第1話、優等生キャラでやってるんです!
「あの……!みんな一回静かに……!」
耳障り、騒がしい教室の中。一人の少女は皆をまとめようと必死に声を上げていた。しかし、教室内の喧騒は止むことを知らない。
そんな様子を見て、少年は辟易としていた。
少年は集団行動が得意ではない。
少年は騒がしいのが得意ではない。
「はぁ……。」
皆を纏めようと必死になっている少女は、少年の知り合いだった。
孤立していた少年に救いの手を差し伸べ、分け隔てなく接してくれる女の子。
そんな彼女が役割を果たそうとしているのに、こいつらは静かになるどころか益々騒がしくなる。
心底面倒くさい。だが、このままだとずっと耳障りな音が響くだけで時間が過ぎて行ってしまうのだろう。
「おっけー、わかった。んじゃ、こうしよう。」
パンッと少年が両の手を合わせて皆の視線を煽る。
ガヤガヤと騒がしかった教室は一気に静かになった。
なんだなんだ、と興味津々の男子もいれば、話を遮られて不快そうな顔を向ける女子もいる。
少年はその視線を浴び、大きくため息を吐いた。そして一言。
「俺たちの出し物は『無し』にしよう!」
にっこりと、表現するならそれが相応しいのだろう。貼りつけた笑顔でそう言い切った。
これは高校一年生の文化祭の出し物を決める、楽しい話し合いだった。
高校二年生になってから一ヶ月が経った。
クラス替えも行い、ある程度のコミュニティが出来上がる頃、俺、蓮見 茜は一人、窓際席でぼーっとしていた。
クラスメイトの談笑をBGMに、昼時の雲の形を目でなぞる。そんな置物のような奴に話しかける物好きなど居なかった。寧ろ俺の周りだけ妙な空間が出来ている。
結論から言うと、俺は友達作りに失敗した。いや、『失敗した』訳ではない。『あえて』作らなかったのだ。
俺は集団行動があまり得意ではない。加えて騒がしいのも得意じゃない。ならば、別に友達など不要なのではないか。時間をかけて労力を費やし、精神をすり減らすまでの価値が友達にあるのだろうか。答えはノーだ。そもそも一人でいることが悪いことなのだろうか。グループで集まって、なんの生産性もない会話を延々と顔色を伺いながら繰り広げるくらいなら、一人今日の晩飯のことを考えていた方がよっぽど有意義だ。
これは友達作りに失敗した言い訳ではない。寂しいとは思わないし、あんな風に共通の趣味の話をダラダラする日常を、羨ましいと思ったこともちょっとしかない。
だからこれは断じて言い訳などではない。
「はぁ……。」
目の前のランチなパックを貪りながら、目の前の現実から目を背ける。
ふと視界の端に時計が映った。昼休みに入ってからまだ十分そこらしか経っていない。
「長いな。」
今日は帰ったら派手なアクションゲームでもやろう。
ランチなパックだけでは昼休みは削りきることは出来なかったため、残りの時間は図書室で過ごすこととなった。
別に本を読もうとしている訳でもなく、読みたい本もある訳ではない。ただ残りの時間を騒がしい教室で過ごすくらないらマシだと思っただけだ。
自分の背よりも高い本棚に並ぶタイトルたちを流し見し、何か自分の興味がそそられるような本が無いかを探していく。これをするだけで時間が驚くほど早く進む。俺が編み出した時間つぶしの術だ。
面白そうなタイトルがあればその本を手に取り、ペラペラと捲る。気に入らなければ戻し、またタイトルを流し見する。そんな行為を二度三度行った頃、この場には相応しくない怒声が聞こえてきた。
「あ〜〜〜〜〜〜!もうっ!なんで私がこんな事しなきゃならないの!」
何事かと声の方へと足を向ける。声の発生源は恐らく読書スペース。本を読むために、もしくは勉強をするために設けられた、机と椅子が並ぶ場所。そこには亜麻色の髪のお下げの少女と、数十枚の紙があった。
少女は紙の束をキッと睨みつけ、不満が収まらないのか尚も声をあげる。
「だいたい、こういうのって担任の教師の仕事でしょ!私が学級委員長だからって押し付けるのは違うでしょ!ていうか別になりたくてなった訳じゃないし!なんか気づいたら押し付けられてただけだし!じゃなきゃ委員長なんてやりたくないっての!」
荒れてるなぁ〜……。一応ここ、図書室なんだけど。
幸い、俺と少女以外誰も居ないため、大声を上げても問題は無かった。多分、少女の方もそれを知ってて声を上げたのだろう。どこにもやりようの無い不満を声に出して発散したい気持ちは分からなくもない。
聞いた感じ、やりたくもない委員長を押し付けられた挙句、貴重な昼休みに先生から仕事を押し付けられたみたいだ。
うん、ドンマイ。きっといつか、いい事があるさ。
幸い彼女は俺に気づいていない。ここは彼女の名誉のためにも、仕事のためにも気づかなかったことにして立ち去ろう。
そう格好つけながらその場を去ろうとした。
がたっ。
しかし、そうはいかなかった。
ちょっと格好つけて気分が良くなっていたため、横にある本のおすすめコーナーの机に気が付かなかった。それに足をぶつけてしまい、机がズレる音が鳴る。そして挙句の果てには本が倒れる音が鳴る。
「やっべ。」
思わずそう呟いてしまった。
急いで散らばった本達を掻き集めて、机の上に適当に並べ直す。
よし、撤収だ!
「多分歳上ですよねぇ〜?せんぱ〜い?だいじょうぶですかぁ〜?」
その場から離れようとした足を止める。いや、止められた。
鼓膜にこびり着くような甘い猫撫で声。心配してくれたとも取れる言葉と声の発生源をちらりと見る。そこには満面の笑みの、見てわかる貼り付けた微笑みの、亜麻色の髪のお下げ少女が立っていた。心配の色なんて微塵もなかった。
oh……南無三……。
「あ、あぁ大丈夫。ちょっとぶつかっただけだから。」
「そうですかぁ〜。ならよかったです。」
「おう。んじゃこれで……」
「ところでぇ〜、どこから聞いてましたぁ〜?」
相変わらずの猫撫で声と貼りつけた笑みで、そう聞いてくる。物凄い圧力がある。
何この子!?怖い!
「いや、さっき来たばかりというか……うん、なんも聞いてないぞ。」
「そうですかぁ〜。ならちょっとだけ手伝ってくれません?」
「……は?」
え、やだよ。なんで昼休みに他人の仕事を手伝わなきゃならんのだ。
「いやいや、俺あんたのクラス知らんし。てか学級委員長の仕事なら尚更俺が手伝えることないだろ。」
「……やっぱ聞いてたんですねぇ〜。」
「いやだから聞いてないって。」
「じゃあ、どうして私が『学級委員長』ってこと知ってるんですかぁ〜?」
言われて気づいた。
確かに俺との会話の中に、こいつが『学級委員長だ。』というヒントもフレーズも全く出ていない。完全に口を滑らせて自滅してしまった。
「……………………………………………………………………勘かな。」
「流石に無理があると思います。」
ですよねぇ〜。
目の前の少女も、俺の苦しい言い訳を聞いて真顔になってしまった。
急に真顔にならないで欲しい。ちょっと怖い。
「いいですか!誰だか知りませんけど、絶対にこの事は言いふらさないでくださいね!」
「この事ってどの事だよ。先生に対して悪態ついてた事か?」
「それもそうですけど!私が裏ではこういう事言ってるんだ〜的な事です!」
「別に言わんわ。てか誰だって裏表あるんだから、んな事一々気にすんなよ。」
「もしバレたら先輩のせいですからね。」
いや、なんでだよ。理不尽すぎるだろ。
「だって私、
優等生キャラでやってるんです!
お久しぶりの人はお久しぶりです。ひゃるるです。
なんかふと「こんな話面白そうだな」と思い、書き起こしてみました。




