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「ブラックバイトから解放されたら、女神の負債(ブラック)を背負わされた件」  作者: 月神世一


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EP 16

出過ぎた杭と、建国の予感、そして地球の宴

「ガハハハッ! めでてぇ! 今日は最高にめでてぇ日だ!」

夜のポポロ村の広場の中央には、巨大な焚き火がパチパチと爆ぜていた。

ザックの私兵部隊を見事撃退した自警団と村人たちは、村の特産品である芋酒『イモッカ』の樽を囲み、盛大な勝利の宴を開いていた。

「どんどん騒いでくれ! つまみや酒なら、俺がいくらでも出すからさ!」

拓哉はステータス画面を操作し、次々と『地球のジャンクフード(※訳あり品・大袋)』を召喚していく。

ザックの口座から毎月100万Gが振り込まれる(というニャーニャの悪魔的契約)のおかげで、拓哉の借金問題は完全にクリアされた。もはや、コストを気にしてゴミを出し渋る必要はないのだ。

ポテトチップスのコンソメ味や、ピリ辛のビーフジャーキーといった現代の濃い味付けは、イモッカの強烈なアルコールと凶悪なまでに相性が良く、バルガスやゴン爺たちのピッチを爆発的に早めていた。

だが、そんな喧騒から少し離れた場所で、ラビーナだけは腕を組み、真剣な眼差しで拓哉を見つめていた。

「……しかしな、拓哉。お前のその力、やはり軽々しく人に見せるべきではない」

「え?」

ポテトチップスの袋を開けていた拓哉の手が止まる。

ラビーナのウサギ耳は、周囲の気配を探るようにピンと張っていた。

「当然だろう。何も無い虚空から、この世界に存在しない未知の素材や食料を無尽蔵に出現させる。……その価値が為政者たちに知れれば、どうなるか。ルナミス帝国を築いた『佐藤太郎王の再来』だと言われるぞ。ユニークスキルとは、それほどに強大で、恐ろしい価値があるのだ」

「ラビーナはんの言う通りですニャ」

ニャーニャが算盤を片手に、スッと真顔で同意した。

「旦那様のお力は、控えめに言っても規格外の極みですニャ。ルナミス帝国はもちろん、レオンハート獣人王国の過激派や、アバロン魔皇国だって、目の色を変えて囲い込み……あるいは排除しにきますニャ」

世界の三大超大国。

その全てを敵に回すかもしれないという途方もないスケールに、拓哉はゴクリと唾を飲み込んだ。自分が使っているのは、ただの「地球のゴミ召喚」だ。だが、この世界ではそれが国家を揺るがすほどの戦略物資になり得る。

「拓哉さんは……私が! 私が絶対に守ってみせますっ!」

重くなった空気を切り裂くように、ルルアが杖を両手で握りしめ、拓哉の前に立ちはだかった。

その背中は小さいが、先ほどの戦いで見せた「バリア(物理)」の暴力を知っている拓哉からすれば、これほど心強いものはない。

「ルルア……ありがとう」

「はいっ!」

拓哉が優しく微笑むと、ルルアは顔を真っ赤にして照れ笑いを浮かべた。

「そこぉ! 若い男女でイチャイチャすんじゃねぇってんだ! ヒック……ああ、俺だって、もうちいと若けりゃなぁ……ルルアちゃんみたいな可愛い子とよぉ……」

酔っ払ってすっかり出来上がったバルガスが、遠くから野次を飛ばす。

「バルガスさんはイモッカでも飲んでて下さい!」

ルルアがぷくっと頬を膨らませて怒るのを見て、ラビーナがふっと柔らかい笑みをこぼした。

そして、彼女は姿勢を正し、騎士としての最上級の礼をもって拓哉の前に片膝をついた。

「無論、私も力を貸そう。此度は命を救われ、誇りまで守ってもらった。騎士として、武人として、そして一人の人間として……拓哉、お前に私の剣を預ける」

「ありがとう、ラビーナ。俺も、君がいてくれて本当に助かってる」

美しき元・近衛騎士隊長の忠誠。

その感動的なシーンの横で、ニャーニャが計算高い笑顔で割り込んできた。

「ニャーニャだって、旦那様を一生お守りしますニャ! なにせ、旦那様がリサイクルするお宝の山は、ぜーんぶ私の老後のための『大切な資産』になるんですからニャ! 資産防衛は商人の基本ニャ!」

「お前の守る理由は生々しすぎるんだよ!」

拓哉がツッコミを入れると、ニャーニャは「ニャフフ」と笑って算盤を弾いた。

ひとしきり笑った後、ラビーナは再び真剣な表情に戻り、真っ直ぐに拓哉の目を見た。

「まずは、強固に足元を固めるべきだろうな。拓哉。お前は仲間を増やし、強大な組織を作り……そしていずれは、『国』を作るのだ」

「…………はい?」

拓哉は自分の耳を疑った。

「仲間……組織……国ぃ!? いやいやいや! 待ってくれ、俺、ちょっと前までコンビニで時給1000円でレジ打ってた、ただのしがない経済学部の大学生だったんだけど!?」

国家元首。マクロ経済の頂点。

飛躍しすぎたラビーナの提案に、拓哉は激しく首を横に振った。

だが、仲間たちの真っ直ぐな視線が、拓哉を捉えて離さない。

ただの大学生だった。だが、もう逃げることはできないし、逃げるつもりもなかった。

「……まぁ、いきなり王様になれって言われてもピンとこないけど。でも、みんなの役に立ちたい、みんなを守りたいっていうのは、紛れもなく俺自身の素直な気持ちだ」

拓哉は夜空を見上げ、地球の故郷で恩師が言っていた言葉を思い出した。

「俺の故郷には、こんな言葉がある。『出る杭は打たれるが、出過ぎた杭は打たれない』」

「出過ぎた杭……」

「あぁ。中途半端に目立つから、他の国から叩かれるんだ。だったら、誰にも手出しできないくらい、圧倒的な力と経済力を持つ『出過ぎた杭』になってやればいい。……やってやろうじゃねえか!」

拓哉の力強い宣言に、ラビーナが目を輝かせ、ルルアが胸の前で両手を組んだ。

「拓哉さん……カッコいいです……!」

「拓哉さ〜ん♡」

良い雰囲気に包まれたその時、ジャージ姿の女神リリスが、トテトテと拓哉に駆け寄ってきた。

「じゃあ、じゃあ! 私も出過ぎた杭になるために、明日から毎日牛乳飲むから、背が伸びますかねぇ!?」

「…………そういう物理的な『出る(伸びる)』話じゃないような……」

神聖なる女神の台無しすぎる発言に、拓哉はズッコケそうになった。

しかし、その空気の抜け具合が、張り詰めていた拓哉の肩の力をスッと抜いてくれた。

「……よーし! なんか湿っぽい話や、難しい話はここまでだ! 今日はみんな生き残って、頑張ったんだ! 難しい国の話は明日から!」

拓哉はパンッと勢いよく手を叩いた。

「俺の故郷の料理で、パーッと打ち上げの続きをしよう! もちろん、大人の皆さんには『キンキンに冷えたビール(※発泡酒の見切り品)』も出しちゃうよん!」

「ビール!? サケスキーとは違うのか!? 飲んでみたいぞ!」

ラビーナがウサギ耳をピンと立てて食いつく。

「待ってましたぁ! じゃあ、じゃあ! 私は甘くて美味しいカクテルジュース! ジュースがいいですぅ!」

「はいはい。お前は未成年(?)だから、ジュースな」

夜空に響く乾杯の音。

出過ぎた杭を目指す男と、規格外の乙女たちの異世界生活は、こうして賑やかな宴と共に、新たなステージへと踏み出していくのだった。

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