EP 5
愛の告発と、通信講座で作る鉄骨フレイル
「じいいぃぃぃぃ……」
昼下がりのポポロ村の広場。
拓哉は顔を引きつらせていた。なぜなら、村の少女ルルアが、先ほどから瞬き一つせずに拓哉のことを至近距離で見つめ続けているからだ。
「ど、どうしたんだ? ルルア……顔に何かついてるか?」
「ま、まさか……愛の告発!?」
横でイモッカ風味の饅頭をかじっていたリリスが、ガタッと立ち上がって頓狂な声を上げた。
「お子様は寝る時間ですよおお!? 昼ドラ展開ですかぁ!?」
「『告白』な! 告発ってなんだよ、俺が何の罪を犯したっていうんだ! それに今は真っ昼間だよ!」
ポンコツ女神の語彙力にツッコミを入れつつ、拓哉はゴクリと唾を飲み込んだ。
上目遣いで見つめてくるルルアの瞳は真剣そのものだ。
「拓哉さん……」
「お、おう」
「その『鉄骨パイプ』……私が強化してみます!」
「えぇ!?」
拓哉の胸の高鳴りは、斜め上の提案によって見事にへし折られた。
ルルアの熱視線は、拓哉にではなく、彼の背中に担がれた『コンクリート詰め鉄パイプ(粗大ゴミ)』に向けられていたのだ。
「あのままの形状だと、近接距離での威力は高いかもしれませんが、素人の拓哉さんが振り回すにはバランスが悪すぎます。私、拓哉さんの武器は『フレイル』にした方が良いと思うんです!」
「フレイル?」
「ぐるぐるしながら、ポンポコポーンってして、グシャアッてなる奴ですぅ」
リリスが饅頭を口に咥えたまま、両腕を振り回して物騒な擬音を口走る。
「分かったような、分からないような……鎖の先に重りがついてるモーニングスターみたいなやつか? でも、ルルアに武器の改造なんてできるのか?」
「はい! お任せ下さい! これでも私、ドワーフの『ドンガン地下帝国通信鍛冶師講座』を受講して、修了証書を持ってるんです!」
「なんだそのユーキャンみたいな異世界の通信講座は!」
ツッコミも虚しく、ルルアは拓哉から鉄骨パイプを受け取ると、村の隅にある小さな鍛冶場へと駆け込んでいった。
――カンカン! カンカン!
――……ボキッ!
「……す、凄い。中で何が起きてるのか全然分からないけど、凄まじい熱気だ」
鍛冶場の外で待機していた拓哉は、中から響く打撃音に感心していた。
「……だけど、今『ボキッ』って、絶対鳴っちゃいけない嫌な音がしなかったか?」
「あーあ。拓哉さん、そんなに細かいことばかり気にしてると、若くしてハゲますよ〜?」
「やめろおお! ワンオペのストレスで最近ちょっと抜け毛気にしてるのにぃ!?」
リリスの無神経な言葉にダメージを受けていると、鍛冶場の扉が勢いよく開いた。
煤で顔を黒くしたルルアが、誇らしげに一つの武器を抱えて立っていた。
「完成です! はい、拓哉さん!」
差し出されたそれを見て、拓哉は息を呑んだ。
持ち手となる鉄パイプは握りやすく短くカットされ、そこからドンガン帝国製の強靭な黒鋼の鎖が伸びている。そして鎖の先端には、あの極悪な『コンクリートの塊』が、棘付きの鉄枠でガッチリと補強されて繋がっていた。
「名付けて、『特製・鉄骨フレイル』です!」
拓哉はそれを受け取り、軽く手首を回してみた。
――ブンッ! ブォンッ!!
「おぉっ!?」
鎖の遠心力により、ただのパイプだった頃とは比べ物にならないスピードでコンクリート塊が空を裂く。
扱いやすさが格段に向上しているうえに、コンクリートの質量に遠心力が加わったことで、破壊力は数倍に跳ね上がっているのが素人目にも分かった。
「すげえ……これなら、死蟲機が束になってきても蹴散らせる。最高に扱いやすいし、威力もヤバそうだ!」
「えへへ、お役に立てましたか!?」
「あぁ! 本当にありがとうな、ルルア!」
拓哉が嬉しそうにフレイルを振り回していると、ルルアは満足そうに微笑み、ペコリとお辞儀をした。
「いえ! では、私はこれで!」
「え? どこか行くの……って、うおっ!?」
ルルアが小走りで立ち去った直後。
彼女がいた背後の影から、ぬるりと巨大な人影が現れた。
ポポロ村の自警団の若頭、バルガスだ。なぜか腕まくりをして、木剣を肩に担いでいる。
「え? バルガスさん? なんでいきなり……」
「ガハハハ! 武器の出来は最高みたいだな! だが、せっかくの武器も『持ち主がヘボ』じゃあ話にならんからな!」
バルガスの目が、肉食獣のようにギラリと光った。
「戦い方も知らない素人のあんちゃんを、このまま野放しにはできねぇ。今日から俺様が、その武器の扱い方と戦場の基本をビシバシ鍛えてやる!」
「ま、マジかあああ!?」
突然の『修行回』の開幕宣言。
振り返ると、少し離れたところからルルアが両手を振っていた。
「バルガスさーん! 拓哉さんをお願いしまーす! 優しくしてあげて下さいね♡」
「あぁ、任せとけルルア! 拓哉が戦場で死なないように……」
バルガスは首の骨をボキボキと鳴らしながら、ニチャァと笑った。
「『優しく血反吐を吐くくらい』には、たっぷりと可愛がってやるよ!」
「全然優しくねぇえええええ!!」
異世界の洗礼は、女神の借金だけでは終わらない。
鈴木拓哉の、筋肉痛と血の味が約束されたスパルタ特訓が幕を開けた。




