なんて思った私は、夜闇を背景に会話は起こったものの、『レキ』がぐいぐい来るためにその中身がゲームのエンディングと似ても似つかないものになってしまう未来に途方に暮れることになるのだけど――無論未来視なんて芸当はできないので、そんなことは知らないまま、『レキ』に手を引かれて窓から夜闇に飛び出したのだった。



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