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恋人気分のレエゾンデエトル  作者: 棒王 円
〈十指編・術者誕生〉
18/31

修行の日々・3


疲れていたが、頭だけは冴えていた。


修行の続きがしたかったが、一度休んでしまうと身体が動かなくて使った筋肉が痛んで、パスタを食べた後に自分の部屋に行くのが精いっぱいだった。


くたくたでジャージを脱いで着替えるのも嫌になり、下着一枚でベッドにもぐりこんだ。横たわってはみたものの悔しさで頭の中は一杯だ。


なんで出来ないのか。

あんなにやっても一回も成功しない。

ただ回数を重ねるだけでは成功しないのだろうか。


部屋に戻る俺を夜行も止めたりはしなかった。

限界が来ているのは見て取れたのだろう。ああ。十代の無限回復力が欲しい。自分の歳を痛感して嫌になる。


初日に教わった時に、型が出来れば動きが合っていれば術は発動すると夜行は言った。信仰する物がなくても使えると。

だが、俺にはできない。


正確な型が出来ていないのだろうか。

それとも何か。

まだ俺には足りない何かがあるのか。


夜行は多くを語らない。

俺は自分で気付かなければならない。


…ハードル高いよ。




何時の間にか眠っていた。

ベッドからゆっくりと起き上がる。

うおお。体中が痛い。最近は運動をする事にも慣れて来ていたので、こんなに痛むのはしばらくぶりだ。

慣れない姿勢を保とうとするのが、変な所に力を入れて身体を使う事になっているのだろうな。


自分の部屋を出てリビングに向かう。

そこに起きている夜行がいた。

天井の光は消し小さなろうそくを付けて、何かの書き物をしている。

その筆が書いているのは、術用の札だった。


さらさらと聞こえる紙に擦れる筆の音以外は、外から聞こえる小さな虫の声だけで。

綺麗な光景だった。


暫くして、夜行の筆が止まる。


「…いったい何時まで見ているんだ。」

「あ、うん。」


そりゃあ気づきますよね。


「疲れは取れたか?」

「…体中が痛いけど、疲れは無くなったかな?」


俺が言うと夜行が頷く。


「そうか。身体を鍛えたかいがあったな。」


そうだなあと俺も思う。

以前の俺だったら、三日は起きられなくて修行が嫌になっただろう。

身体を鍛えるだけの日々があったからこその回復力なんだろうな。

夜行の前に回り込んで座る。

書いている札には触らずに、それを眺める。


「…気になるか?」

「ああ。…夜行は術式を自在に操れるのに、何で札なんか使うのかなって。」


その言葉を聞いた夜行は、あからさまに苦笑を浮かべた。


「俺は万能じゃない。」

「ええ?すっごい完璧チートだと思っているけど?」


はあ、と溜め息を吐かれた。


「…術式を使う為には、信仰している神の力を借りる方が楽なんだ。」

「へ?そうなの?」

「ああ。」


そうなら、俺はどれか信仰した方が良くないか?

あんなに駄目なんだから。


「ただ、信仰を元に使うと制限が多くなる。その神の認めない術式は一切使えないといったような。」

「…それは不便かなあ…。」


呟くと夜行が頷く。


種類を限定されるのは、それだけで相手取る妖たちに隙を見せる事になるだろう。ましてや同じ術者同士の戦いだったら弱点を見破られた時点で負けは決まる。


「…だから、信仰しないで術式を使うとなると、札が必要なんだ。」

「何で?」

「…札が祈りと同等の力を発揮する。」


へえ。

この札にそんな力が有るのか。


「…だから、札を書くときは真摯な気持ちで書かなければならない。」

「うん。分かった。」


俺が頷くと、夜行もこくりと肯いた。


ろうそくの光の中で、夜行の髪が鈍い光を反射している。

白い肌は陶器のように見えて、美しいと目を離せなくなった。

俺の目線に気付いて、夜行が見返してくる。

瞳に仄赤い光が照りかえっていて神秘的だった。


ああ。

俺本当に、彼が好きなんだなあ。


ろうそくの光の揺らぎの向こうに、何かが見える。


少し俯き加減の姿。手にはスマホを握っている。

俺を見上げてきて、照れたように赤い顔で笑った。

それが何とも可愛くて、俺は嬉しい気持ちで満たされていく。


夜行のように見えるけど、この人は。



パチンと音がしてリビングの電気がついた。

明るい部屋の中振り返ると、ミサちゃんが変な顔をして立っていた。


「二人して薄暗い中で何してるん?」


怪訝な顔に何かの疑惑が浮いている。

いやいや。BLじゃないからね?って?

あれ?言い訳はできないか?俺の気持ち的にはBLなんだろうか?


「札の話をしていた。」


夜行が冷静にミサちゃんに返事をする。

その手元を見て顰めていた眉を元に戻したミサちゃんは、夜行の隣に座る。


「炎の術式が多いんね?」

「…多分使うだろうから。」


端的に答える夜行に、ミサちゃんが首を傾げる。


「そんな依頼があったん?」

「…いや。…勘だ。」

「夜行の勘は当たるから、必然と言えばそうなんやろうね。」


俺はそんな二人から視線を逸らす。

いや正確には、パジャマ姿のミサちゃんから目を逸らしたのだが。男の前でする格好ではない気がしますよ?姫?

しかし夜行は慣れているのだろう、平気な顔で隣のミサちゃんに対応している。


俺としては。


立ち上がると二人が見上げてくる。


「まだ夜中だし、もうちょっと寝るわ。」

「そうか。」

「おやすみなさい、冴羽さん。」


二人の声に送られて自室に戻った。


……。

あれは反則でしょ。

俺は男なんだし。上の下着を付けないでパジャマとか有り得ないし。

何で夜行は平気なんだ!?

あんな鋼の心が欲しい。


ベッドにもぐりこんでから、己の別の修行の足りなさに涙が出そうになった。





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