EP 14
フレイルの騙し討ちと、暴力的なまでの『バリア』
「撃ち取れええええッ!!」
ザックの号令と共に、有刺鉄線をどうにか乗り越えた私兵たちが、怒号を上げてポポロ村の防衛線へと雪崩れ込んできた。
「死ねやぁッ、平民!!」
「オラァッ!!」
真っ先に飛び込んできた私兵に対し、拓哉は鉄骨フレイルを大きく振りかぶった。
コンクリートの塊が、風を裂いて迫る。
「ヒッ!?」
その圧倒的な質量に恐怖した私兵は、思わず足を止め、盾を構えて防御の姿勢を取った。
だが、それはラビーナとの特訓で拓哉が待ち望んでいた「完璧な隙」だった。
「――って、来ると思っただろ?」
「なっ!?」
フルスイングされるはずだったコンクリートの塊が、空中でピタリと急停止する。
極限まで筋肉を制御した【フェイント】。防御に完全に意識を割いて硬直した私兵の顔面に向け、拓哉は鎖を手繰り寄せ、今度は最短距離からコンパクトにフレイルを突き出した。
「これが本命だ!!」
ドゴオオオオオンッ!!
「ギャアアアアッ!?」
鼻面にコンクリート塊をモロに食らった私兵は、盾ごと吹き飛ばされ、後続の兵士たちを巻き込んでボーリングのピンのように転がっていった。
「良くやったな、拓哉。私の教えを完璧に自分のものにしている。強くなったな」
「ははっ、ラビーナのスパルタ特訓のお陰さ!」
肩で息をしながら笑う拓哉に、ラビーナは柔らかく微笑み返した。
だが、その視線をザックの方へ向けると、再び凄絶な騎士の顔へと戻る。
「……そうか。では、私も参るとしよう」
ラビーナはゆっくりと歩み出ると、手にしていた長剣をチャキリと鞘に収め、腰を落とした。
ザックが舌打ちをし、背後に控えていた異形の怪物たち――どこから調達したのか、サルバロスの遺物である『死蟻型』数体を前線へけしかける。
「ギギギギッ……!!」
酸の唾液を撒き散らしながら、巨大な機械蟻がラビーナに襲いかかる。
だが、彼女は瞬き一つしなかった。
「剣技――」
月兎族の爆発的な脚力が、地面をクレーターのように抉る。
電光石火の踏み込み。誰もその動きを視認することはできなかった。
「――『閃光』!!」
すれ違いざまに放たれた、神速の抜刀斬り。
一陣の風が吹き抜けたかと思うと、ラビーナはすでに死蟻型たちの背後に立ち、静かに姿勢を戻していた。
――カチン。
鍔鳴りの音と共に、長剣が完全に鞘に収まった瞬間。
時差を伴って、数体の死蟻型の上半身と下半身が、ズレるようにして真っ二つに分断され、ドシャアアッと緑色の体液を撒き散らして倒れ伏した。
「す、すげぇ……! 流石だな、ラビーナ!」
「私を誰だと思っている。元・近衛騎士隊長だぞ」
圧倒的な個の暴力。
拓哉のトリッキーな質量攻撃と、ラビーナの神速の剣技により、正面からの突撃は完全に頓挫していた。
一方、その光景を後方から見ていたザックは、ギリギリと歯ぎしりをして喚き散らした。
「えぇい! 何を手間取っておる! あのウサギの女に正面から挑む馬鹿がいるか! 別働隊を回せ! 村に侵入して、女子供を人質に取ってこいッ!!」
「ハハッ!!」
ザックの卑劣な命令を受け、十数人の私兵が森を迂回し、防衛線の手薄な村の裏手へと侵入した。
彼らは卑しい笑みを浮かべ、逃げ遅れた村人がいないか家屋を物色し始める。
だが、そこにはすでに二人の少女が待ち構えていた。
「ポポロ村の平和と子供たちは、私たちが守るんだから!」
「はいなっ! 拓哉さんたちのATM……じゃなくて、居場所は守り抜きますぅ!」
ルルアが杖を構え、リリスが『エンジェルすまーとふぉん』の画面をタップする。
「あぁ? なんだ、小娘二人で俺たちを止め……」
「いくよ、リリスちゃん!」
「せーのっ!!」
私兵たちが嘲笑おうとした瞬間、ルルアとリリスの足元に巨大な黄金の魔法陣が展開された。
「な、何だ? これは……」
「「聖なる方陣! バリアあああ!!」」
次の瞬間、私兵たちの目の前に、神聖な光を放つ分厚い「光の壁」が出現した。
……だが、それはただの防壁ではなかった。ルルアの魔力とリリスの神気が混ざり合ったそのバリアは、信じられないことに**『前方に猛スピードで突進』**してきたのだ。
バリバリバリバリイイイッ!!!
「ギャアアアアッ!?」
1億ボルトの電流を帯びたかのような光の壁が、私兵たちを物理的に轢き殺していく。もはや防御魔法という名のブルドーザーである。
「まだまだぁ! バリア! バリア! バリアバリアバリアあああっ!!」
「押し潰せですぅぅぅ!!」
ルルアとリリスが杖とスマホを振り回すたびに、巨大なバリアがドカッ! バキッ! と私兵たちを殴り飛ばし、森の木々ごと吹き飛ばしていく。
「ヒィィィッ!? なんだあの暴力的な魔法は!! 逃げ……ギャブッ!!」
村の裏手から響き渡る悲鳴と、連続するバリアの衝突音。
正面の防衛線で戦っていた拓哉は、遠くから聞こえる「バリア(物理)」の音に、思わず冷や汗を流すのだった。
「……うちのパーティーのヒロインたち、容赦なさすぎるだろ」




