第三章 クラン始動&ドワーフ武器ギルドの逆襲編
リサイクルマスターLv.2の衝撃と「動かないゴミ」
冒険者ギルドで正式にクラン『リサイクル』を設立した翌朝。
タナントシティの孤児院『ミルクファーム』の広い裏庭に、拓哉とクランの初期メンバーたちが集結していた。
「――というわけで。クランを設立したことで、俺の『リサイクルマスター』がLv.2に上がったんだ」
拓哉がそう宣言すると、メンバーたちから「おおーっ!」と歓声が上がった。
「兄貴、すげぇッス! あの最強の鉄パイプを超えるお宝が出せるようになったんスね!」
「期待してますニャ旦那様! 鉄パイプ以上の利益率を叩き出す超絶アイテム、さっそくお披露目お願いしますニャ!」
目を輝かせるニックと、すでに算盤を構えて臨戦態勢のニャーニャ。
ラビーナも腕を組み、「ふむ。どのような武具が出るのか、私の見立てで評価してやろう」と興味津々だ。
「よし、じゃあ早速出してみるぞ。ステータス画面に新しく追加されたカテゴリーは……『機械・家電製品(ジャンク品)』か」
拓哉はゴクリと唾を飲み込み、その中から一番強そうで、かつファンタジー世界でロマンがありそうなアイテムを選択した。
【召喚:エンジン式チェーンソー(※刃こぼれあり・燃料切れのジャンク品)】
【決済額:500G】
「出でよ、地球の遺物!」
拓哉が右手を前に突き出すと、空中に鈍い光の魔法陣が展開され――。
ドスゥゥゥンッ!!
重々しい金属音と共に、土煙を上げて『それ』が庭に落下した。
赤と黒の無骨なプラスチックの外装。先端に伸びる鋼鉄のガイドバーと、そこに巻き付く鋭利なノコギリ刃。微かに漂う、地球の機械特有の『機械油』の匂い。
現代日本で木を伐採するために使われる、重さ約6キロのエンジン式チェーンソーである。
「なっ……! な、なんだこの禍々しいフォルムは……!?」
ニックとロースが、悲鳴に近い驚嘆の声を上げた。
「刃先の一つ一つが、細かな牙のようになっている……。剣でも斧でもない、相手の肉を『削り取る』ためだけに作られた極悪非道な形状……! 兄貴、こいつはとんでもねぇ殺戮兵器ッスよ!!」
「むぅ……!」
ラビーナが警戒しながらチェーンソーを拾い上げ、その重量と重心を確かめる。
「確かに、見た目は恐ろしい。この細かな牙で肉を挽かれれば、いかに強靭な魔物とてひとたまりもないだろう。……だが、重すぎる上に重心が悪すぎる。これでは剣のように振るうことは不可能だ。ただの『トゲのついた重い鉄塊』でしかないぞ?」
ラビーナの的確な評価に、拓哉は得意げに笑った。
「チッチッチッ。ラビーナ、お前は地球の『機械』ってものを分かってないな。こいつは振って使う武器じゃないんだ。この出っ張ってる紐を引っ張ることで、内蔵された『エンジン』が火を吹き、この刃が目にも留まらぬ速さで自動回転するんだよ!」
「な、なんだってーっ!?」
「刃が自動で回転する剣!? まさに神の御業ですニャ!!」
一同の期待が最高潮に達する中、拓哉はチェーンソーを地面に置き、片足でしっかりと固定した。
「見とけよお前ら。これが地球の科学力だ! いけぇっ!!」
拓哉は勢いよく、スターターロープを引っ張った。
……カスカスカスッ。
「あれ?」
もう一度引っ張る。
……カスカスカスッ。スカッ。
虚しいプラスチックの擦れる音だけが庭に響き渡り、刃はピクリとも動かない。
「おかしいな。もう一回……うおおおっ!!」
カスカスカスッ! カスカスカスカスッ!!!
拓哉が何度ロープを引いても、チェーンソーは沈黙を保ったままだ。
それもそのはずである。ステータスの説明文にあった通り、このチェーンソーは『燃料切れ』なのだ。地球のガソリンも混合オイルも、この魔導パンクの異世界に存在するはずがない。
「ハァッ、ハァッ……だ、ダメだ。燃料のガソリンが無いから、ウンともスンとも言わねぇ。エンジンがかからないんじゃ、ラビーナの言う通り『トゲのついたクソ重い鉄塊』だわ、これ……」
拓哉が肩で息をしながら絶望の声を漏らすと、周囲の空気がスーッと冷えていった。
「…………」
「パチパチパチパチッ! ズバリ、査定額は『0G』ですニャ!!」
ニャーニャが非情な宣告を下す。
「500Gも払って、ただの重いプラスチックと鉄の塊……大赤字ですニャ! 鉄パイプを出してた方がマシですニャン!」
「う、うるさい! スキルがレベルアップしたからって、異世界じゃ動かない『機械のゴミ』が出るだけなんて、俺だってガッカリしてるんだよ!」
崩れ落ちる拓哉。
『リサイクルマスターLv.2』の恩恵は、異世界では使えない巨大なガラクタを生み出すだけの、完全なハズレ能力に思えた。
「――あの、拓哉さん。ちょっと、それを見せてもらってもいいですか?」
その時だった。
今まで静かにチェーンソーを見つめていたルルアが、スッと前に出た。
「ん? ああ、別にいいけど。重いから気をつけてな」
ルルアはチェーンソーの前にしゃがみ込むと、なぜか懐から『ドンガン帝国製・魔導通信教育のドライバーセット』を取り出した。
「ふむふむ……。ここが燃料を燃やす『えんじん』という部分ですね。この複雑な金属の歯車が噛み合って、回転を生み出している……美しい、なんて無駄のない合理的な構造……!」
カチャカチャと音を立てて、ルルアが手際よくチェーンソーのカバーを外し始める。
その瞳は、普段の純真な僧侶のそれではない。完全に『メカニック(技術者)』の狂気を帯びた目だった。
「ル、ルルア……? お前、何して……」
「拓哉さん! これ、すごい機械ですわ! 燃料がないなら、この『えんじん』の部分を取り外して、代わりに『魔導石の回転回路』を直接組み込めば……」
ルルアは振り返り、満面の笑みで宣言した。
「地球の機械とアナステシアの魔導を融合させて、絶対に動くようにしてみせますわ! 私に、少しだけ時間をください!!」
こうして、動かない地球のゴミは、異世界で最も危険な発想を持つ少女の手に委ねられた。
クラン『リサイクル』が世界にその名を轟かせるための、最狂の魔改造武器の誕生が、すぐそこまで迫っていた。




