届く手紙の数々
一方その頃、王都の公爵邸では、モナークが思いもよらない事態に直面していた。
スカーレットとの一件から半月ほど経ったある朝、家令ロイズが困惑した様子で執務室に現れた。
「モナーク様。……また一通、苦情の書状が届きました」
「また、とはどういうことだ」
「実は、ここ十日ほどで、これで四通目になります」
差し出された書状に目を通し、モナークは眉をひそめた。差出人は、王国南部に領地を持つとある伯爵家だった。
「――一年前、ゴドウィン殿の仲介により、セドリック様の名において『雪渓領の魔晶石鉱脈開発事業』への出資を求められ、応じた。しかしその後、事業の進捗報告は一切なく、出資金の返還も、約束された利益配分も一切ない。誠意ある説明を求む」
「これは……いったい」
ロイズが次々と差し出す書状には、いずれも似たような文言が並んでいた。差出人は北から南まで、大小さまざまな貴族家に及んでいた。中には、スカーレットのように、婚約や縁談を材料に金銭や資源の提供を求められたという家すらあった。
「まさか、な……」
モナークの脳裏に、スカーレットの言葉が蘇った。
『婚礼衣装の格上げに始まり、嫁入り道具の追加、そして此度は当領地唯一の収入源である採掘権の十年譲渡。これらすべてが本当に、セドリック様の治療のためだけに必要なのでしょうか』
あのときは、家の利益を守るための言い訳だと切り捨てた。だが、もし彼女の言葉が真実だったとしたら。
「……ロイズ。この一月の間に届いた、雪渓領やセドリックの名に関わる苦情や問い合わせを、すべて集めてくれ。一通残らずだ」
「かしこまりました」
ロイズが下がった後も、モナークはしばらく執務机の前で動けずにいた。
(もし、俺が間違っていたのだとしたら)
弟を守ってきたつもりだった。だがその「守り」の名の下で、実際に何が行われていたのか、モナークは一度も自分の目で確かめたことがなかったことに、今更ながら気づかされていた。
そして同時に、あの日切り捨てた令嬢の顔が、なぜか繰り返し脳裏に浮かんで消えなかった。




