EP 15
豚王子の失脚と、悪魔の自動振込設定
「ま、まさか……俺様の精鋭たちが、こんな辺境のゴミ溜めのような村で全滅するだと……!?」
土嚢の山と、バリアの暴力によってボロボロになった私兵部隊を前に、ザックは魔獣の背の上でガタガタと震えていた。
つい先ほどまでの傲慢な余裕はどこへやら、その顔は恐怖で引きつり、脂汗が滝のように流れている。
「だとしたら……次は君の番だよな、ザック王子?」
煙の上がる鉄骨フレイルを肩に担ぎ、拓哉がゆっくりと歩み寄る。
「ひ、ひいいいっ! 来るな! 近寄るな下級市民が! 俺様はレオンハート獣人王国、第三王子のザック様であるぞ! 本国に、父上に言いつけてやるからな! この村ごと消し飛ばしてやるぞぉぉっ!」
「はいはい。まぁ、その泣き言は一旦横に置いといて……」
拓哉は逃げようとしたザックの首根っこをひっ捕らえると、コンビニの万引き犯を取り押さえるかのような手慣れた動きで、背後からがっちりと羽交い締めに固定した。
「無礼であるぞ! 離せ、この不潔な手で俺様に触るなぁっ!」
「うるさーい! うるさーい! 乙女の敵、往生際が悪すぎますぅ!」
リリスが空中でジャージの袖を捲り上げ、般若のような顔で拳を握る。
「今こそ、私たちの怒りと……ポポロ村の力を!」
「ザック。……引導を渡そう。これは、騎士たちの誇りの分だ」
「稼ぎ時は逃さないニャ。……きっちり『お代』は頂くニャよ?」
四人の乙女(?)たちが、拓哉に羽交い締めにされたザックを囲む。その瞳に宿る光は、もはや獲物を追い詰めた肉食獣のそれだった。
「な、何を……何をしようというのだ!? やめろ、やめてくれぇぇっ!」
「「「「せーのっ!!」」」」
阿吽の呼吸。
一糸乱れぬタイミングで、四つの殺意を込めた脚がザックへと放たれた。
まずリリスが飛翔し、ザックの肥満した顔面に痛烈な飛び蹴りを叩き込む。
続いてルルアが鋭い踏み込みから、みぞおちに渾身のストレートキック。
間髪入れず、ラビーナが騎士の冷徹さをもって、ザックの急所――金的に音を立てて全力の蹴りを沈める。
そして仕上げに、ニャーニャが猫耳族の瞬発力を活かし、膝下の向こうずね(弁慶の泣き所)を算盤の角ごと蹴り砕いた。
通称:乙女の怒りの四段腹(?・物理)キック。
「ぐ、ぐへぇぇぇぇっ!?!?!?」
ザックは見たこともないような「く」の字に体を曲げ、声にならない絶叫を上げて地面に転がった。
「さて……はい、チーズっと」
拓哉はリリスからひったくった『エンジェルすまーとふぉん』を起動。
そこには、あまりの苦痛にパンツ一丁姿で悶絶し、無様に土下座しているかのような姿勢で固まった、情けないザックの姿がバッチリと収められていた。
「いいか、ザック。次にラビーナやこの村に悪さをしてみろ。この『決定的瞬間』を、魔導通信網を使ってアナステシア世界中にバラ撒いてやるからな」
「ひ、ひいいいっ!? 王家の、王家の名誉が……っ!」
「はいはい。名誉よりも先に、まずはお金の話ニャ♡」
ニャーニャがニヤリと笑い、自分のスマホ画面を操作する。
「慰謝料の請求手続きはお任せ下さいニャ。ゴルド商会の権限で、この豚男の隠し口座を一時凍結。そこから毎月1,000,000Gを、慰謝料として拓哉サンのカードの方に自動送金するよう設定したニャ♡」
「やった! これでマグローザ漁船行きは無くなったな!」
拓哉はステータス画面に表示された【ご利用残高:返済予約済み】の文字を見て、深いため息と共に歓喜の声を上げた。これでようやく、不条理な負債に怯える日々から解放される。
「あ、あのぅ……それはあんまりでは。せめて俺様の生活費を……」
ザックが虫の息で懇願するが、一同は冷ややかな視線を一斉に向けた。
「「「「あぁ!?(怒)」」」」
「す、すみませんでしたぁぁぁぁぁっ!!」
一国の王子とは思えないほどの速さで、ザックは裸足のまま森の奥へと逃げ出した。その後ろを、命拾いした私兵たちが這々の体で追いかけていく。
ポポロ村に、本当の静寂と平和が戻ってきた。
「……終わったな」
「はい! 私たちの勝ちです、拓哉さん!」
「ふふ。これで今夜は、安心して眠れそうだな」
拓哉は空になった鉄骨フレイルを肩に担ぎ直し、夕日に照らされる仲間たちの顔を見渡した。
借金地獄からの脱出。そして、大切な場所を守り抜いた達成感。
異世界に来て最悪のスタートを切った鈴木拓哉の人生は、ここからようやく、自分たちの手で切り拓く「本当の物語」へと進み始めるのだった。
(……まぁ、ニャーニャに口座握られてるから、別の意味で搾取されそうだけどな)
拓哉は隣で算盤を弾きながら「利益率、利益率ニャ〜♡」と鼻歌を歌う猫耳商人を見て、少しだけ遠い目をするのだった。




