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「ブラックバイトから解放されたら、女神の負債(ブラック)を背負わされた件」  作者: 月神世一


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EP 12

悪徳生命保険と、全く話を聞いていないヒロインたち

「よし……拓哉。今日は『槍』の訓練をしようか」

鉄骨フレイルの訓練もそこそこに、ラビーナが真剣な表情で提案してきた。

「や、槍!? 急だな」

「何を言っている。戦場では何が起こるか分からない。間合いを制する長柄の武器、使える武器の種類は増えるに越したことはないだろう」

「あ、製作者は私です!」

木陰からヒョッコリと顔を出したルルアが、満面の笑みで2メートルほどの長物を拓哉に差し出した。

「拓哉さんが前に出してくれた『ステンレス製の物干し竿(粗大ゴミ)』の先端に、見切り品の『文化包丁』を、ドンガン地下帝国通信講座で学んだ技術でガッチリと接合しました! 軽くてしなる、特製スピアです!」

「俺の出したゴミが、どんどん殺傷能力高めの異世界ウェポンに改造されていく……」

拓哉はピカピカに光る物干し竿の槍を受け取り、戸惑いながら構えた。

「これで、どうするんだ?」

「まずは基本の突きだ。脇を締めて、腰の回転を穂先に……」

ラビーナが木剣で姿勢を直そうとした、その時だった。

「待って下さいニャーーーッ!!」

シャシャシャッ!と、不自然なほどの高速移動(猫耳族のステップ)で、行商人のニャーニャが二人の間に割って入った。その手には、バインダーに挟まれた分厚い書類の束が握られている。

「どうした!? ニャーニャ、急に飛び出してきて!」

「武器の訓練には、万が一という事故の危険がつきものですニャ! そこで、訓練を始める前に、我がゴルド商会が提供する『安心・安全・大往生保険』を契約することをお勧めしますニャ!」

「死亡保険ってことか……? っていうか、なんで異世界にそんな手厚い金融商品があるんだよ。ん?」

拓哉は差し出された書類を受け取り、細かい文字でビッシリと書かれた『概要欄』と『特約条項』に目を落とした。

経済学部生としての活字を追う目が、徐々に点になっていく。

「なになに……万が一、被保険者(鈴木拓哉)が訓練等で重傷を負い、意識不明となってスキルが使用できなくなった場合……」

「そうですニャ。残された方が困らないための、手厚い保障ニャ」

「……『スキルの使用権限の一切を、代理人であるニャーニャに一存し、未来永劫ゴミ(アーティファクト)を出し続ける生ける契約書として商会で保管する』……って、オイイイイイッ! 何だこのエグすぎる特約は!?」

もはや保険でもなんでもない。ただの『スキル奴隷化契約』だ。

「さぁ、ここにサインと血判をニャ♡ 今なら『粗品(太陽芋のかりんとう)』も付けるニャ!」

「出来るかあああ!! 誰がかりんとう一袋で一生を売り渡すか!」

拓哉がバインダーを叩き落とそうとした瞬間、今度は背後から猛烈な勢いでジャージ姿の女神が突進してきた。

「この泥棒猫がぁぁっ!! 拓哉さんのスキルと命は私の物なんだから! 勝手に所有権を奪おうとしないでくださいぃぃ!」

「ふふ〜ん、資本主義は『早い者勝ち』ニャ。契約書を巻いた者が勝つのが、オロチ会長の教えニャ!」

ニャーニャは猫のようにしなやかにリリスのタックルを躱し、鼻で笑った。

「神様は大人しく神社に引きこもって、お賽銭の『銅粒(1円)』でも拾ってるニャン。それでお小遣いは十分でしょニャ?」

「きぃぃぃぃっ! そんなことしてたら腰が痛くなるでしょぉぉが! 私だってたまには紙幣(お札)の匂いを嗅ぎたいんですぅぅ!」

「お前ら、自分の欲望に正直すぎだろ! ろくな奴がいねぇぇ!」

命のやり取りをしているはずの戦場で、まさかの「拓哉というATMを巡る醜い利権争い」が繰り広げられる。

拓哉が頭を抱えていると、事の成り行きを静観していたラビーナが、フイッとそっぽを向いて冷たく言い放った。

「……やれやれ。俗物が」

「そして、拓哉さんの浮気者ぉぉぉっ!!」

ルルアが再び涙目になりながら、杖を握りしめて叫ぶ。

「――って、オイッ!!」

拓哉の我慢の限界が突破した。

「ラビーナ! ルルア! お前ら、今の話の流れ聞いてたぁ!? この前と全く反応が同じだよな!? 天丼リピートか!?」

「「…………」」

「目を逸らすな! 違うでしょ!? 今の俺、完全にニャーニャに悪徳保険で騙されそうになってた被害者だよね!? この流れを見て『俗物が』とか『浮気者』って返すのは、いくらなんでも会話の文脈がおかしいよねぇ!?」

拓哉の的確すぎるツッコミが、ポポロ村の広場に虚しく響き渡る。

しかし、ラビーナはウサギ耳をペタンと伏せて「聞こえないふり」をし、ルルアはそっぽを向いて口笛を吹いている。リリスとニャーニャは依然としてキャットファイトを繰り広げていた。

異世界のヒロインたちは、現代日本の論理的なツッコミなど一切意に介さない。

鈴木拓哉の気苦労と胃痛は、今日もとどまることを知らないのだった。

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