EP 10
冒険者ギルド「ラックギオン」
タナントシティの中央広場から一本太い通りに入った所に、その巨大な石造りの建物はあった。
入り口の上には、剣と盾、そして幸運の象徴である『四つ葉のクローバー』を組み合わせたような意匠の看板が掲げられている。
「着いたッス! ここがタナントシティの冒険者ギルド『ラックギオン』本部です!」
案内役のニックが誇らしげに胸を張る。
拓哉たちは、鉄パイプ商法で稼いだ銀貨がたっぷり詰まった革袋を手に、重厚な扉を押し開けた。
「うわぁ……すごいですわ」
中に足を踏み入れた瞬間、ルルアが思わず感嘆の声を漏らした。
そこは、熱気と活気に満ちた空間だった。酒場を兼ねた広いホール、依頼がびっしりと張り出された巨大な掲示板、武具の手入れをする戦士、仲間と談笑する魔法使い。
「ふむ。ポポロ村の自警団とは比べ物にならない数の戦闘員だな」
「ニャフフ、お金の匂いがプンプンしますニャ……!」
ラビーナが鋭い視線で冒険者たちの力量を値踏みし、ニャーニャはさっそく掲示板の依頼報酬をチェックし始めている。
そんな中、拓哉はある奇妙な光景に気がついた。
ホールの隅のテーブルで、数人の駆け出しらしき若手冒険者たちが、自分の武器を自慢げに見せ合っているのだ。
『見ろよこれ! 昨日路地裏で買った「絶対不折の銀杖」だぜ!』
『俺も買った! スライムの酸でも溶けねぇし、ゴブリンの頭蓋骨をワンパンで叩き割れたぞ!』
『しかもめちゃくちゃ軽いんだ! 魔法の金属ってすげぇ!』
彼らが宝物のように撫で回しているのは、紛れもなく昨日拓哉が『リサイクルマスター』で出し、ニャーニャが売り捌いた『ただの鉄パイプ』だった。
(……すげぇ。たった一日で、完全に口コミで広まってる)
現代の規格化された工業製品の恐ろしさを実感し、拓哉は少しだけ顔を引きつらせた。
「さて、それじゃあ受付に行くか。目的は二つだ。クランの設立と、この『鉄パイプ』のギルド公式納入の交渉」
拓哉は仲間たちを連れて、一番大きな受付カウンターへと向かった。
カウンターの中には、制服に身を包んだ真面目そうな受付嬢が立っている。
「いらっしゃいませ。本日は冒険者登録でしょうか? それとも依頼の受注ですか?」
「あ、いや。新しく『クラン(組織)』を設立したいんだ。俺がマスターで、このメンバーで登録をお願いしたい」
「クランの設立ですね。かしこまりました。登録には保証金として、銀貨50枚(50,000G)が必要となりますが……」
受付嬢が申し訳なさそうに金額を告げる。
駆け出しの冒険者には、簡単には用意できない大金だ。
「ああ、これで頼む」
しかし、拓哉はニャーニャから受け取っていた革袋から、無造作に銀貨50枚を取り出し、カウンターにジャラッと積んだ。
「ご、5万Gを一括で……!? か、かしこまりました! すぐに手続きをいたします!」
目ん玉を飛び出させる受付嬢に、拓哉はさらに言葉を重ねた。
「それと、もう一つ。俺たちは武器の卸売もやってるんだ。昨日から街で出回ってる『絶対不折の銀杖(鉄パイプ)』なんだけど……あれを、ギルドの公式の初心者用装備として、定期納入する契約を結びたい」
その言葉を聞いた瞬間、受付嬢の顔色が変わった。
「えっ……!? あ、あなたが、あの『銀の杖』の販売元なんですか!?」
「あ、ああ。昨日ちょっと路地裏で売ってみたんだけど……なんかマズかったか?」
「マ、マズいなんてもんじゃありません! 今日一日、ドワーフの武器屋のギルドから『新人の客を取られた!』って猛烈な苦情が来てるんです! でも、若手冒険者たちからは『最高の武器をもっと入荷してくれ!』って絶賛の嵐で……!」
受付嬢は慌てふためきながら、パタパタと手を振った。
「ク、クランの設立に加えて、そんな大規模な専属契約の交渉となると、私の権限ではどうにもなりません! 当ギルドの最高責任者を通す必要があります!」
「ギルドマスターか。分かった、呼んできてもらえるか?」
拓哉が尋ねると、受付嬢は奥にある豪奢な両開きの扉を指差した。
「ええと、マスターなら、今、あちらの執務室の方に……。あ、あの、大丈夫でしょうか……」
受付嬢が何か言い淀んだ、その時だった。
「ひゃあっ!?」
バーーーンッ!! と奥の扉が勢いよく開き、そこから一人の若い女性が、大量の羊皮紙(書類の束)を抱えたまま、見事にすっ転んで飛び出してきたのだ。
「あわわわわ……!」
ばさばさーっ!と宙を舞う書類の吹雪。
そして、床に顔面から激突する鈍い音。
「い、痛ぇ……」
静まり返ったギルドのホールで、拓哉たち一行はポカンと口を開けてその光景を見つめていた。
最強の戦闘員たちが集う冒険者ギルドのトップ。
そこから現れたのは、誰もが予想だにしなかった「圧倒的ドジっ子」の姿だった。




