EP 8
最強の初期装備「地球の鉄パイプ」
すき焼きパーティーの翌朝。
タナントシティの孤児院『ミルクファーム』の食堂で、拓哉たちはこれからの活動に向けた作戦会議を開いていた。
「さて。ザック王子からの慰謝料(月100万G)が振り込まれるのは月末だ。それまでの当面の生活費と、何より『クラン(組織)』を設立するための初期費用を稼がないといけない」
拓哉が腕を組んで切り出すと、テーブルを囲んでいたニャーニャが「待ってましたニャ!」とばかりに身を乗り出した。
「クランの設立認可証を発行してもらうには、冒険者ギルドに結構な額の保証金を積む必要がありますニャ! だからこそ、私がタナントシティの市場で、旦那様の『リサイクル品』を売り捌くんですニャ!」
「まぁ、手っ取り早い金策はそれだよな。……でも、何を売る?」
拓哉の問いに、すき焼きで完全に拓哉の舎弟と化したニックとロースが、勢いよく手を挙げた。
「兄貴! 兄貴の出す品なら、なんだってバカ売れしますぜ!」
「そうだぜ! 特に、俺たちみたいな駆け出しの冒険者が、秒で欲しがる『お宝』があるじゃないスか!」
「駆け出しの冒険者が欲しがるもの?」
拓哉が首を傾げると、ニックは興奮気味に身を乗り出し、ロースの肩を叩いた。
「『鉄パイプ』ッスよ! 昨日、死甲虫機をぶっ叩き割った、あの恐ろしく頑丈で美しい鉄の棒ッス!!」
「……鉄パイプ?」
拓哉はステータス画面を開き、試しに一本、目の前のテーブルに召喚してみた。
【召喚:建築用・単管パイプ(※解体現場の廃棄品・長さ1.5m)】
【決済額:150G】
コトン、と鈍い音を立てて、少し錆の浮いた中空の鉄の棒が現れる。
現代日本であれば、どこの工事現場にでも転がっている、ただの『足場用の鉄パイプ』だ。
「これのことか? こんなもん、ただの鉄の筒だぞ?」
拓哉が呆れたように言うと、ニックとロースはパイプを手に取り、まるで伝説の聖剣でも拝むかのように瞳を輝かせた。
「ただの鉄の筒ぅ!? 冗談キツいぜ兄貴! 見てみろよこの表面の滑らかさ! 端から端まで一切の歪みがない、完璧な真円のフォルム!」
「しかも、中が空洞になってるおかげで、見た目より遥かに軽い! なのに、俺が全力で曲げようとしてもビクともしねぇ! これを打ったドワーフの鍛冶師は、間違いなく国宝級のバケモノッスよ!!」
ブルブルと震えながら感動する獣人の若者たち。
そこで拓哉は、ハッと気づいた。
現代地球の工業製品は、徹底した品質管理と「炭素鋼」などの合金技術によって、安価で均一な強度を誇っている。
しかし、この異世界の一般的な鍛冶技術は、まだ中世レベルだ。特に、駆け出しの冒険者が買えるような「粗悪な銅の剣」や「鉄の斧」は、重い上にすぐに刃こぼれし、少し硬い魔物を叩けば簡単に折れ曲がってしまうのだ。
「なるほど……。この世界じゃ、地球の規格化された工業用鉄パイプは、『軽くて絶対に折れない超合金の鈍器』になるのか」
拓哉の呟きに、ラビーナも腕を組んで深く頷いた。
「ああ。剣は刃のメンテナンス金がかかるが、打撃武器ならその心配もない。新人の筋力でも振り回せる軽さと、魔物の外殻を打ち砕く強度を両立したその鉄の棒は、まさに『最強の初期装備』と言えるだろう」
「騎士隊長のお墨付き出ちゃったよ」
「……パチパチパチパチッ!!」
突如、テーブルの端で恐ろしい速度で算盤が弾かれる音が鳴り響いた。
ニャーニャである。
彼女の黄金色の瞳は、すでに「¥」マークに変わっていた。
「ニャフフフフ……見えましたニャ。勝利の方程式が!」
「ニャーニャ、顔が完全に悪徳商人になってるぞ」
「旦那様、この鉄パイプの原価(決済額)は150Gですニャ? これを、駆け出し冒険者向けに『ドワーフの秘伝技術で作られた、絶対に折れない魔法の打撃杖』として……一本、銀貨1枚(1,000G)で売り出しますニャ!」
「1,000G!? 原価の6倍以上じゃないか! ボッタクリだろ!」
拓哉がツッコミを入れると、ニックとロースが全力で首を横に振った。
「ボッタクリなもんスか! 俺が持ってるこの『すぐ刃こぼれする鉄の斧』だって、中古で3,000Gはしたんスよ!?」
「こんな国宝級の武器が1,000Gで買えるなら、タナントシティの駆け出し冒険者は、借金してでも全員買いますぜ!!」
「……マジかよ、異世界のデフレ(武器相場)恐るべし」
拓哉はこめかみを押さえた。地球の産業廃棄物が、異世界では価格破壊を引き起こす超優良兵器と化すのだ。
「フフフ。旦那様は、ただひたすらにその『鉄パイプ』を召喚するだけでいいんですニャ。販売と宣伝は、このゴルド商会仕込みのニャーニャに全てお任せを……♡」
ニャーニャが不敵に笑い、算盤を天高く突き上げた。
「さぁ、タナントシティの武器屋のオヤジどもを泣かせに行くニャ! 圧倒的な『安さ』と『品質』で、この街の武器市場を蹂躙してやるニャーッ!!」
こうして、鈴木拓哉の『リサイクルマスター』と、ニャーニャの『ゴリゴリの資本主義商法』が最悪(最高)の形で結びついた。
タナントシティの経済を揺るがす、伝説の「鉄パイプ売り」が、今まさに始まろうとしていた。




