王都への手紙
ゴドウィンを通さずに公爵家へ直接連絡を取るのは、慣例からすれば異例のことだった。
だがスカーレットは、このまま黙って要求に従い続けることも、かといって無闇に拒絶して破談を招くことも、どちらも銀嶺の民のためにならないと判断した。
ヴァイスハイト公爵は数年前から体調を崩し、社交の場にはほとんど姿を見せなくなっていた。
実質的に公爵家を切り盛りしているのは、長男であり跡継ぎのモナーク・ヴァイスハイトだと聞いている。
スカーレットは会ったことのないその人物に向けて、慎重に言葉を選びながら手紙をしたためた。
「拝啓 モナーク様。突然のご無礼をお許しください。私はセドリック様の婚約者、スカーレット・ラングドンと申します。此度、ゴドウィン様よりお申し出のございました件につきまして、当家として真摯に検討をいたしたく存じますが、いくつか確認させていただきたい儀がございます。
まず、セドリック様のご容態について、直接のお言葉を賜りたく存じます。数年前より、いただくお手紙の内容が簡素なものとなり、お加減が思わしくないのではと案じております。また、此度の採掘権譲渡のお申し出につきまして、公爵家として正式にご了承いただいているものか、念のため確認させていただければ幸いです。
決して疑いの念からではなく、両家の永きにわたる誠実な関係を大切に思うがゆえのお願いでございます。何卒ご容赦くださいませ」
何度も書き直し、角を立てぬよう、しかし要点だけは逃げずに書いた一通だった。
それを信頼する使者に託し、王都へと送り出したのは、それから三日後のことだった。
返事はすぐには来なかった。十日、二十日と過ぎるうちに、スカーレットの不安は募る一方だった。
その間にもゴドウィンからは二度の使いが来て、採掘権譲渡の返答を急かされた。
スカーレットはそのたびに「公爵家本邸への確認をお待ちしている最中である」と、はっきり伝えた。
そして一月ほど経ったある日、王都の公爵家本邸から、正式な使者を伴った招待状が届いた。
「――公爵家当主代理、モナーク・ヴァイスハイトは、ラングドン辺境伯令嬢スカーレット様に、公爵家本邸への出頭を求める」
招待状というより、召喚状に近い硬い文面だった。
スカーレットは、それを読みながら、これから起こることへの覚悟を静かに固めていた。




