雪渓領へ
照合作業によって、ゴドウィンの不正の輪郭はほぼ明らかになっていた。
だが、最後に確かめなければならないことが残っていた――セドリック自身の、本当の姿だ。
「私も、ご一緒させていただけないでしょうか」
スカーレットのその申し出に、モナークは一瞬迷った。
だが、これまでの調査を共に進めてきた彼女になら、真実を共に見届けてもらいたいという思いもあった。
「……危険を伴うかもしれない。それでも構わないか」
「セドリック様は、私の婚約者です。真実を知る権利が、私にもあると思っております」
その言葉に迷いはなかった。
モナークは頷き、腹心の騎士ヴォルフとともに、スカーレットを伴って北の雪渓領へと向かった。
早馬で五日。到着した頃には、一行の外套は白く凍りついていた。
領主館の周囲には見慣れぬ紋様の結界石がいくつも配置されており、モナークとヴォルフはその不自然な配置に眉をひそめた。
「公爵家当主代理、モナーク・ヴァイスハイト様がお越しである。門を開けよ」
対応に出た若い家令は明らかに動揺していた。
「あいにく、ゴドウィン様は所用で王都に向かわれたばかりで……セドリック様は本日、お加減がすぐれず、面会は――」
「面会謝絶、か。いつものことだな」
モナークは家令の制止を振り切り、記憶を頼りにセドリックの部屋へと向かった。
スカーレットも、緊張した面持ちでその後に続いた。
重い扉を開けると、そこは薄暗く、香の匂いが立ち込める部屋だった。
寝台に横たわる青年の姿が、灯りに浮かび上がる。
「……兄上?」
弱々しいが、確かな驚きを含んだ声だった。
モナークは、十数年ぶりに間近で見る弟の顔に、言葉を失った。記憶の中のセドリックよりも、ずっと痩せ細っていた。
そしてモナークは、あることに気づいた。
セドリックの首元に、見覚えのない銀の首輪のような装身具が嵌められていたのだ。
複雑な魔法文様が刻まれた、明らかに市販品ではないその品は、かすかに青白い燐光を帯びていた。
「セドリック、それは……」
「これですか……? 治療のための、大切な魔具だと、ゴドウィンが……」
同行していたヴォルフが、慎重な手つきでその装身具を検分した。
「モナーク様……これは、治療用の魔具ではございません。魔力を吸い上げるための、封魔具の一種です」




