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「ブラックバイトから解放されたら、女神の負債(ブラック)を背負わされた件」  作者: 月神世一


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EP 9

価格破壊! ニャーニャの鉄パイプ商法

タナントシティの冒険者ギルドからほど近い、人通りの多い路地裏。

そこに、ゴルド商会の荷馬車を改造した即席の露店が姿を現した。

「さぁさぁ、寄ってらっしゃい見てらっしゃいニャ! そこの新人冒険者のお兄さんたち! いつ魔物に折られるか分からない『ナマクラな銅の剣』で、まだ命を懸けてるんですかニャ!?」

木箱の上に立ち、メガホンのように両手を口に当てて客引きをするのは、もちろん我らが強欲猫耳商人・ニャーニャである。

「今日ご紹介するのは、ドワーフの秘伝技術と未知の魔法金属が融合して生まれた奇跡の打撃杖! その名も『絶対不折の銀杖(※ただの鉄パイプ)』ですニャ!」

「なんだなんだ?」

「魔法金属の杖だって?」

威勢の良い声と「ドワーフの秘伝」というキラーワードに釣られ、装備に乏しい駆け出しの冒険者たちがワラワラと集まってくる。

路地裏の物陰では、拓哉がステータス画面を開き、ひたすら虚空から鉄パイプを召喚し続けていた。

【召喚:建築用・単管パイプ】

【決済額:150G】

【召喚:建築用・単管パイプ】

【決済額:150G】

「……俺、完全に裏方の工場長(ライン工)じゃねえか」

ボヤきながら鉄パイプを量産する拓哉をよそに、表のニャーニャのセールストークは最高潮に達していた。

「口で言うだけなら誰でもできますニャ! そこで今日は、特別に強度テストをお見せしますニャ! おーい、そこのお兄さんたち!」

「おう! 任せな!」

ニャーニャの合図と共に、仕込みのサクラであるニックとロースが群衆の前に飛び出してきた。

「俺は通りすがりの牛耳族カウ・トライブの戦士だが、この銀杖の強さを試させてもらうぜ! ロース、お前のその『中古の鉄の斧(3,000G)』で、思い切りこの杖をぶった斬ってみろ!」

「へへっ、真っ二つになっても文句言うなよ!」

ロースが両手で鉄の斧を振りかぶり、ニックが構えた鉄パイプに向けて全力で振り下ろした。

ガキィィィィンッ!!!

けたたましい金属音が路地裏に響き渡る。

群衆が息を呑んで見つめる中……なんと、ロースの鉄の斧は刃がボロボロに欠け、柄から真っ二つに折れ曲がってしまった。

対するニックの構えた『鉄パイプ』には、ほんのわずかな擦り傷がついただけで、歪み一つ生じていない。

「お、おおおおっ!?」

「嘘だろ!? フルパワーの鉄斧をノーダメージで受け切りやがった!」

「しかもあのカウ・トライブの兄ちゃん、あんなに軽々と片手で持ってるぞ! どんだけ軽いんだ!?」

地球の規格化された中空の炭素鋼。その恐るべき実用性を目の当たりにし、冒険者たちの目の色が変わった。

「ニャフフフ! 見ていただいた通りですニャ! そして気になるお値段ですが……なんと今日だけ特別価格! 一本たったの『銀貨1枚(1,000G)』でご提供ですニャーッ!!」

「「「なんだってーーーーっ!?」」」

1,000G。それは、粗悪な銅の短剣すら買えるか怪しい、破格中の破格である。

数秒の静寂の後、路地裏は暴動のような熱狂に包まれた。

「俺に売ってくれ! 借金してでも買う!」

「バカ野郎、俺が先だ! 金ならここにある!」

「3本くれ! パーティー全員分だ!」

「はいはい、押さないで順番に並ぶニャ! 在庫は(工場の旦那様が過労死するまで)無尽蔵にありますニャー!!」

飛ぶように売れる。

文字通り、一瞬で鉄パイプが冒険者たちの手に渡り、代わりにチャリンチャリンと美しい音を立てて銀貨が木箱に積み上げられていく。

「旦那様! 在庫追加! もっと早く出すニャ!」

「わ、分かったよ! はい次! はい次!」

拓哉の指が痙攣しそうになるほどのスピードで召喚と納品が繰り返された。

一時間後。

「……ふぅ。とりあえず、今日のところはこれくらいにしといてやるニャ」

熱狂が去った路地裏で、ニャーニャは山のように積まれた銀貨を前に、ウットリと頬擦りしていた。

「今日の売上、実にパイプ100本で100,000G(10万円)ですニャ! 旦那様の原価15,000Gを差し引いても、純利益85,000G! ボロ儲けですニャ~♡」

「俺の指先一つで8万5千Gの利益か……。地球の工事現場のおっちゃんが聞いたら腰抜かすぞ、これ」

指をさすりながら、拓哉も思わず笑いがこみ上げてきた。

慰謝料の振り込みを待たずとも、この商法を続ければクラン設立の保証金などあっという間に稼げてしまう。

「むぅ、これだけ儲かったなら、タナントシティで一番美味い肉屋に行ってもバチは当たらんな!」

「私はスイーツがいいですぅ! 神聖なるパフェとか!」

大量の銀貨を見て、ラビーナとリリスが早速たかりにきている。

「ふふっ、本当にすごいですね、拓哉さん。これなら、すぐに冒険者ギルドでクランの申請ができますわ」

ルルアがニコニコと笑いながら拓哉にタオルを差し出した。

その平和な光景の裏で。

「……おい、なんだあの銀色の杖は」

「なんで新人のガキどもが、あんな凄まじい業物を全員装備してやがるんだ……!?」

タナントシティの大通りにある伝統的な『ドワーフの武器屋』の親父たちが、全く売れなくなった自慢の銅剣を抱えながら、血の涙を流していることなど、拓哉たちは知る由もなかった。

「よし! クラン設立の資金もできたことだし、明日は冒険者ギルド『ラックギオン』に乗り込むぞ!」

「「「おーっ!!」」」

タナントシティの経済(武器相場)を意図せずぶっ壊した鈴木拓哉とゆかいな仲間たちは、次なる目的地である冒険者ギルドへと意気揚々と歩き出すのだった。

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