EP 13
ゴミで作る絶対防衛線
「大変ニャ! ザックとか言う豚耳族の豚王子が、私兵部隊を集めてポポロ村に向かってるニャ!」
ニャーニャの叫び声が村中に響き渡った。
平和だったポポロ村の空気が、一瞬で戦時下の緊張感に塗り替えられる。
「……ついに来たか」
タクヤは手にした鉄骨フレイルを握りしめた。
隣でラビーナが、痛む胸を押さえるようにして唇を噛む。
「すまない、タクヤ……皆。私一人のために、お前たちを、この村を戦いに巻き込んでしまって……」
「何を言ってるんですかニャ! リリスさんから話は聞きましたニャ。乙女の誇りを踏みにじる豚野郎は、全人類の共通の敵ですニャ! ゴルド商会、全面バックアップさせてもらうニャ!」
ニャーニャは自前の荷馬車から、次々と重厚なクロスボウとボルトの束を運び出してきた。その目は、もはや商人ではなく「勝負師」のそれだ。
「皆、ありがとう……」
「謝るのは勝ってからだ。よし……まずは陣地を作るぞ。バルガスさん、ゴン爺! 敵は数で来るはずだ。まともに正面衝突しちゃいけない。土嚢と有刺鉄線で足止めする!」
タクヤは空中にステータス画面を呼び出した。
(借金枠は残り少ないが……ここでケチってマグローザ漁船行きになるわけにはいかない!)
「発動しろ、【リサイクルマスター】! 召喚――『水害対策用の使用済み土嚢』、および『解体現場の錆びた有刺鉄線』!!」
【決済額:5,000G】
【警告:ご利用残高が限度額に近づいています】
ピローン、という不吉な警告音と共に、広場に大量の土嚢袋と、トゲの付いた鉄線の束が山積みになった。
「なんだ、このトゲだらけの紐は……?」
「有刺鉄線だ。服や皮膚に絡みついて、進軍を物理的に止める。……バルガスさん、村の入り口にこれを張り巡らせてくれ! ゴン爺は、土嚢を積み上げて射撃用の壁を!」
「よおし! ポポロ村を舐めてる豚共に、田舎者の意地を見せてやろうじゃねえか!」
「おぉよ! 塹壕掘りなら、この年寄りの年季の見せ所じゃわい!」
村人たちが一斉にスコップを手に取り、タクヤの指示の下、現代の戦術に基づいた「十字火網」を形成していく。
数時間後。
森の奥から、けたたましい軍靴の音と、下品な笑い声が聞こえてきた。
「ギャハハハ! 逃げたウサギはこの村に隠れているんだろう!?」
豪華な装飾を施された巨大な魔獣の背に乗って現れたのは、脂ぎった顔を歪ませた男――第三王子ザックだった。彼の後ろには、重装甲を纏った私兵部隊が百人以上も控えている。
「大人しくラビーナを差し出せば、村を焼くのは半分で済ませてやるぞ!」
ザックが傲慢に鞭を振るう。
だが、その視界に飛び込んできたのは、彼がこれまで見てきたどの戦場とも違う、異様な光景だった。
村の入り口には、膝の高さまで積み上げられた「土の入った袋」が幾重にも並び、その前方には不気味に光るトゲ付きの鉄線が張り巡らされている。
「……なんだ、あのゴミの山は? 突撃しろ! 蹴散らして進めッ!!」
ザックの命令で、私兵たちが一斉に駆け出した。
しかし、彼らがその「ゴミ」に触れた瞬間、戦場は阿鼻叫喚へと変わる。
「ぎゃあああっ!? なんだこの紐、抜けない!」
「トゲが鎧の隙間に食い込むッ! 外せ、早く外せッ!」
有刺鉄線に絡まり、身動きが取れなくなった兵士たちが立ち往生する。
そこへ、土嚢の影からバルガスたち自警団が、ニャーニャの提供したクロスボウを構えて身を乗り出した。
「今だ! 狙い撃てえええッ!!」
シュバババババッ!!
「なっ……我が軍が、あんな貧相な村の防壁に止められているというのか!?」
ザックが驚愕に目を見開く中、陣地の中心でタクヤは鉄骨フレイルを肩に担ぎ、鋭い視線で豚王子を射抜いた。
「悪いな、王子様。俺の故郷じゃあ、この『ゴミ』だけで数えきれないほどの命が止まってきたんだ……。ポポロ村を舐めた代償、高くつくぜ?」
「キサマ……たかが平民の分際でえええっ!!」
激昂するザック。だが、タクヤの背後ではラビーナが静かに槍を構え、ルルアが魔力を練り、リリスが(給料天引きの怒りを込めて)神聖魔法の術式を展開していた。
ゴミから生まれた防衛線と、絆で結ばれた異端の者たち。
ポポロ村最大の戦いが、今、幕を開ける。




