第4話、今の状況でやっても全然可愛くない
謎の活動に強制参加が決定した後、日野本先生は俺にまだ何かあるらしく、雨雲は先に生徒指導室を退室した。
そして申し訳なさそうに先生は笑うと、ゆっくりと口を開いた。
「無理やりごめんね。」
「自覚があるんならやめて欲しかったですけどね。」
こうは言うが、実際面倒に思ってるだけで、そこまで気にはしていなかった。
「蓮見君は雨雲さんと関わってみるべきだって思ったんだよね。」
「雨雲と?」
「うん。あの子も君とは系統が違うけど、難物だから。」
この感じ、もしかしたら先生は雨雲の猫被りに気づいているのかもしれない。でなければ『優等生キャラ』を通している彼女の事を『難物』とは言わないだろう。
「それに、なんとなくだけど、君とあの子は似てる気がする。」
「冗談でしょう。ほぼ対極の属性同士ですよ。」
パッと見で『陽キャ』と『陰キャ』でもう違うのに、似ているところなんて無いに等しいだろう。彼女は優等生で接しやすい人気者。俺は話しかけられすらしないぼっち。
一体何を見て似ていると言ったのだろうか。
「とにかく!蓮見君にとっても、雨雲さんにとっても、いい刺激になると思う!」
「何言ってるかよくわかんないっすけど。」
「一ヶ月。」
「え?」
日野本先生は人差し指を俺の顔の前に突きつけた。
「一ヶ月だけ試してみてよ。彼女と関わりながら生徒会のお手伝い。今日はゴールデンウィーク明けの五月十二日だから実際は後三週間くらいしかないけど、一ヶ月後、どぉ〜しても嫌になったら私に言って?その時はサポーターの役目からちゃんと降ろします。」
「一ヶ月……。」
「もちろん、働いてくれた分はしっかり平常点に加算します。そこは安心して!」
「一ついいですか?」
「どうぞ。」
「先生が彼女をそこまで推す理由ってなんなんです?」
百歩譲って先生が罪悪感から俺の友達作りを手伝ってくれる、みたいな理由だったとしてもだ。先生が俺と学年も違う、性別も違う雨雲と関わらせようとする意味がわからない。俺と彼女は性格も、住む世界も全く違うはずだ。
「……さっきも言ったけど、似てるんだよ君たち。だからお互いにとって、いいカンフル剤になるんじゃないかなって。後は『女の勘』ってやつです!」
「割と適当だな。」
「まぁ、お互いにとって劇毒になる可能性も無いことも無いかもだけど……。」
「おいダメじゃねぇか。」
反発しあってジ・エンドって落ちにならないかこれ。
……まぁ、雨雲の評価のためにも、とりあえず一ヶ月だけならやってみてもいいか。割と自由は利かせてくれるっぽいし。
「はぁ……。一ヶ月ですね。やるだけやってみますよ。」
「ありがとっ!」
そう言う先生は満面の笑みを浮かべた。
それは何処かの彼女のような、貼り付けた笑みじゃなく、心の底から嬉しく思っているように見えた。
五月十三日、水曜日
「あ、先輩!お疲れ様です〜!」
「……うす。」
翌日の放課後。
適当に自販機から飲み物を買ってから生徒指導室に来ると、そこには雨雲が既にいた。
相変わらずの甘ったるい声で愛想を振りまいている。
その暴力的なまでの愛想を横に受け流しつつ机の上を見ると、教科書と筆記用具、ノートにワークと勉強セットが置いてあった。
「……何してんの?」
「何って……勉強です!」
「仕事はどうしたよ。」
「今日はまだ無いらしいですよぉ〜?」
「早速無いのかよ……。」
強制労働に態々出向いてやったのに、初日から仕事が無いとは。
いやまぁ、いいんだけどね?別に仕事したくないし。働かなくていいならそれに越したことはない。今日は帰るか。
「せんぱい!勉強教えてください!」
「え、普通にやだ。帰る。」
「なんでですか〜!」
ぷくっと頬を膨らませ、上目遣い&涙目のコンボで反抗してくる雨雲。
その辺の男子高校生だったらイチコロであったであろう、その仕草。しかし、俺は図書室での雨雲を見ているから、それが『計算し尽くされたかわいさ』だと言うことを知っている。
「かわいい後輩がお願いしてるんですよ!?」
「あー可愛い後輩にお願いです。帰らせてくださいかわいいなー。」
「微塵も思ってないじゃないですか〜!」
私怒っています!という表現なのか、雨雲は俺の肩をポカポカと叩いてくる。
えぇ……あざとぉ……これリアルでやってくるやつ居たのか。というかいい加減うっとおしいな。
「やめいうっとおしい。てか疲れないのそれ。」
「……それ?」
コテンと小首を傾げる仕草をする雨雲。ここまで来ると最早賞賛したくなってくる。
「その……ぶりっ子?猫被り?流石にきも……寒気がしてきたから辞めてくれ。」
「は?今気持ち悪いって言おうとしました?」
こぉぉわっ!
急に目のハイライトが消えたんですけど?てかそれどうやって消してるんですか?オンオフのスイッチあるんですか?
数秒の間、雨雲はハイライトの消えた目で俺を見つめた後、大きくため息をついた。
そして再度こちらを見ると、目のハイライトは戻っていた。
ねぇ、それホントにどうやってるの?俺もできるかな?
「やっぱり都合よく忘れてくれてたりしませんか。」
「図書室のやつ?」
「はい。何度も言いますが!ぜっっったいに言いふらさないでくださいね!私が頑張って作り上げた『明るくかわいい人気者の優等生キャラ』が全部水の泡になっちゃいますから!」
「何度も言うが、俺が言うことを信じるやつなんて居ないって……てかなんか設定増えてない?」
「そんな些細な事はどうでもいいんです!」
些細な事で済ませていいのかこれは。
「信用ができません!何ですか『俺が言うことを信じるやつなんて居ない』って!友達いないって言うんですか?!ぼっちなんですか?!」
「あ、あぁ、うん。そうだよ。」
「ほらやっぱり……………………………え?」
雨雲の動きがピタリと止まった。
どうやら脳内の整理にリソースを掛けすぎているようだ。
どうでもいいけど、『雨雲の動きがピタリと止まった』って字だけで見ると、空見上げてるみたいだよね。
そんなどうでもいいことを考えている間に、雨雲の脳内整理が終わったようだ。
「……友達……ゼロ人?」
「うん。」
「……………………………………………………あ、すみません……。」
おい、急に冷静になるな。そしてその可哀想なものを見る目を今すぐやめろ。悲しくなるだろ。
「えっと……じゃあだいじょぶそうですね……。」
おい。別にぼっちでも楽しくやってるからな。
「てか、なんでわざわざキャラ作ってんの?こっちの方が話しやすいんだけど。」
「……ほんとですか?」
「おん。猫かぶってる方はマジで気持ち悪い。」
「とうとう言い切りましたね?!女の子に言っちゃいけない言葉ランキング上位の言葉を!」
そんなランキングあるのか。『上位』って事は一位じゃないのか。気持ち悪いより良くない言葉ってなんなんだろうな。
「……こほん。まぁいいです。じゃあ先輩には『こっち』で行きますので。」
そう言いながら俺を見る雨雲。
作り笑顔もなく、演技感もない。困ったような笑み。
どうやら『これ』が素のようだ。
「それで、なんでキャラを作ってるか、でしたっけ。普通に、他人に素を見せるのって怖くないですか?」
「今見せてるじゃん?」
「先輩のことはもう他人として見てないので。ミジンコかゾウリムシの類と一緒です。もう気にしてません。」
「おい。」
他人って他人って読む方かよ。
微生物になっちゃったじゃん。気にしてないというか、最早見えてすらいないだろ、それ。
「でも珍しいですよね。先輩、もしかしてあっち側の人なんです?」
「あっち?」
「恋愛対象が男の子、みたいな。」
「いやいやいやいやいやないないないない。」
何故そうなった?俺にそっちの気は無いぞ。至って健全な男子高校生だ。
「ほら、私って可愛いじゃないですか。」
「とんでもねぇ自信だな。どっから出てくんだよその自信。」
「私がちょっと上目遣いでお願いしたら、大体の男子はだまさ……協力してくれるんですけどね?」
「今、騙されてくれるって言おうとした?」
「……………………………………………………えへっ!」
「全然誤魔化せてないからな。あと、
今の状況でやっても全然可愛くない




