第2話、サポーターやってみない?
「だって私、優等生キャラでやってるんです!」
必死にそう叫んだ彼女の瞳は、真っ直ぐに俺を射貫いていた。からかいも嘲りも無い、言われたらお終いだ、とでも言うような必死さだった。
「なるほど、猫被りか。」
「失礼ですね。本性を隠している、と言ってください。」
「割とそっちの方が悪くない?」
猫被りよりイメージ悪くなるぞ。
だがまぁ要するに、だ。
「さっきの文句云々を晒されると化けの皮が剥がれるから、死にたくなかったら黙ってろ、ってことだろ?」
「私、いつからそんな悪役みたいになったんですか……まぁ、そういう事ですけど……。」
「なら安心しろ。どうせ俺の言った事を信じるやつなんて居ないよ。」
「…………へ?どういうことです?」
「そのままの意味だ。」
そもそも俺に友達なんて居ないし、クラスで孤立してるやつの、しかも浮いてるやつの話なんて聞く耳持たないだろう。
そこまで言っても良かったが、変に気を使わせそうだったから辞めておく。てかぼっちの話なんて聞いてても楽しくないだろ……言ってて悲しくなってきた。
キーン、コーン、カーン、コーン。
昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴り響いた。
「んじゃな。」
「ちょ、ちょっと!イマイチ意味わかんないんですけど!」
だからそのままの意味だってのに。
尚も噛み付いてくる彼女を再度見る。
亜麻色の髪を肩下くらいまで伸ばし、二つ結びにして前に下ろしている。幼さが残る顔立ちに、校則ギリギリのラインを攻めた制服の着崩し。おおよそ『ギャル』とか『陽キャ』に分類されるであろう少女。
そんな彼女にはぼっちの世界の話はわからないらしい。そりゃそうだ。日本にいてアメリカの事が理解できる訳じゃない。逆もまた然り。だからわからなくて当然か。
尚もギャーギャーと騒ぐ少女にいい加減イラッときたため、先程彼女が座っていた席を指さす。
「俺に構ってる暇あったら仕事終わらせたら?もう予鈴鳴ったぞ。」
「…………あー!忘れてた!も〜!先輩のせいですからね!サイテイです!」
「いや、なんでよ。」
理不尽にも程がある。
もういい加減無視して教室に戻ろう。本来の目的の時間潰しは出来ているし、ここに留まる理由がない。というか留まりたくない。そもそも遅刻する訳にもいかないし。
そう思いながら、机の上を片している女生徒を放って図書室の出口に足を向ける。
「まって!そうだ名前!名前教えてください!」
「名乗るほどのものじゃない。」
「それ今言っても全然カッコよくないですから!どうせ言うならもっとカッコよく言ってくださいよ!言ってもカッコよくないですけど!」
次の授業なんだっけなぁ〜。
「……で、こんな所に呼び付けて何の用ですか。」
「そんなに怒らなくてもいいじゃない。ちょっとお話したかっただけなのに。」
「なにもここじゃなくてもいいでしょう……。」
放課後。
やっと家に帰れるとウキウキワクワク状態だった俺は、先生の呼び出しによって一瞬でテンションが地に落ちた。
鞄を持って、後は教室を出るだけ。そんな時に先生から声をかけられてしまった。
しかも連れてこられたのは生徒指導室。また変な噂が広がるよ……今でさえ良くない噂ばっかなのに。
「はぁ……それで、結局なんの用があったんです?」
「蓮見君は今、ちゃんとクラスに馴染めてる?」
「……。」
なぜそんなことを聞くのか。聞かれて当然と言えば当然なのか。
目の前の教師の名は日野下 咲々良。この学校内だと恐らく一番若い教師だ。
明るめの茶髪を肩上くらいまで伸ばした彼女は生徒から大人気。主に男子から。
小柄、童顔、癒し系。この三点セットで健全な男子高校生の大半はノックアウトされてしまっただろう。
彼女は去年の俺の担任だった。だから何があったかわかっているし、心配をしてくれているのだろう。
「ちゃんと馴染めてますよ。そこに居ないような、もはや空気のような存在としてクラスに溶け込めてます。」
「うーん……出来れば人として馴染んでて欲しかったなぁ……。」
「ははっ、そりゃ無理な話ですよ。」
そう言うと、日野本先生は困ったような顔をする。
「君には普通の学生生活を送って欲しいんだけどな……。」
「送れてますよ。現にちゃんと学校に来て授業受けてるじゃないですか。」
「そうじゃなくて、もっとこう……高校生らしく遊ぶとか!」
「家に帰ったらゲームで遊んでますし、外出て一人ゲーセンも偶に行きますよ。」
「ちがくて!お友達とか!」
「ぼっちにはハードル高いっすね〜。」
「…………………………ごめんなさい。」
日野本先生はそう言って深く頭を下げた。
今の会話の何処に謝罪の要素があったのか。俺には全く理解できなかった。
「……それは何に対しての謝罪ですか。」
「私が、君の高校生活を奪った事についてです。」
「身に覚えがありませんね。」
なんの事だかさっぱりである。
「っ!あれは君が悪いんじゃないでしょ!?私の時も!文化祭の時も!確かに言い方は悪かったかもしれないけど、君は……君は人を助けようとしたんだよ?!」
「うるさかったのを黙らせようとして、勝手に痛い目を見ただけですよ。それに、あれが最善だった。だから先生が気にする必要は無いです。」
「でも……!」
続く言葉を待ったが、それ以上は無かった。
恐らく、これ以上言っても意味がないと悟ったのだろう。
日野本先生はまだ何か言いたげだったが、一呼吸置いて姿勢を正した。
「……君は優しすぎるよ。」
「ご冗談を。性格が悪いの間違いでしょう。」
「確かに、ちょっと捻くれてるとは思うけど。」
おい教師。そこは否定しろよ。
「でも、誰かのために行動を起こせる人を性格が悪いとは思いません。例えそれが周りを敵にする最低なやり方だったとしても。」
真っ直ぐに見つめられて、言葉を失う。その目からは、何を言われても意見を変えるつもりはない、とでも言いたげな強い意志を感じた。
どう言葉を返すべきか。頭の中で色々と考えていると、生徒指導室の扉からノック音が鳴った。
「はい、どうぞ」
日野本先生が入室を促す。
「失礼します。あのぉ、日野本先生がこちらに居らっしゃると伺ったんですけどぉ。」
「うわぁ……。」
聞いたことのある猫撫で声に、思わず言葉が漏れてしまう。
あまりいい思い出のない、というか全然ない声の主の方を見ると、やはり見た事のある少女の姿があった。
亜麻色の髪の女生徒。面倒事の匂いしかしないから、出来ればもう会いたくなかった少女だ。
彼女もこちらの方に気づいたのか、目を見開いていた。
「あ〜!さっきの!」
「え?あれ?蓮見君知ってるの?」
「いえ、知りません。人違いです。では先生この辺で!」
そう言って生徒指導室から出ていこうとするが、直前で制服を引っ張られ、それは阻止された。
「まだ話は終わってないから。残りなさい。」
そう言うと先生は女生徒の方に視線を向ける。
「もしかしてプリントの整理終わった?」
「あ、はい!どうぞです!」
「ありがと〜!ごめんなさいね、面倒な事頼んじゃって。」
「いえいえ〜!これくらいならドンドン頼ってください!」
「雨雲さんが学級委員長で助かるわぁ!」
傍から見て、雨雲と呼ばれた女生徒の株が急上昇していくのがわかる。
先生。そいつさっきめっちゃ文句言ってましたよ。しかも図書室で。大声で。
ふと寒気を感じた。女生徒の方を見ると、女生徒もまた、満面の笑みを貼り付けて、こちらを見ていた。
だ ま っ て ろ ?
そう言っているような気がした。
何この子!やっぱり怖い!
「それで先生。もしかしてこちらの方とお話の最中でした?」
「え?あぁ!大丈夫よ!大した話はしてないから!ただ去年受け持った生徒と『今年はどう?』って話を聞いてただけだから!」
「なるほどです!」
「蓮見君。こちら一年生の雨雲 木実さん。私が今年受け持った生徒です!雨雲さん。こちら二年生の蓮見茜君。私が去年担任していた生徒です!」
「よろしくです〜!せんぱい!」
「うっす……。」
まじで図書室で喚いてた時と感じが違うな。これが猫被りか。
確かに、こんだけ明るくて接しやすそうな雰囲気漂わせて、学級委員長でその上、先生の頼み事も断らないってんだから、『優等生キャラ』として成り立っている。そりゃ、あの時俺に見られたことを言いふらされたくないわけだ。バラされた時点で今までの努力が無に帰す。あそこまで必死になる理由も何となくだが理解できた。
雨雲の分析から帰ってくると、日野本先生は「うーん……。」と唸りながら考え事をしているようだった。
そして数秒の後、「あっ!そうだ!」と言う声とともに、俺と雨雲を一瞥する。何か含みのある笑みを浮かべながら。
ハッキリ言って、嫌な予感しかしない。
「ねぇ二人とも!部活動やってないよね?」
「え?そうですね。やってませんけど……。」
「俺は帰宅部に所属してるので。では。」
「それ、ちゃんと無所属じゃないですか……。」
「蓮見君。ふざけないで。」
「あ、はい。」
女性陣二人から、ゴミでも見るような視線を向けられた。
やめて!そんな目をされて興奮するような癖は俺にはないのよ!
「先生からお願いがあるんだけど、
サポーターやってみない?




