EP 11
猫耳行商人の品定めと、ATM(拓哉)を巡る修羅場
ラビーナがポポロ村に滞在するようになって、数週間の時が流れた。
追っ手の気配はまだなく、村にはのどかな空気が漂っている。
その日の昼下がり、ポポロ村の広場にカランコロンと軽快なベルの音を響かせて、一台の荷馬車がやってきた。
小型のロックバイソンが牽く幌付きの馬車。御者台に乗っているのは、ピンと立った可愛い猫耳と尻尾を持つ、小柄な獣人の少女だった。
「わーい! ニャーニャだ!」
「お菓子! お菓子ちょうだい!」
村の子供たちが、あっという間に荷馬車の周りに群がっていく。
「毎度どうもニャ! 今日は甘くて美味しい『太陽芋のかりんとう』が入ってるニャよー! 順番に並ぶニャ!」
ニコニコと営業スマイルを振りまきながら、少女は手際よく子供たちに駄菓子を売り捌いていく。首元で揺れる銀貨のペンダントが、太陽の光を反射してキラリと光った。
少し離れた場所で鉄骨フレイルの素振りをしていた拓哉は、その賑やかな様子に目を留めた。
「誰だ? あの娘。俺と同じ20歳くらいに見えるけど」
「あ、ポポロ村を巡回ルートにしているゴルド商会の行商人さんです」
横でルルアが説明してくれる。その声に気づいたのか、猫耳の少女――ニャーニャがこちらへ視線を向けた。
「毎度どうもニャ! ルルアはん。……おや? 知らない顔がチラホラ居るニャ」
荷馬車からぴょんと飛び降りたニャーニャが、トコトコと拓哉たちに近づいてくる。
「えっと、紹介するね。この村に滞在している、拓哉さんとラビーナさんよ」
「初めまして、鈴木拓哉です」
「ラビーナだ。よろしく頼む」
二人が短く挨拶した、その瞬間だった。
ニャーニャの猫耳が、ピクンッ!と異常な反応を示した。彼女の『超・動体視力』と、ゴルド商会ビジネススクール(夜間部)で叩き込まれた鑑定眼が、二人の身なりを一瞬でスキャンしていく。
(……ニャニャ!?)
ニャーニャの脳内で、凄まじい勢いで算盤が弾かれ始めた。
(この男……着ている服の繊維が異常に細かいニャ。タローマートやタローソンに出回っている規格品じゃないニャ! 縫製技術が完全に未知のレベルニャ! さらに、背中に背負ってるあの『コンクリートとかいう未知の素材』……防具屋でも見たことがない謎のアーティファクトだニャ!)
ニャーニャの視線が、瞬時に隣のラビーナへと移る。
(こっちの月兎族のはんも、どう見ても普通の出で立ちじゃないニャ! あの革鎧の装飾、剣の柄に彫られた紋章……超一級品の『お尋ね者』か『ワケありの貴人』の匂いがプンプンするニャ!)
ニャーニャの赤い瞳孔が、極限まで開ききった。
(私のビジネス校の勘が言ってるニャ……儲かる! 圧倒的なブルーオーシャンニャ! 規格外の金貨が降ってくる音がするニャ~~ッ♡)
「……ニャーニャさん? どうしたの、固まっちゃって?」
不思議そうに顔を覗き込むルルアに対し、ニャーニャは突如、バチコンッと特大のウインクを飛ばし、両手を天に掲げた。
「ニャーニャ、今ここで決めたニャ! 巡回の行商人からクラスチェンジして、この村で『出店屋』を始めるニャ!!」
「はあ!? なんで急に!?」
拓哉が驚いてツッコミを入れると、ニャーニャは拓哉の腕にガシッと抱きつき、猫撫で声ですり寄ってきた。
「だって、ついに愛しの『旦那様(※直訳:一生食いっぱぐれない金のなる木)』を見つけたからニャ~♡ 拓哉サン、私と専属のビジネスパートナー(生涯契約)を結ぶニャ!」
「ええっ!?」
「はあっ!? ダメですぅぅぅ!!」
事態は急転直下。
ニャーニャの爆弾発言を聞きつけたリリスが、猛烈な勢いで割り込み、拓哉のもう片方の腕に組み付いた。
「拓哉さんは私専属のATM(借金返済機)なんですからぁ! どこの馬の骨とも知れない泥棒猫に、私の財布は渡しませんよぉぉ!」
「お前、神の自覚ゼロだな! つーか財布って言うな!」
拓哉が叫ぶ横で、事の成り行きを静観していたラビーナが、フイッとそっぽを向いた。
「……やれやれ。随分とモテるのだな、拓哉は。この俗物が……」
「ラビーナ!? なんでちょっと拗ねてんだよ!? 目を合わせてくれよ!」
明らかに機嫌を損ねてしまった元騎士隊長。
さらに、ルルアまでが杖をワナワナと震わせ、涙目で拓哉を指さした。
「拓、拓哉さんの、浮気者ぉぉぉっ!!」
「ちーがーうーだろ!!!」
拓哉の魂の絶叫が、ポポロ村の青空にこだました。
「よく聞けルルア! リリスは『ATM』、ニャーニャは『旦那様(金のなる木)』って言ってんだから! 愛とか恋とか一言も言ってない! アイツらの目は、ただの『資本主義の目(¥_¥)』だ!! 浮気もクソもねぇよ!!」
「ニャフフ、照れなくていいニャ、マイ・ハニー(※利益率1000%)♡」
「私のカード残高、早く払って下さいね♡」
両腕を金の亡者たちにホールドされながら、鈴木拓哉は天を仰いだ。
死蟲機との死闘や過酷な特訓よりも遥かに恐ろしい、女たちの『経済戦争』が、今ここに勃発しようとしていた。




